32話 攻守(後編)
各国で激しい戦闘が繰り広げられている。ガイアスとセイゲルは兵士をサポートし断片的ではあるが敵の情報を探っている。
攻守(後編)
舞台は再びケストレア王国正門の補給部隊でのことだ。亜種族は進行を開始せず遠方で待機した状態が半日つづいていた。
「何故攻めてこない罠を警戒しているのだろうか?」生徒の呟きにファーゼンは答えた。
「どんな理由だろうと一戦も交えずやり過ごせることに越したことはない。」しかしファーゼンにも疑念があった。もし万が一援軍を待っていた場合は人数的にこちらが不利になってしまう。
「補給部隊に通達です。暴徒の沈静化に成功。現在アルバン教団は国から撤退を開始したとのことです。各門、中から出る一般市民に目をひからせてほしいとのことです。」
「ご苦労様です。補給部隊も警戒しておきます。ところでディジェクラント王国の状況について何か報告はありませんか」ファーゼンは生徒が留まっている国の心配をしていた。各国が襲撃に見舞われる中、ディジェクラント王国のみ生徒への襲撃だけだった。向こうの思考が読めたら良かったのだが、敵の上層部の顔ぶれが一切見当たらないのだ。
「いえ特に聞いておりませんね。避難者も着々と移動してるみたいです。もしよろしければ確認しましょうか?」
「いや良い。特に来てないのなら良いのだ。」私情で戦場の情報網を狂わせてはいけない。ファーゼンはそれを恐れた為、あまり気にしないことにした。
「とにかく今は戦況を円滑に報告するのが最優せっ、」ファーゼンが言いかけたその時、遠くで人ではない雄叫びがケストレア王国の大地を揺らした。正門の上で観測をしていた兵士は思わず腰を抜かした。
「りゅ、竜だ!...赤竜と黒竜の混合部隊が上空に出現したぞ!」遥か遠方の水平線に生徒たちは、これまでの比にならない数の竜が空を赤黒く染めるのを目にした。
「ブラッディーハイド。久方ぶりにお目にかかれたのう。」他の兵士や学生が驚く中、ファーゼンは冷静だった。その他のシスター達や老兵士も驚いておらずむしろ怒りの目を向けていた。
「知ってるんですか?ファーゼン先生?!」
「その昔、大国を一つ滅ぼしたことがあるほどの破壊能力を持っていた亜種族の主戦力だ。しかし、とある隊によって壊滅的ダメージを与えたことで滅んだとされていたが、再編成して再び表舞台に姿を表すとは敵もよほど今回の襲撃に力を入れていると見える。何しろあれは魔族から提供されている最高戦力なのだから。」ファーゼンは振り返り伝達者に指示を出した。
「近衛特殊部隊!ロキ家直属のガンティル兵団を直ちに要請してくれ!奴らを撃ち落とせるのは彼らしかおらぬ!」ファーゼンはこれまでにない力強い声色で叫んだ。
「はい!すぐに要請します。」連絡隊がすぐさま本部に駆け込んだ。
「至急案件だ。各国の最優先ラインに伝達。ケストレア王国の遠方に赤竜と黒竜の混合部隊を発見!近衛特殊部隊に出動要請!」
戦況は念話による情報網によって把握と対応を担っていた。最優先ラインは一番のベテラン枠であり緊急事態の案件以外は基本的に待機している。ファーゼンの要請はすぐに全体へと共有がされた。
「なんだ!!出撃か!」とある国の軍室では100人にも満たない部隊が戦闘準備をしていた。それを取りまとめているのはエミート・ロキ。その男は煙草を片手に伝達隊に近づき問い詰めた。
「赤竜と黒竜だぁ?そんなのまるで俺達が打倒したブラッディーハイドみたいじゃないか。何寝ぼけたこと抜かしてるんだ?それを伝えたの誰だよ?」
「ファーゼンというケストレア王国の補給部隊を担当している男です。」
「え?先輩が!?」エミートはやや冷や汗を流し、顔を真っ青にした。
「お・・・お前ら俺が先輩を疑ったなんて誰にも言うなよ!」声もやや震え、完全に怯え切った様子だった。
「隊長〜それでどうするんです?ケストレア王国に向かうんでいいんですか?」彼の部下がそれを聞くとエミートは即答した。
「あたぼーよ!先輩に背いたらどんな罰が待っているか。」エミートは思わず身震いした。気を取り直して深く息を吐いたエミートは、片足のつま先で床をトントンと二回叩いた。すると兵士は一斉に立ち上がり、甲冑を纏って同じタイミングでガンティルを構えた。楽団のように統一された動きは目を見張るものだった。最後にエミートが甲冑ではなく茶色のカウボーイハットを被った。
「さぁおめーら、仕事と行こうじゃねーか。」エミートはニヤリと笑い、吸っていた煙草を床に落として靴で踏み消した。
少し時間を遡った教会では未だアルバンの襲撃が続いていた。外はウルが先陣を切って敵をなぎ倒し、メリア族がそれに続く。
「ここを死守するよ!」
「おう!」士気は今だ尽きることを知らない程上がっていた。しかし体力となれば話は別だ。全員が連戦で疲弊していた。みんながみんな武器を握っているのでやっとだった。ウルも度重なる怪我で弱っていた。
「仲間の仇!」敵が斧を振り挙げながら向かってきた。ウルは剣を逆手に持ち替えて姿勢を低く保ちながら向かう。斧が振り下ろされる直前で刃先を斜めにして受け流し敵の手首を切り落とした。その際に足運びを誤り姿勢を崩して膝を付いた。しかしその絶好のチャンスを敵は逃してはくれなかった。二人の追撃が疲弊したウルを襲う。
「ウル!」仲間のひとりが叫んだその時大きな声で駆け寄る少年がいた。
「弱い者いじめとは感心しないな!」直後二人の目の前にクロウが現れ、自ら手で攻撃を受け止めた。
「なっ!?」あまりの衝撃的な出来事に呆気に取られた二人をクロウはアッパーで仕留めた。
「メルト族はアース族と業務を交代だってよ。てか、」クロウはウルの満身創痍な姿を見て駆け寄った。
「お前、傷だらけじゃねぇか!立てるか?」ウルはふらつきながら何とか立ち上がった。
「無茶しやがって、メルト族の誰かウルを頼む!」すぐに仲間が駆け寄り肩を貸した。クロウはそれを見届けるとスキル剛体を発動させた。金色のオーラがクロウの体に纏う。
「さぁ、どいつから殴られたい?悪いが仲間を傷つけられた以上手加減はしてやれねえぞ。」クロウは拳を自分の手のひらに打ち付け挑発した。その音はとても拳どうしがぶつかったとは思えない鈍く重い音を発した。
「ガキが!舐めやがって!」敵はクロウ一人に数十人で立ち向かった。
「手印法第4束縛!」
「ディメンションウォーターアロー!」まるで事前に準備していたかのようなタイミングでアデルとレオの攻撃が敵に炸裂した。
「あんまり一人で突っ走んなよ神聖力だって無限にあるわけじゃないんだから。」アデルはクロウに向かって忠告した。
「わかってらい!それよりまだまだ来るぞ!援護頼むよ!」クロウは一目散に突っ込んでいた。
「レオ、俺も前に出るわ。サポート頼む!」アデルは剣を取り、そのままクロウのもとへと向かった。
オーバードライブ。
アデルの体に赤黒いオーラが漂った。二人は目の前にある障壁を砕き道を切り開いた。
「にしても数が多いな、一体前線はどうなっているのやら。」レオがぼやくと休憩していたロキが戻ってきた。
「少なくとも門は突破されてないはずだぞ。もし正門が突破されたならば被害はこれの比ではないからな。」ロキは辺りを見渡しながら警戒を続けた。ふと視線に黒い靄のような影が映った。眼を凝らして見ていたが、遠すぎてロキにはよく見えなかった。
「レオ、あの方角にある黒い靄みたいなやつ何?」千里眼持ちのレオに頼ることにした。
「黒い靄?あーあれか。なっ?!」レオは思わず声をあげた。
「何が見えたの?」慌てた様子のレオにロキは聞いた。
「俺の見間違いじゃなきゃあれは、全部竜だぜ。」ロキの顔も真っ青になった。
アデルとクロウは絶妙に息の合った戦闘を繰り広げていた。向かってくる敵を大勢相手した。
「どうした?どうした?もっとこいよ!」クロウは思っていた以上に元気だった。しかし突如冷気が背中からぐっと押し出された感覚の後に敵が一瞬で氷漬けにされた。振り返るとそこにはディジェクラント王国で別れたはずのリーアが立っていた。
「リーア?!どうしてここに、」言いかけた時リーアはすぐに切り替える。
「話しは後よ。それより避難者を連れて転移門まで退避しましょ!」
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次回33話は「悔やんでも。」お楽しみに




