37話 希望の光よ
アデルたちは街で交戦を繰り広げ続けていた。遂に限界がきたアデルはオーバードライブを発動し、窮地を脱した。一方転移門では大聖女が到着していた。
城壁では未だ苦戦を強いられていた。原点者は一匹一匹確実に敵を竜から落として侵入を防いでいた。それに続いてエミート率いるガンティル部隊も威嚇射撃に方針を切り替え、牽制している。空中は乱戦に突入した。
「怯むな俺に続け!」バルバトスは懸命に原点者へ突撃をするが地面から勢いよく出現した岩壁に妨げられる。
「くそ!岩なのに粘土みたいだ。」バルバトスは巧みに自分の竜ラギドルを乗りこなし、上空へ旋回する。
「チッ、小賢しいやつめ。」原点者は岩片を操り空気が裂けるヒューという音をたてながらバルバトスへ向けて飛翔していく。
「ドラゴンブレス!」冷たいラギドルの首を擦り紫色のブレスが吐かれた。岩片は塵へと化し、バルバトスへ届かずに消えていった。
「ここまで強いと悪魔と戦ってる気分だな。何かやつを止める方法はないのか。」原点者は文句を吐くが横槍が飛んできてそれどころでは無かった。
「仕方ないのう。全員まとめて吹き飛ばしてくれる。」原点者は両手のひらを高く空へと掲げると力強く唱えた。
「アースブレイクフィールド!」すると原点者を中心に卵サイズの岩が四方八方に生成され浮遊し始めた。
「なんだこれは?」すると岩片は原点者を中心にゆっくりと円を描くように横へ動き出しいつしか人を貫く程の速さへと変わっていた。
「早くそこから退避しろ!」バルバトスの警告虚しく、仲間は竜もろとも岩片が貫通し下へと落ちていった。バルバトスも距離を置きながら矢を飛ばすが、岩片によってへし折られてしまう。原点者はバルバトスへ鋭い視線を向けた。
「来い小僧、どっちが上か分からせてからあの世へ送ってやる。」原点者はニヤリと笑うと岩片をバルバトスへ向けて放った。
「おいおい嘘だろ。飛べ!ラギドル!」彼の竜は全速力で羽ばたき主人を攻撃から退かせた。バルバトスは足を固定し、両手を縄へ 力いっぱい掴み背中にしがみついた。無数の岩壁と岩片をくぐり抜け何とか射程から抜け出すことに成功した。
「あの岩片の速度、弾丸かよ!生きた心地しなかったぜ。でも流石に注意は反らせたかな?」バルバトスの言葉にしまったと思った原点者は後ろを振り返る。バルバトスとの戦闘に集中しすぎていくつかの竜を城壁内へと入れてしまった。
「どうするかのぅ後続を防ぐか今侵入したヤツらを撃破するか。」その時感覚が覚えている懐かしい気配に気づき、ある男の言葉を思い出した。
「君はもっと他人と協力した方がいいと思うけどなー」たわいもない一言。しかし、今の彼女にとっては重要な思い出の中の一言だ。
「エミート!妾が帰るまでここを死守しろ。良いな!」原点者の言葉に無茶なと言いかけたエミートだったが言葉をのんだ。
「分かった!だが長くは持たねえ、早めに頼みますよ原点者殿。」彼に敬う気持ちがあるのだろうかという考えは内に秘めておいた。原点者はそのまま転移門へ意識を飛ばす。
「聞こえとるかバカギツネ、ケストレア王国全体に結界を貼って欲しいのじゃが頼めるか。」バカギツネとは大聖女のことである。
「何年経ってもその呼び名は変わらないのですね。全く失礼しちゃうわ。」大聖女の呆れと諦めの気持ちが声に乗っていた。
「それでできるのかできないのかどっちじゃ?」原点者の質問にフッと鼻で笑った。
「あたしを誰だと思っているの?これでも若かりし頃からの仲のはずなんだけど、長い間会わないうちに忘れちゃった?おばさん!」大聖女は皮肉たっぷりの言葉を原点者に先程の仕返しに送ったが、原点者からは意外な言葉が帰ってきた。
「感謝する。」そう言って通信を切った。
原点者はバルバトスに眼を飛ばすと、そのまま壁内へ飛び去っていった。バルバトスも追おうとするが竜のラギドルが限界を迎えたらしくゆっくりと下へ落ちていっている。
「ありがとう良く頑張ったな」バルバトスは首を撫でてやった。まもなくしてケストレア王国全体に純白の神秘的なベールが降ろされた。
一方パドルギア帝国の作戦本部にいるセイゲル達の耳にもこの知らせは届いていた。
「なんと!?ケストレア王国の援軍に原点者様が向かわれたのか?」セイゲルは驚きのあまり持っていた紅茶のカップを落として割った。
「それだけではありません大聖女様も聖騎士を連れて向かったと先程報告がありました。」その報告だけでセイゲルは二人がアデルが目的で向かったのだと、すぐに気づいた。
「英雄の目覚めか。」ガイアスはボソッと呟く。セイゲルは困惑していた。
時間はディジェクラント王国での緊急会議後まで遡る。セイゲルはファーゼンと会話していた。
「現場での生徒の指示まで任されるなんて驚きだ。」ファーゼンは統括局からの任命に驚いているらしい。
「過去の君の軍功から見れば君が適任だと思うがね。むしろ生徒のためだけに就くのは勿体ないと思うがね。」セイゲルはファーゼンの肩をトントンとたたく
「君の弟子の命は荷が重すぎる。統括局の面々は今回の戦場で彼の英雄の目覚めを期待している。そうだろ?」英雄の目覚め。それは世界がアデルを英雄と認識する。アデル自身にも相当な負荷をかけることになる。またその負荷に耐えられなかった場合は死に至るリスクまである。それほどこの現象は危険とされている。。
「正直アデルは耐えられるのか?」ファーゼンの問にセイゲルは即答できなかった。むしろ考え込んでしまった。
「分からん。だからこそ今、目覚めさせるわけにはいかない。アデルを失ってはいけないのだ。だから無理を承知で頼む。アデルをできる限り後方で戦闘の少ない場所へ配属してくれないだろうか。」セイゲルはファーゼンに頭をさげる。ファーゼンはため息をついた。長い沈黙が流れる。
「昔からの仲だろ。頭なんて下げなくても最初からそのつもりだ。任せろ。」ファーゼンはセイゲルの両肩を掴んだ。
「だが戦いが終わったら酒の誘いはさせてもらうからな。」ファーゼンは笑いながら条件を付け足すのだった。
アデルは燃え盛る炎の中を走り抜け次々に敵を倒していた。彼は不思議な感覚に陥っていた。体が軽く、とても疲労を感じない。
「誰かあいつを止めろ!このままだと全滅しちまうぞ。」前や左右の路地、後方の店、屋根の上と360度同時に敵が攻撃を仕掛けてくるがアデルは予想外に高く飛び上がる。
「うそぉ」敵が瞬きする頃には視線が宙を回っていた。アデルは剣を後方へ一振3人の剣を粉砕した。すると左手の人差し指を下に中指を上に交わらせる。
「手印法第11インフェルノ」まるで感情のない冷たい声で唱えた術式は周囲の建物をも吹き飛ばした。英雄が目覚めようとしていた。
オーバードライブの赤黒いオーラが白みを帯び始めた。
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次回は「想定外」お楽しみに




