第111話
アネモネがもしかしたら魔人の赤ん坊かもしれない。
だがアクセルからアネモネを引き離すようなことはしなかった。
アネモネは他の赤ん坊と変わらない。
ミルクをよく飲んでよく寝る。
外見も他の赤ん坊と変わらない。花柄の瞳以外は。
「それにしても美味しいパンね。他のパン屋もこれぐらい美味しく作れるようになったのなら、アタシの商会が投資してパン祭りを開催してもいいかもしれないわね」
「ベルちゃんの商会でありますか?」
「そうよ。主の商品は化粧品だけど、一番の売れ筋は、月の障り用の使い捨てパッドよ」
「使い捨てパッド! ベルちゃんの商会でありましたか! エリュも愛用しているであります」
「あら。ありがとう。女性の従業員の声で開発したのよ。アタシそこまで目を向けていなかったから目から鱗だったわ」
「月の障り用だけじゃなくて、尿漏れ対策にも使っている人がいるでありますよ」
「そうみたいね。月の障りが終わった年齢でも使っている人も多いから、軽失禁用パッドの開発をしている所よ」
「さすがベルちゃんであります」
二人は月の障りを恥ずかしげもなく会話をする。
耳に入っているステラは顔を伏せて赤らめる。
「どうしましたか?」
エドモントがそんなステラに声をかけた。ステラはエドモントに顔を上げた。
「何でもないです。あ、あの、パン美味しいですね」
「そうですね。ここまで変わるなんて思ってもみませんでした」
「お仕事は大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫ですよ」
二人は黙り込む。
ステラはもじもじとエドモントを見た。
「あの。今日、会えて嬉しいです」
エドモントは優しげな眼差しで、そうですか、と答えた。
パンを齧るトトトゥーナは、シグレがいないことに気がついた。シグレも誘ったのだ。
「シグレは?」
ムイフレスを見る。ムイフレスは思い出すように言う。
「孤児院に興味があるようで、住み込みで働いているようだ」
「今日のこと誘ってたの」
「知らん」
「薄情なの」
「トゥ以外どうでもいい」
そのとき顔を青くするトトトゥーナにムイフレスは顔を覗き込む。
「どうした?」
「呼ばれたの。今も呼んでるの」
ムイフレスは眉を寄せた。
「誰に呼ばれているんだ?」
「ポヌリス」
その名前にムイフレスはトトトゥーナを抱き抱えた。
「何をするか分からないの」
「放っておけ」
「ムイ。ムイもきてなの」
「もちろんだ」
ムイフレスは店を出る。それをリデルエリエーゼは見ていた。
店を出ると、フードを被った者がシグレを捕らえているのを見るのだった。




