29話 滅びの行方
ケストレア王国に帰還したアース族一行は転移門前の人多さに衝撃を受ける。どうやらアルバン教団の仕業らしいと耳にしたファーゼンは内側からの奇襲を危惧した。4族はそれぞれ与えられた任務の場所へ向かい、アデルは教会で思わぬ人と再会した。
ケストレア王国の教会には6つベットの部屋が計4つあり、ほぼすべてが空いていた。ひとりの少女を除いて。
「カミラちゃん起きてるかしら?」シスター長のべリアは御年78歳のベテランシスターだ。手慣れた手つきで作業を終えて、ベットに横たわっている体の小さい少女に声をかけた。少女は幼い頃から体が弱く、親元を離れいつでも治療を受けられる教会のお世話となっている。
「はい起きてます叔母様」カミラは重い体を起こしてべリアの方を見た。
「これから亜種族が攻め込んでくるみたいで教会も対応しなくちゃいけなくてね。あなたに一人お手伝いさんをつけようと思っているのよ。入ってきて頂戴。」べリアの呼びかけでドアがゆっくりときしむ音を立てて開いた。そこには大人にしては小柄で水色髪の少女が立っていた。
「は・・・初めまして。シーラと申します。」お辞儀をした彼女の姿を見てカミラはなんと可愛いお人形なのだろうと不思議な感情を抱いた。いわばべリアさんが可愛いお人形を連れて来たと捉えたのだ。
「これ私に?」純粋無垢な瞳べリアを見つめて聞いた。
「ええ、この後私を含めた10名は教会を留守にするからこの女の子が代わりにお世話してくれるわよ。だからいい子にしていてね。」カミラは大きく頷く。その姿を見たべリアは彼女の頬にキスをした。
「必ず帰ってくるわ。」べリアは笑顔を無理やり作り、立ち上がった。
「それじゃ後は任せたわね、シーラちゃん。」そう言い残して、べリアは部屋を後にした。シーラは目の端に涙を浮かべるべリアを見逃さなかった。カミラは70を過ぎた老婆の曲がった背中を見送った。少しの沈黙が部屋を包み、カミラはただボーとシーラを見ているだけだった。
「か・・・カミラちゃん何して遊ぼっかなー?」シーラは気まずくなり切り出した。するとカミラは目一杯顔を近づけた。
「お人形さん私と遊びたいの?」衝撃的な言葉にシーラは首を傾げた。
「ん、お人形さん?」
アース族は医療器具の配置や建物内の説明を、メリア族は教会全体の守備配置をそれぞれシスターと相談していた。カミラは手を叩き、全員に合図を送る。
「みんな集まって!」
「はい!」シスターは息の合った返事をし、カミラのもとへ集まった。
「今から私と現地へ行く子達を決めていきます。異論は認めません。いいですね。」シスター達は互いを見つめ合った。彼女らは教会のシンボルであるヘキサグラムの首飾りを強く握りしめ、ベリアへ向けてしっかりと頷いた。
「よろしい、ではまずパトーネ、ミカドラ、・・・」ベリアは重い口調で、順に名前を呼んでいく。
「以上です。他のみんなはここで負傷者をしっかりと手当てしてあげて。」呼ばれた者はみな年配のシスターばかりだった。
「待って下さい。ベリアさん。私も私も一緒に連れて行って下さい。」一度声を上げると次々に若いシスター達は自分を連れていって欲しいと懇願した。ここに居るのはみな捨て子からベリアに拾ってもらった子ばかりだ。カミラもその一人である。
「いいかいあんた達。私はもう長くはないんだよ。それに向こうでは死と隣合わせになる。そんなとこへ若いのを連れてくなんざ、危なっかしくて見てられないよ。」ベリアに続くように年配のシスターは言う。
「そうそう。そんな危険な場所へ行くのは私達みたいな老いぼれで十分なのさ。」若いシスターは泣くのを堪えながら聞いていた。
「ハイラ。貴方に私の後を継いでもらいます。若い子達を引っ張って行って頂戴。」ハイラはベリアが初めて拾った子供だ。若いシスターの中でも最年長に当たる。
「はい、はい・・・生涯をかけて精一杯真っ当します!」彼女はすすり泣きながら答える。
「さぁみんなでお祈りしましょう。」ベリアも涙を堪えながら、最後の祈りを捧げる。みんなは輪になって互いに手を握り、高く掲げた。
「女神セルリアよ!我らに祝福を!」アデルを含めその場にいたアース族はその姿を心が締め付けられる思いで見ていた。
「では行ってくるわね。」ベリアたちは大きな荷物を背負い歩きだした。戦場の苦しさを。恐怖を知っているからこそ、その感情を表に出さず押し殺して一歩一歩と前へ進んでいった。見送るアデルの背中をトウヤがたたく。
「俺達は俺達のできることを頑張ろう。」トウヤの励ましにアデルは深く息を吸って答えた。
「おう。」二人は再び教会の中へと戻る。アース族とメリア族の作戦会議が始まるからである。
「遅かったな。でははじめるとしよう。」この強気な女性はメリア族のリーダーであるウル・サーガス。フリッグ家に次いで剣士の名家として名を馳せている。
「基本的には来る途中で相談していた配置で良いでしょう。メリア族には正面大扉と裏庭にある別扉の二つ計三ヶ所を守ってもらいます。人数や誰を選ぶかはサーガス様におまかせします。我々アース族は内側の支援と警護を担当します。またうち一人は正面扉の支援に行かせます。」トウヤが淡々と説明しているなかシスターのハイラが手を挙げた。
「よろしければ提案があるのですがいかがですか?」トウヤはコクリと頷いた。
「裏庭の二つの扉は古くなってしまい、長らく開け閉めできておりません。ベリア様も取り替えを検討していましたから、この際何か石などで塞いでしまっても問題ないです。」その場にいた全員が恐れおののいた。
「し・・・神聖な建物の一部を壊して僕たちバチ当たったりしないですよね?」ピトが恐る恐る聞いた。
「本来だったらダメですが今回はこちら側からお願いしているので大丈夫ですよ。」教会全体に広がるセルリアの加護は守護の他に断罪の効力を秘めており、何らかの損壊を建物に加えたり、シスターに攻撃する意志が見受けられた際などは体がバラバラになる。小さい頃から叩き込まれた教えの一つだ。
「であればアデル。」トウヤは視線をアデルへと移した。
「手印法第16アースクエイク」アデルの手元から教会の扉の前まで強固な岩壁が生成された。アデルは両手をはたき一息ついた。
「こんな感じかな。どう?塞がってる?」トウヤは軽く触りながら隅々まで観察する。
「うん多分大丈夫だと思う。」横でクロウも拳を岩壁にたたきつけていた。
「こらぁかてぇーな!並みの拳戦士でもそう簡単には砕けないだろうよ。」クロウのお墨付きともなれば心強い。その時だった。遠方の方で爆発音が聞こえた。
「亜種族がもう来たのか?」ベルゼンが声を上げるとトウヤが静止した。
「いやセイゲルさんが危惧していた事が起きたんだ。多分アルバン教団が動き出したんだと思う。」みんなが息を飲んだ。
「準備は万端だ!恐れるな、皆配置につけ!」ウルの甲高い声の指示にその場にいたみんなの体を奮い立たせた。スキル栄明奮起。一定の範囲にいる仲間全員の力を跳ね上がらせるサーガス家直伝のスキルだ。いよいよ星規模での人類と亜種族の戦争が始まる。
29話読んでいただきありがとうございます。
是非読んだ感想、レビュー等をよろしくお願いします。
またX(旧Twitter)で投稿の告知をしています。フォローといいねよろしくお願いします。
#イニシエで検索!
次回は「攻守」お楽しみに!




