31話 攻守(中編)
ケストレア王国を含め各国がアルバン教団の襲撃を受ける中すでに亜種族と交戦が始まっている国があった。
「こっちに怪我人がいるぞー!包帯とポーションもってこい!」パドルキア帝国の正門ではすでに亜種族との戦闘が激化していた。
「ここを突破されるわけには行かない!みんな耐えるんだ!」兵士達は自分らの持ち場で必死の抵抗を続けている。
「手印法第24インフィニティープロミネンス」やや年老いた声が乱戦状態の防衛戦に響いた瞬間。薄緑色の光線が亜種族の体を次々に貫いていった。
「諸君怯むでないぞ!亜種族など恐るるに足らん!守り抜くのじゃ!」パドルキア帝国の防衛軍を担当していたセイゲルは前線で戦っていた。劣勢ではないものの数の多さによって防衛線が押し切られそうな状態だ。セイゲルは羽を解いて地上に降り立った。その隣りへ背の低い緑のベレー帽とマントを羽織った女性が駆け寄る。
「セイゲル様お疲れ様です。少々お耳に入れてほしいことがございまして。」この女性は統括局の連絡要員として各地の後衛に配属された事務の方だ。わざわざ前線にまで出て伝えたい報告などとても緊急な要件らしいとセイゲルは思った。
「どうしたのじゃ?」セイゲルは返答をせかした。
「は・・・はい。現在各国ではアルバン教団の襲撃の沈静化に動いているようです。亜種族の軍が到着する前に完了できるとのことです。」
「ファーゼンのおかげで早めに対策できたのが功を奏したな。」セイゲルは一息ついた。
「次に淡霧隊の観測班から報告を受けまして第二波がこちらへ接近している模様です。正確な数は分かりませんが現在と同等の規模だと聞いています。」淡々と報告をする内容を聞きながら、セイゲルは戦っている兵士たちの精神を心配した。
「困ったのぅ。この規模が来ては疲弊ばかりが積み重なるぞ。」セイゲルの視線は前線から遠く離れた丘の上を見ていた。そこには大地を覆い尽くす程の大軍が待ち構えていた。
「こちらが5万に対して向こうは13万といったところかの。熟練と技術でしかわしらはその戦力を埋めれん。それにしても連中どこからこれだけの戦力をかき集めたのじゃ。他国にも同等の数が向かっているとすれば数が多すぎる。」セイゲルの言葉に女性は答えた。
「セイゲル様もうひとつ、ヴィシタルト国のガイアス様より伝言を預かっています。亜種族の中にエルフ耳と黒羽を隠した者を発見したとのことです。戦場で戦っていた際の見間違いである可能性のため視覚的情報が欲しいため千里眼で確認をして欲しいと。」女性が言い終わる前にセイゲルは丘の上にいる亜種族たちを凝視した。
「今まで種族の判定や数はグンダスがすべて引き受けてきたからのう。彼がいないことをまだ自覚できていないようじゃ。ガイアスにいや、全軍に伝えろ。亜種族は亜人、ダークエルフと堕天使の三種族からなる連合軍じゃ。まだ他の種族が隠れてるやもしれん。確認次第報告しろ」女性は頭を下げて後方に控えている通信班へと向かった。セイゲルは彼女を見送ると再び戦場に目を移す。敵情が一向に分からない戦闘の経験はセイゲルですら数少ない。今後どのような対応をしてよいか不安が募るばかりだ。
「無事でいてくれアデル。」セイゲルは言葉を漏らした。
ヴィシタルト国の正門
亜種族の大軍を迎え撃つべく7万の兵士が集結した。その先頭にはこの軍を束ねる屈強な肉体と自身と同じ大きさの大剣を備えた男が腕組みをして敵の到着に備えていた。近衛の団長ガイアスである。
「報告します。国内のアルバン教団の無力化を完了しました。合わせて支援通路の確保と物資も補給可能です。」ガイアスは側近からの報告を受けていた。
「そしてセイゲル様より報告があり団長の目は正しかったと。」ガイアスは
「ご苦労。さてそろそろ来るか。」一面が荒野となった大地の水平線上に黒い影が見え始めた。
「オギ、お前にこの軍の指揮を任せたいのだが頼めるか?」側近の青年は甲冑を軋ませながら深く頷いた。
「お任せください団長。くれぐれも無理をなさらず。」するとガイアスは鼻で笑った。
「あんな烏合の衆に殺されるほど年老いてはいないよ。」言い終えたガイアスは深く息を吸い全軍に向けて叫んだ。
「諸君!よくぞ呼びかけに答えてくれた!この戦いはヴィシタルト国の引いては人類存亡の危機と心得よ!我らが育った大地を家族を誰が奪う権利があろうか!この手でこの体で敵を打ち砕き祖国を守り抜いて見せようぞ!」ガイアスの言葉が戦場にいるみなを奮起させた。
「私が先陣をきって諸君らを勝利へと導こう!」ガイアスは大剣を抜き取り、天高らかに掲げた。
「セルリア様、我らに勝利を!」その掛け声と同時に門から開戦の笛が鳴り響いた。
「勝利を!」ガイアスの宣誓に合わせて兵士たちも宣誓した。ガイアスは一目散に走り出した。その背中を追うように盾兵、剣士、槍人、武士が続く。亜種族もその動きに気づいたのか防御陣形を組み始めた。
「弓隊、神聖術士、手印法士は術式を一斉射!味方に当てるんじゃないよ!」後方では女性の近衛が遠距離攻撃の指揮を執っていた。
「姉御!ポーションの支給がはいりやした。この量なら当分は持ちこたえられますよ。」
「よし!団長たち前衛を支えるよ!根性見せな!」
「はい!」力強い掛け声に兵士たちの士気が上がっていく。これが近衛が世界最強の軍隊と謳われる所以だ。
「どけーーー!」ガイアスが大剣を一振りした瞬間数十人の敵が宙を舞うように吹き飛ばされた。
「私に続け!」先陣を切ってガイアスは敵をなぎ倒していった。続く兵士も次々に敵陣へと乗り込み嵐の如く暴れまわった。
「すげーガイアス団長!一振りであんな人数を一掃しちまうのか。」
「俺たちも続くぞ!」この戦場にはミカエラ会などの民間兵も参加しておりガイアス団長の姿は彼らの力の支えとなっていた。
同じ頃各国への進行も始まり人類と亜種族の戦闘が幕を開けた。この苦難をアデルは乗り越える事はできるのだろうか。
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次回は「攻守(後編)」お楽しみに




