25話 謎の男
セイゲルがアース族と合流し、ウォルゼンを打ち倒したアデル。一時の平穏を噛み締める。
合同演習運営本部は生徒を救出後、緊急会議を開いていた。ディジェクラント王国の王宮の南側には円形の広い机のある会議室が用意されている。その場には統括局をはじめ、原点者、近衛、念話傍聴機関、淡霧隊、ミカエラ会の面々が揃っていた。
「つまり今回の事件は亜種族と魔族による攻撃ということかねセイゲル。」議長の席に座っているこの人は統括局総事長ヘカルテ・ロメリア。魔族侵攻時にいち早く対応策を練り上げ、絶滅の危機を救っただけでなく、原点者直属の軍師という肩書きもある。生粋の戦略家で人類史上類を見ない功績者だ。
「はい。わしが聞いたところによるとそう結論づけられます。」セイゲルは席を立ち議長に伝える。
「先ほど報告があり、グンダスの死体が妻子共にパドルキア帝国の自宅にて発見された。気掛かりなのは扉にアルバン教団の印が描かれていた点についてだ。」みんなが頭を抱えた。
「とうとう統括局にまで手を出してきましたね。これからますます被害がひどくなりますよ。」ラハンの予想に統括局の盾部コディスが反応した。
「んなもん、拠点を見つけて一網打尽にすれば済む話だろ。」
「その拠点が見つからないから困っているんだろ。それに相手の規模も数も検討がつかん。グンダスが生きていれば、」たばこを吸いながらガンティル部のシゲル・ロキは最近買った革靴を見せびらかすように机に足を組んでのせていた。いつものことなので誰も文句は言わない。
「淡霧隊のみなさんは何か掴めましたか?」白いローブに身をまとい大杖を抱えた統括局杖術部の老婆、ミフィル・ピカロが尋ねた。
「まだ何も。グンダスの家から足跡を見つけましたが、辿っている途中で途切れてしまいました。捜索は続けていますが進展もなく。」隊長のキリヤは申し訳なさそうに答えた。
「仕方あるまい此度は向こうが上手だったというだけじゃ。わしも偽物だと見破れんかったよ。」セイゲルはフォローした。
「ミカエラ会でも自警団を作り現在国中の警備を固めています。依然として敵は姿を表しませんが必ず成敗してみせます。」ミカエラという女性が創設した組織で、退役した軍人からなる一般人の団体がミカエラ会だ。
「更に問題なのはグンダスになり替わって潜伏していた際どれだけの情報が漏洩したかじゃ。」原点者は険しい顔で問いただす。
「彼は杖術の副局長です。それなりに触れる情報は多かったはず、特に中央国テカロトの奪還作戦案にも触れているでしょう。」ミフィルの言葉に全員が沈黙した。この20年近く人間族はあらゆる手を尽くして中央国テカロトの奪還を模索してきたが、英雄が死んでからというもの圧倒的なまでの魔族の力に成すすべなく敗戦をしてきた。その草案には幹部クラスの人間が触れることができ、グンダスもその一人だった。
「新たな手を考えなくてはなりませんね。」へカルテの言葉に一人の大男が手を上げた。
「そのことについてなのですが、少し提案がありまして。」ガイアスである。みんなが彼に視線を向けた。
「近衛からの提案とは一体どんな案があるのですか?」ヘカルテの質問にガイアスはセイゲルに視線を送り発言を促すように語りかけた。セイゲルは溜息を付くとゆっくりと席を立った。
「ガイアスの解決策とはわしの弟子が関係しているのじゃよ。」一同は困惑した顔をした。
「あの噂は嘘ではなかったんだな。めでたいことじゃないか悲願の覚醒者が見つかったなんて。」コディスが拍手を送ると皆がそれに続く中、原点者の発言で再び静まり返る。
「それでその弟子は一体どんな解決策となるのじゃ?」セイゲルははっきりと聞こえるように言った。
「原点者様そして皆よ、わしはこの場で弟子を紹介することはできない。魔族が潜伏している可能性があるからじゃ。」一同は沈黙しながら話を聞く。
「じゃが、これだけは言える。わしの弟子アデルは、わしらの意思を背負う人間じゃ。この言葉の意図が分かったら、それを踏まえて策を練ってくれると助かる。彼はまだ未熟じゃ、戦争など到底連れていけん。そのため
アデルが高等生のうちに一人前に育て上げて見せよう。じゃから魔族への侵攻はそれまで待ってほしい。」セイゲルは頭を下げた。
「納得できるか!そんな弟子がいるなら今すぐにでも侵攻すべきだ。それにそんな大事なことをなぜ黙っておったセイゲル!会議室にいる全員が静まり返っている中、コディスは怒りを見せた。
「こうなることが予想できてたからじゃよ。わしとてテカロトを奪い返したい。しかしそれは我々が万全の状態を整えてからじゃ。」
その後も口論は続いたが、セイゲルの意見が支持され今回の会議は終了した。セイゲルとガイアスはアデルの元へ向かった。丁度すれ違いに原点者の側近が会議室に入り原点者に小声で報告した。
「例の少年を調べました。ケストレア王国のアデルだそうです。」原点者はその情報を聞きニヤリと笑う。
「なるほど。」
アデルたちアース族はケストレア王国のキャンプにいた。しかし大半は疲れて寝ており、アデルの他にトウヤ、ロキ、リーアが起きて会話をしていた。
「会話中にすまんなアデル。」アデルは驚きのあまり椅子から転げ落ちた。
「師匠!と、ガイアス団長。」
「アデル、驚きすぎじゃ。」ロキは突っ込んだ。
「3日ぶりだなアデル。と言っても10年前に会って以来面と向かって話すのは久しぶりかな?」ガイアスはアデルに笑いかけた。
「いえ覚えています、人生であの日を忘れたことは一度もありませんよ。」アデルの顔が少し曇った。
「すまない、苦い記憶だったね。それにしても大きくなったな。若い頃のエドレスに良く似ているよ。それにオーディンにもそっくりだ。」アデルはガイアスの話を聞いていたが最後の言葉が脳裏に残り尋ねた。
「オーディンの顔を見たことがあるんですか?」するとガイアスはゆっくりと頷く。
「10年前のあの日私はオーディンの戦いを目の当たりにしたんだ。」ガイアスは語る。
青白い羽を生やし宙を縦横無尽に回りながら光線を放ち竜を次々と穿った。
「そして彼は私の元へ降り立ち顔を見せてくれたんだ。しかし彼は顔色を悪くしたと思ったらすぐさま飛び去ってしまったんだ。」
「なんともまぁ不思議じゃのう。まるで手印法の24と40じゃないか。」淡々と昔話を話すガイアスの横からセイゲルが割って入った。
「言われてみれば確かにセイゲルと似た術式だったような気もするな。」ガイアスは納得したような様子だった。
「オーディンか、不思議な男じゃな。でもわしもどこかで・・・」セイゲルが必死に思い出そうとしているとアデルの後ろから声が挙がった。
「私、オーディンという方に助けていただいたことあります。」手を挙げたのはリーアだった。
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次回は「オーディン」お楽しみに。




