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イニシエ  作者: 紡ぎ舞う者
第二章 教団戦編
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38話 想定外

各戦線に大聖女がケストレア王国に聖騎士を連れて出立したと一報が伝わる。セイゲルはアデルの英雄の目覚めが迫っていることを危惧した。

身を潜めていたシーラは外が騒がしくなり始めていることに気づいた。倒壊しかけた家屋の隅でカミラを守りながら外の様子を伺う。

怒声と爆音が煤と埃を落とし、シーラの頬を掠める。差し込んでいた光もいつしか消えて幼きカミラの体は震えていた。

「必ず助けが来る。だから大丈夫だよ。」シーラは励まし続けた。すると、少しではあるがカミラの体の震えが小さくなったように感じた。シーラもまた震えそうになっていた。もしかしたらこのまま助けが来ないかもしれない。そんな考えが何度も頭に浮かぶ。何より彼女は攻撃手段を何一つ持っていない。この状態で敵に見つかってしまえば為す術なく殺されるだろう。シーラは神聖術で結界を施し外部との隔絶をはかった。長い時間が流れるにつれて戦闘の激しさが増しているのが分かった。すると走る足音が徐々に近づいて来た。シーラは警戒するが対策する暇もなく扉は勢いよく開いた。

「シーラ!いるか?」トウヤの声が聞こえた。シーラは慌てて結界を解いて立ち上がる。

「います!」彼の姿は見るからにボロボロで制服も切り傷が見える程に破けていた。トウヤはシーラとカミラの存在に気付くとすぐ近くまで駆け寄ってくれた。

「よかった。念話が繋がらないからもう死んだんじゃないかって心配したよ。」シーラの結界は本来なら魔法に干渉するのだが、生存本能からかトウヤの念話も精神干渉の術式と判断され防がれていたようだ。

「二人とも歩けるか?」トウヤはやや焦った様子で二人に聞いた。

「問題ありません。それよりトウヤさんの方が傷だらけじゃないですか。」シーラの立ち上がりながらの呟きにトウヤは優しく返した。

「心配は要らない。ただのかすり傷さ。それより早くここを離れた方がいい。今国内にさ竜が侵入してきていてドラゴンブレスで端から家屋を倒壊させられてるんだ。」トウヤは二人を連れて急いで建物から出た。シーラは外の様子が隠れる前の光景と明らかに違うことに気づいた。黒煙が日を隠し家屋や学校の半分が火の海に飲み込まれていた。

「レオ、ロキ。シーラを発見できたから君たちも避難してくれ!他のみんなもアルバン教団を牽制しつつ転移門まで後退してくれ!」トウヤですらこの分の悪い状況を打破するのは困難なようだ。

「了解。」みんなが返事をするなか一人だけ返答がないものがいた。

「アデル?大丈夫なら返事をしてくれ。」音が途切れたまま全く繋がらなかった。次の瞬間だった。突然先ほど出てきた建物が屋根から崩れ倒壊した。

「離れろ!」トウヤは二人を庇いながら路地に駆け込んだ。砂煙が晴れると3人は壁から顔を覗かせ、瓦礫の中からアデルが這い上がる姿を目にした。

「アデルだよな?」トウヤが聞くのも無理はない髪色は茶髪から白髪へ変色し、オーバードライブであろうオーラも赤黒さがすっかり無くなり、赤単色の綺麗なオーラへと変わっていた。どう見ても別人だったが顔と制服でなんとか判別できた。

「トウヤか、ごめん竜に吹き飛ばされた。」

覇気のこもっていない何とも言えないトーンの言葉はどこか不気味な雰囲気があった。

「ごめんとかの問題じゃない。とにかく傷を見せて。」トウヤはアデルのもとへ向かい肩を貸した。しかし驚くことに目立った傷どころかかすり傷でさえ全く見当たらず、トウヤは骨が折れていないかも確認したが特に問題はないようだ。

「くすぐったいよトウヤ。あんまり触らないでくれ、むず痒い。」信じられない。竜に飛ばされて無傷で済んでいることに動揺していた。アデルの身に一体何が起きているんだ?

「それよりリーアが危ない。上空からだったけどかなりの人数に囲まれてた。早く助けにいかないと。」アデルはすぐさま人間とは思えない跳躍力で空高く跳ね上がり、リーアの方へ向かう。

「おい!待ってシーラに軽くでも治療を、」しかしアデルはもう遠くへ行ってしまった。

「死ねぇぇ!」剣と剣の激しく交差する金属音が辺りに響く。リーアは華麗な剣捌きで次々に敵を倒していった。突き、受け流し、斬撃というレイピアの利点を最大限活かしつつ立ち回ってはいるものの数がとにかく多い。

「リーア上手く避けて!」上空からの声に全員が見上げた。

手のひらを頭上に挙げる白髪の少年が居た。

「手印法第24インフィニティ一プロミネンス」白き光線が天から地へ降り注がれた。

「ちょっと巻き込むつもり!?」リーアは文句を吐きながらも向かってる味方の攻撃を素早く躱し敵を一掃した。アデルが着地するころには全ての敵が倒されていた。

「あんたねぇ誰だか知らないけど私の名前を呼び捨てするん、じゃ・・・アデル?」リーアもまたアデルの変容に驚いた。

「悪いリーア。数的にこっちの方が助けられるかなって思ったんだけどって、どうしたそんな他人を見るような顔して。」アデルの質問にリーアはツッコんだ。

「どう見たって別人でしょうが!」それと同時にアデルから紛れもない強者の威圧も感じられた。だがこれほどまで凄まじいオーラを人間に出せるのだろうか。

「とにかく安全な所へ行こうみんなも避難してるみたいだし。」リーアは考えることは後回しにし、今は生き抜くことを優先と自分に言い聞かせた。

「上空は今どうなってるか分かるか?」トウヤの念話での質問にピトが返した。

「多分強力な結界がケストレア王国全体を包んでいるよ。竜の数が7匹から増えてないから。」ロキも走りながらこれに答える。

「それと原点者が上空で戦ってるのを見た。なんでいるのかは謎だけど。」確かに過剰戦力ではあるが竜が殺せてないとは相当な手練のようだ。

「とにかく今はみんなと合流しよう。」トウヤは集結場所を近くの商店街へと定め、アース族全員が動いた。


セイゲルは悩んだ。自分が助けに動けばパドルキア帝国の防衛も危うくなるやもしれんと。しかし、横にいたガイアスはそうは思っていなかったらしく軽くセイゲルの背中を叩いた。

「弟子が心配ならそっちを助けに行ったらどうだ?」

「じゃがお主だけで守れるほど敵も削り切れてはおらぬぞ。」背中を押してくれるのはありがたいが、油断できないのが今の状態だ。両者ともに損失を恐れて膠着している。また再進撃されたときガイアスのみで耐えうるか。

「余計な心配してんじゃねえよセイゲル。あの頃のちっぽけだった俺とはもう違うんだ。無理をしてでも防いでみせるさ。」ガイアスは作戦本部のテントの幕を挙げる

「弟子を心配しない師匠がいてたまるか。ここは俺、近衛団長のガイアスに任せてセイゲルはケストレア王国に向かってくれ。」ガイアスの言葉で決心がついたのかセイゲルは一言口にした。

「感謝する。」


38話ご覧いただきありがとうございます。是非感想と評価よろしくお願いいたします。

またX(旧Twitter)にて投稿の告知をしています。是非フォローをお願いします。

次回は「覚悟」お楽しみに。

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