27話 アルバン教団の衝撃
リーアが過去にオーディンと出会っていたことが明らかとなった。ますます謎の多いオーディンという人物。そんな中セイゲルとガイアスは召集を受け、リーアには一通の手紙が渡された。
予想外なことは人生でいくらだって直面することだ。人間は幾度となく壁にぶち当たっては飛び越える手段、破壊する手段、壁自体を作らないようにする手段。様々な案を浮かべてはそれを可能にしてきた。しかしどうだろうか。目の前に広がる光景は地獄そのものだ。ザクバリの看板は焼け落ちて店の中は火の海だ。あちこちで悲鳴と怒号の嵐が渦巻いていた。建物は瓦礫と化し、地面には死体が散乱していた。ケストレア王国に留まらずディジェクラントを除いた6大国すべてが同時に襲撃を受けた。こんなこと誰が予想できただろうか。王朝と転移門を除く塔のほとんどにアルバン教団の旗が掲げられている。トウヤはこの光景を昔のスフリル村が襲撃されたときの光景と重ねていた。森の中で隠れながら遠目で見えていたあの光景。家も広場も教会さえも、思い出のすべてが炎と血で染められるあの惨劇を。トウヤは刀を強く握りしめる。
「また、ただ崩れていく光景を見てるしかないのか。」ちょうどその時フードを深くかぶった二人の人影がトウヤの背後に現れた。背中にはアルバン教団のシンボルである天秤とスイレンが描かれている。
「君たちがやったのか?」トウヤの質問に彼らは答えず、腰のナイフを抜いて切りかかった。トウヤは刀のつばに親指を置き、ゆっくりと鞘から抜いた。襲い掛かる二人は連携を活かしトウヤを襲うが彼には敵わなかった。瞬きをする頃には二人とも体が真っ二つに裂かれ、その場に倒れた。刀身か血が滴り落ちる。まだ悲鳴は鳴り止まない。トウヤは言葉を吐き捨てた。
「まだ俺は傍観者なのか。」
2日前のディジェクラント王国南門。夜闇に覆われず、明かりの灯った野営地でみんなが生還を祝っていた。しかし、中には死者に会いに行く者も少なくなかった。そんな中先生の一言で全員が視線を門の入口に向けた。
「全員に連絡する! ただちに集合せよ!繰り返す!直ちに集合せよ。」号令がかかる中、リーアはまだ地面に膝を付いたまま呆然と地面を見つめていた。手紙にはリーアの父テグルの訃報について書かれていた。
「リーアの父が殺されるなんて・・・あり得るの?」ロキの疑問にリーアは首を横に振って答えた。剣の才は王国で一二を争うほど強く、学術においても研究者として活躍していた実績があるほど優秀だった。そんな父が死んだなんてリーアは考えもつかなかった。
「リーア!」遠くの方から大声で叫びながらラハンが駆け寄って来た。
「兄さん。」リーアも声の主に気づくとようやく立ち上がった。
「統括局から許しをもらって先に帰省できるようにしてもらった。リーア、君も一緒に邸宅へ戻ろう。母上からことの顛末を説明してもらわねば。」リーアは頷くとすぐに剣を手に取り、腰に差した。
「ごめんみんな。先生に私が先に帰ることを伝えといて。」そう言って兄と一緒にリーアは転移門へと急いだ。僕らはどう説明しようか悩みながらもテントの中で寝ているメンバーを起こして、招集された場所へアース族全員で向かった。
「集まれたのはこれだけか。」全員を集めると言っておきながら来ない生徒を叱る素振りを見せなかった。初めから全員が集合するとは思っていなかったようだ。合同演習の事が片付いてからまだ3日しか経っていないのだ。今回の件で多数の生徒が負傷し、死者も少なからず出た。精神的にも支障をきたしている生徒も大勢いる。学校の生徒とはいえまだ16歳なのだ。現実を受け止めるには時間がかかる。そのことを教師側も理解しているようだった。
「集まってくれたことに感謝する!拳闘士クラスの担任ロメルだ!今後の動きについて各自に伝達しようと思う!本来であれば二日後に転移門でケストレア王国に帰還する予定だったのだが、現在各国の偵察部隊が魔族軍の存在を確認したそうだ!しかし、ディジェクラントのみは侵攻する軍が確認されなかったようだ。よって一般市民と子供が6カ国から避難してくる!生徒もこの国で待機し、避難者の守備を任せたいそうだ!だが、以下の族は統括局指名で本国の守備をする軍のサポートをお願いしたい!ハゼルド族、パチルム族、アース族、メリア族の計4族は私と一緒に明日の早朝に本国へと向かうぞ!今夜は休息を十分にとるように。」言い終えると周りがざわざわと騒ぎ始めた。
「数はどのくらいなんですか?」パチルム族のリーダー、カジェラは教師に質問した。
「具体的な数は把握できていないようだ!だが人類側の数が魔族側を上回った事は歴史上一度もない!我が軍はおよそ10万人!それを上回ってくると想定するといいだろう!」魔族との戦いは歴史の中で何度も繰り広げられてきた。人類は知恵と工夫でその数の差を埋めてきた。とはいえ英雄の死後勝てたことは一度もないため、英雄頼りの作戦がほとんどであった。そんな中の合同演習の事件と各国への同時侵攻が立て続けに起きている現状は、統括局はさぞ頭が痛い事だろう。
「なぁ、さっき僕らも呼ばれていなかったか?」クロウは小声でトウヤに聞いた。
「確かに。ということはケストレア王国に戻る組だ。」みんなが息を呑んだ。
「リーアさんは居ませんよ。それにトウヤさんも完治したわけじゃ・・・。」シーラは心配そうな目でトウヤを見る。
「あくまで後方支援だから戦闘を任されることは無いだろう。でもリーアがいないのは連携的にあまり良くない。代わりを誰がやるかだが。」トウヤが悩んでいるとき一人が手を挙げる。
「僕に、任せて下さい。」ピトだ。
「リーアさんみたく機敏には動けませんがアデルさんのサポートならできます。任せてください!」ピトの暗殺術は本来の戦闘向きでは到底無い。合同演習中も基本的には後方の守備を任せていた。
「できるのか?ピト。」トウヤの質問にピトは大きく頷いた。
「後ろで見てきましたから、動きに合わせて支援してみせます。」トウヤも少しほっとした様子だった。
「とりあえずリーアのことを先生に伝えてから僕は戻るよ。みんな先に帰っておいてくれると、」トウヤが言いかけたか、レオが遮った。
「リーアのことは俺から先生に伝えておくからみんなは休んでおけ。特に怪我してるトウヤは絶対にだ。」レオの言葉に皆が同意し、トウヤは仕方ないという顔で答えた。
「じゃあお言葉に甘えるとするかな。」トウヤを含めみんなが小さく笑い野営テントに戻って行った。翌朝戦場に向かうという恐怖を押し殺して。
翌朝僕らは予定通りに集合し転移門の前にいた。各国がそれぞれ4族ずつ集まり、呼び出された者の共通点が見えてきた。ひとつは役職と連携のバランスが取れている族。もうひとつは族全員が合同演習を生き抜いている点だ。力量も采配も十分なやつらが召集されたということだ。
「すごいね。どこも有名な貴族の出ばかりだわ。」ロキは言葉を吐き捨てた。
「全員揃ったようだな。これより各国へ向けて君たちを飛ばす!まずはハデルディア連邦国!」統括局のコディスが的確な指示で生徒達を次々と送る。
「最後ケストレア王国!」アデルたちは転移陣への階段を昇り、その上に乗った。
「改めて戦場へ行くと思うと怖いな。」レオは小声でみんなに聞こえないように呟いた。
「はっレオが弱音なんて珍しいな。みんなで手を繋いで輪にでもなろうか?」平気そうにからかっているクロウだが、彼も内心怖がっていた。みんなは震える手を繋いで輪になった。
「みんな生きて守り抜こう。」ベルゼンは怯えながらもみんなに声を掛ける。みんなは繋いだ手を振り上げた。直後、アデルたちはケストレア王国に飛ばされた。
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次回は「戦場」お楽しみに




