35話 苦難を越えて
エミート率いるガンティル特殊部隊がケストレア王国正門に到着した。再会するファーゼンとエミートしかし、ブラッディーバインドは近くまで来ていた。そしてその中にはウォルゼンの戦友バルバトスがいた。攻撃を躱しながら迫る彼らに突如原点者による攻撃が直撃した。
ケストレア王国の中央ではアデルたちアース族とバレッサ先生がアルバン教団を足止めするため奮闘していた。
「こいつら学生のくせに強いぞ!強いやつらはディジェクラントで倒したんじゃなかったのか?特にレイピアのあの女、神速のせいか動きが目で追えねぇ。」リーアは戦場を駆け抜け、敵を次々に倒していく。
「ダメだ、邸宅に向かった仲間と連絡がつかねぇ。白銀のレイピア使い、そのガキはおそらくフリッグの令嬢だ。」リーアは動きを止め距離をとる。
「だったら何だと言うの?大人が束になっても勝てないなんて情けないわね。」冷たい表情で言い放った彼女の言葉に敵はキレた。
「クソガギが!」正面から敵が襲いかかる。
「真技」リーアは剣を持つ右手を大きく自分に引く。敵は周囲の時間がまるでゆっくりになる感覚に陥った。リーアは一呼吸おいて唱えた。
「ストベラカノン」鼓膜を破るような音が響くより先に眩しい桃色の閃光が敵を塵に変えた。この先にある納屋や住宅もすべて消し去った。真技はそれぞれの役職の奥義に相当し、読んで字の如く一撃必殺の攻撃である。レイピアの真技ストベラカノンはその名の通りアデルの母ストベラがまだ近衛の団長でいた頃に編み出した術式だ。前方から来る多数の敵に対して打ち出す多対一想定の技であり起死回生を持っていた当時のストベラはこの技を無限に放っていた。
「おら来いや!」後ろではクロウが屈強な男と殴り合いをしていた。クロウは相手が守りに徹してることをいいことにひたすら殴り続けている。敵も動くことなくクロウの攻撃を真正面からガードし続けている。
「くそ硬いなこいつ!」クロウは文句を言いながら足を振り上げる。近くの薄暗い路地裏ではピトが罠を仕掛けながら逃げ回っていた。
「男のくせに逃げるのかい情けないね。」ナイフや包丁、鎌を持った敵が血眼になって追ってくる。先ほどから罠に引っ掛かり続け皆怒りが爆発しているのだ。そうこうしているとついに行き止まりまで追い詰められてしまった。
「さあもう逃げられないぞ!散々痛ぶってくれちゃってさ、ただで死ねると思うなよ。」敵の一人が鎌を振りかざす。
「僕が逃げてたように見えたみたいだけど君たち誘いこまれたんだよ。」敵は力いっぱい鎌を振り下ろしたが手からすり抜けた。一瞬手汗で滑ったと勘違いしたが、鎌は宙に浮いたままだ。
「暗闇は僕ら闇属性の十八番だぞ。」ピトがそう告げると鎌は回転しながら男の頭に突き刺さった。敵は怯え足を少し下げた。
「逃げられないよ」ピトは足からナイフを取り出し見事な投擲術で敵を制圧した。
「怖かった。」ピトは内心怯えていた。というより抵抗があった。相手は魔物でも亜種族でもなく人間だ。僕は今味方を、いずれ守るべき存在を殺している。こんな痛みは二度と味わいたくないとピトは思った。しかしピトは自身以上にアデルを心配していた。彼は亜種族にさえ情けをかける。
「アデル、油断して致命傷を負っていないといいんだけど・・・」ピトの予想は当たっていた。路地裏を抜けた商店街でアデルとバレッサ、奥の方ではトウヤが戦っていた。
「アデル大丈夫?」いつものような少年呼びではなくややピリついたバレッサの姿がそこにはあった。艶やかでない声色は彼女に余裕がないことの表れだった。
「平気です.!それよりこの人たちは人間なんですよね?」アデルは向かってくる敵に剣を交えながら聞いた。
「今はそんなこと気にしなくていいわ。それより今は自分の命を優先して」確かにこの人数差はあまりに油断できない。もっと周りを見ていないと足元をすくわれてしまいそうだとアデルは思った。
「アデル避けろ!」トウヤの念話が瞬時に脳へ響いた。背後から無数の矢が飛んできていた。
転移門には多くの避難者が列をなしてディジェクラン王国へ逃げようとしていた一般市民から商人、貴族に至るケストレア王国の8割近くが留まっていた。
「まだ移動できないのか⁉早くしてくれ!」
「どけ!俺が先だ!まだ死にたくねえんだよ!」
「下民は下がりなさい!貴族が優先に決まってるでしょう!」
「そんなのあるわけないだろ!」転移門は大勢の怒声でパニック状態に陥っていた。当然アルバン教団も住民の退路を塞ぐため多くの人数を襲撃に向かわせた。
「いた!ご丁寧に固まってやがる。」複数人のアルバン教団が物陰や建物から顔をのぞかせていた。
「これからどうするの?」女性の声が後ろでリーダーに指示を仰ぐ。
「あ?計画通りだよこのまま爆裂術式で、」振り返るとそこには死体が倒れていた。男は冷や汗をかき血がサーと抜ける感覚に陥った。
「楽しそうなこと考えるじゃない。私も混ぜて。」建物の影で顔が見えないがエメラルドグリーン色のグリップにバラの花と茎が細工されたガードのついたレイピアの剣身が見える。
「嘘だろ!」次の瞬間建物の上から人影が飛び降り男の背中を切り裂いた。
「嘘だろ・・あり、得ない。」男が最後に見たのは見た目はシンプルなものの中心に埋め込まれている神聖石にはどこか人を引き寄せる輝きの放つ剣だった。
「こいつらで最後かストベラ?」飛び降りてきた人影が問う。
「ええ、そのはずよ。気配がなくなったと思う。さっき建物から飛び降りてたけどあまり無茶はしないでくださいねあなた。」なんと転移門の護衛をアデルの父と母が担っていた。数時間前二人は避難勧告の出た後真っ先に王宮から招集をかけられていた。剣神と元団長というふたりの肩書は引退しても尚影響力が高いらしい。
「まあ王様の期待には応えないとな。あの方には借りがあるし。」エドレスは後頭部を搔きながら答える。
「アデルは無事かしら?」
「大丈夫あいつはディジェクラント王国にいるんだ。聞けばあの事件も無事生き残ったらしい。さすが我が息子だな。」二人は知る由もない。アデルが今ケストレア王国に戻ってきていることを。
「なぜあなたがこちらにいらしているのですか原点者様⁉」ファーゼンは驚きながらも一礼して挨拶をした。生徒もそれに続き一礼する。
「相変わらず固いな。君のいいところであり悪いところでもあるかのうファーゼン。」原点者は地上に降り立つと腕を組みながらファーゼンへ近寄ると顔をじっと見つめる。
「おぬしも老けたのう。青年であったころを懐かしく思うぞ。」原点者が少し寂しそうに笑った。
「ほんで原点者よ俺らは護衛なんてできないんだからあんまり前に出てもらっては困るぞ。」エミートが割って入ってきた。
「あの羽虫軍団には因縁があるだけじゃ。もう一度羽根を折らねば気が済まなかったゆえ、ここまで来てやったのだ。じゃがまだやり切れておらんようじゃな。」原点者が放った技により発生した砂煙の先からバルバトスたちブラッディ―バインドは飛び出てきた。
「どうやら敵に相当な手練れがいるとみた。まだまだ楽しめそうじゃ」原点者は振袖を払い、深い笑みを浮かべる。
35話をご覧いただきありがとうございます。
是非感想と評価よろしくお願いします。
またX(旧Twitter)では投稿の告知をしています。フォローといいねよろしくお願いします。
次回は「大聖女」お楽しみに




