33話 悔やんでも
アデルたちアース族は教会で防衛戦を繰り広げていた。しかしパチルム族のウルもボロボロになり戦力が削られていくころディジェクランと王国で別れた。リーアが目の前に現れた。
リーアはディジェクラント王国を出立後、兄のラハン共に馬車で邸宅へ向かった。家を目前に二人は驚きの光景を目にした。門の前には親族や各国の高位な騎士の方々が死んだはずの父と母を囲んでいる。
「止めて今すぐ!」リーアは馬車の扉を勢いよく開けて走り出した。ラハンもその後に続いて飛び降りた。
「父上!母上!」リーアの叫びに気づいた父ヨハンと母のローズ、そしてその周囲にいた従者や騎士たちが一斉にこちらに視線を移した。
「リーア!」父が叫ぶのと同時にリーアは父に抱き着いた。
「こらこら皆様方のまえで、」父は戸惑いながらもリーアの背中に手をまわした。
「仕方ありませんよあなた、この子も私を騙る偽者が出したあなたの訃報を聞いたのでしょう?」隣にいたローズはリーアの頭を撫でた。
「良かった、生きてて本当に」泣きながらリーアはヨハンを強く抱きしめ続ける。
「父上ご無事でしたか!この状況は、、、」ラハンも安堵と戸惑いで膝から崩れた。
「二人とも無事で何よりだ。どうやら皆で状況を整理する必要があるようだな。集まってくれた皆様もどうぞ庭園の方へいらしてください。」一同はヨハンにつれられ庭園へと向かった。
「やはりそうか。」リーアたちの説明を受けヨハンは顎に手を当てて考えた。ここに来た全員がローズから手紙をもらい自分が死去したと報告を受けたことが分かった。
「しかし、ヨハン様が無事でよかった。あなた様が死んでしまったら誰が代わりを務められましょう。」人々は口々に同意する。
「とはいえ無かった事案として見過ごすわけにもいくまい。手紙の真の差出人を見つけねば。こんなにも有力者を巻き込めるとなるとよほどの人物なのだろう。」改めてリーアはあたりを見回す。父の知り合いは強い人が多いと聞いていたが確かに各国を代表する者や統括局の幹部、近衛でも腕の立つものが揃っていた。人々が沈黙する中、一人の従者が大声で叫んだ。
「大変です!各国に向けて亜種族の大軍勢が進行を開始したと淡霧隊が念話で話してきていす。」フリッグ家の邸宅は国から外れ山奥に建てられているため馬での移動が必須となっていた。
「まずいな、ここにいる全員ハメられたっていうのかよ。」
「早馬を出せ一刻も早く国へ帰るぞ!」
「馬車を呼び戻せ今すぐに!」人々は急ぎ戻ろうとしたが、いつの間にか現れた黒いフードを深く被った者に阻まれた。
「勝手に行かれては困ります。せっかく皆様お揃いなのですから。」笑い交じりの言葉はどこか不気味さを秘めていた。
「お前らここにいる者たちを誰だと思っているのだ。舐めたら痛い目にあうぞ」人々は武器をとり臨戦態勢に入った。
「はっははははアァァァもちろん存じてますとも。私たちがここに皆様を集めたのですから。一人で挑もうなんて思っていませんよ。」男は指をぱちんと鳴らした。するとさらに多くの人影が周りを囲むように現れた。リーアも剣を構える。
「我らはアルバン教団!セルリアの呪縛から人々を開放する者。」彼らは片手を振り上げ復唱する。
「セルリア様の加護を呪縛などと扱うとは何たる無礼か!」両者は睨み合い膠着状態となり互いに一歩動くことを待っている。不意に近くにいた鳥が羽ばたき、それが両者の火蓋を切った。一瞬で乱戦状態となったフリッグ家の庭園は、言わずもがなアルバン教団の血で染まっていった。数は多いが所詮は素人、案山子も同然なのだ。
「くそ!如何せん数が多い。注意しろ少し腕の立つやつも混じっている!」
「お前らできる限り長く留めろ俺らの役割は足止めだ。」アルバン教団の狙いは実力者を国に返さずここに留めておくことで各国を侵略しやすくしたかったのだ。実力の差は歴然であったものの、数による抵抗で亜種族が到着するまで留められてしまった。
「あまりに時間をかけすぎた。急いで国へ向かうぞ!」人々は自分の馬を走らせ、ケストレア王国を目指した。
「ラハン!リーア!我々も向かうぞ!」
「これがことの顛末よ。」リーアからの説明を聞いたアデルは安堵した。
「本当に無事でよかった。それでリーア今後はどう動く?」リーアが言い掛けたが、ロキの叫びで一同が凍りついた。
「竜だ!竜の群れが正門の方角から真っ直ぐ向かってきている。」アデルは一瞬でその竜が飼い慣らされていると悟った。
「亜種族だ。」竜が出てきた以上教会とて安心出来る場所ではなくなった。アデルたちはすぐに避難者たちの誘導をするべく教会の大扉を開ける。中は被害が少なくすんでいるようで安心しているのか寝ている者までいる。それとは裏腹にシスター達は教会の端から端まで看病で忙しい様子だ。
「皆さん聞いてください!現在この国が今一番の危険に晒されています。この教会も安全とは言えないでしょう。そこで皆さんをディジェクラント王国へ避難させます。転移門までの道中を我々が護衛します。」騒々しかった教会はリーアの言葉に一瞬で沈黙と化した。寝ていたものも起き上がり皆がリーアの言葉に耳を傾ける。
「それはつまりこの教会を捨てろと?」ハイラはリーアに怒り混じりの言葉を投げかける。
「ええ。現在空からの敵が襲撃を仕掛けてきています。相手は竜です、この教会もただでは済まさないでしょう。セルリア様の結界は魔力に強くても物理的攻撃は通してしまうのですから。」アデルは昔教会が竜によって崩された光景が目に浮かんだ。今回もその状況が危惧されている以上リーアの選択は最善と言えよう。
「私はこの教会と共に育ちました。私たちの身を安じて下さることとても嬉しく思います。ですがどうか、避難者の皆様を優先して、我々シスターはここに残り、前線の支援に行かれたベリアさんたちを待ちます。今ここを離れてしまっては後悔してもしきれません。」重く苦しい空気が漂った。リーアは説得しようと思ったが直前で口を塞ぎ踏みとどまった。
「わかりました。できる限り早く戻ってきます。」リーアは両手でハイラの手を握る。
「だから生きて、生きて待っていて下さい。」力強い眼差しにシスターたちの心は揺れ動き、コクリと頷くのだった。
リーアに先導されアース族は左右に展開しパチルム族を後方に配置した。シーラと一緒にいたカミラは教会に残ることを選んだ。
「いい子にして待っててね。必ず迎えにくるから。」シーラが頭を撫でるとカミラは体を擦り寄せた。
「さぁ行きましょう!」一同は転移門に向けて歩き始めた。ケストレア王国の全体が見えるようになった時、それはもうアデルたちが見知った景色ではなくなっていた。
「ひどいことするもんだねアルバン教団の連中は、」アデルの隣にいたバレッサ先生は言葉を漏らす。町に入るとその爪痕がよりひどく見えるようになった。辺りが妙に静かすぎると皆が警戒していた所、アルバン教団の連中が瓦礫の影から現れ始めた。
「止まって!」リーアの指示で一同は停止した。
「女、ここから先は通せない。かと言って逃がす理由も無いが。」既に後方にも敵が回っていた。何度も対峙して分かってきたが囲んで袋叩きするのが彼らの戦法らしい。
「力ずくでも通してもらうわ。」リーアは剣を抜き勇ましく立ち向かった。
「ウル!避難者を先導して先に転移門へ!ここは俺たちアース族が受け持つ!」トウヤの念話にウルは目で頷き隙を見て指示をだす。
「全員こっちに向かって走って!」それを敵が見逃すはずもなく塞ぎにかかる。
「逃がすな!塞げ!」リーダーらしき指示に二人が向かうが、
「させるか!」レオとロキが遠距離から攻撃し撃退した。そうしてパチルム族と避難者は包囲網を抜け出す事に成功した。この二手に分かれる選択を後悔することになるなど今の彼らは知る由もなかった。
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次回34話は「助け舟」お楽しみに。




