新たな始まり
指揮を執っていたトウヤが負傷し、どうにか赤竜と化したウォルゼンを止めるべく奮闘するアース族。そこにセイゲルが現れた。
「ねぇ父さん。父さんはどれくらい強いの?」昔そんな質問を子供の頃に父に投げかけたことがある。
「そうだな。流石に帝君には勝てないがそれ以外だったら負けなしかもな。」当時の彼は目を輝かせた。
「すごーい!じゃあ人間も殺せる?」
「ああ勿論。向かってくるとこ敵なしだぜ!」父は大袈裟に胸を張った。そこへ母が朝食を持って現れる。
「あなた、嘘は災いのもとですよ。それよりそろそろ仕事ではなくて?」父は慌てた様子を見せた。
「いっけね。今日は魔族と亜種族が協力する初めての合同作戦だからな。遅れねぇようにしないと。」父は身支度を整え行ってきますのキスを母にした。
「じゃあ行ってくるよ。3日後には戻ってくる。」それを最後に父は二度と帰って来なかった。翌日には英雄の死と人間族の中央国の陥落の吉報が亜種族全体に届き、大きな喜びをもたらした。高齢者や生き残った戦士、その家族は勝利に酔いしれる。その陰で泣いてる存在などいないかのように。
「お父さんはいつ帰ってくるの?」いつまで経っても帰ってこない父を彼は今か今かと待ち望んでいたが、母は沈黙したままだった。今振り返るととても酷なことをしていたんだと改めて思う。数年が過ぎると彼は父と同じ兵士の職に就いた。父を殺した、人間たちに復讐するために。
「ウォルゼン、君をゼパル様の軍指揮者に任命する。」初めての任命だった。胸が高鳴り、より一層奮闘しようという心持ちで今回の計画に臨んだが、彼の息が絶えようとしていた。
「師匠!」アデルは驚いた。本部に居た師匠がどうしてこんな所まで来てくれたのだろうと。セイゲルはアデルを発見するとすぐ近くの地上におり立った。薄緑の羽は日に照らされて美しく光り輝いている。
「無事で何よりじゃアデル。本当に良かった。」セイゲルはアデルの頭を強く撫でた。いつもよりも頭を掻きむしるように。それ以上に安心と心強さがアデルの瞳に雫となって現れた。
「セイゲル様助けていただきありがとうございます。」後ろからリーアがお礼の言葉を述べた。
「リーア嬢も無事で何よりじゃ、ラハンも心配しておったぞ。」リーアはその名を聞いて少し不快そうな顔を見せた。
「そ・・・そうですか、あー早く安否の連絡をしなくてわ。」リーアはわざとらしく振る舞った。兄妹仲は良いようだ。
「他に負傷者はおらんか?」アデルはトウヤの存在が頭に浮かぶ。
「誰も死んでませんよ。怪我はひどいですか。」崖の上から聞き馴染んだ声が聞こえた。ベルゼンに肩を貸しながら立っているトウヤだ。
「トウヤ!生きてたのか!」アデルの問いかけにトウヤは軽く笑った。
「勝手に殺さないでくれよ。シーラのお陰だ。彼女の治癒力は他に引けををとらないほどに精密だよ。」褒められたシーラはもじもじしていた。トウヤの腹の傷は見る影のないくらいに全快していた。しかし、顔色はあまりよくない。
「命に別状がなくてよかった。よく生き残ったなトウヤよ。」セイゲルの言葉に笑ったトウヤだった。
不穏な視線がレオを捉えた。一瞬でレオの首筋に刃を突きつけるがセイゲルがそれを弾いた。勢いのあまりレオはその場に倒れ、みんなは武器を構える。
「生きとったか、赤竜の中にいた亜種族よ。」そこには血だらけのウォルゼンが立っていた。
「人間!殺す!」ウォルゼンは血の爪を尖らせ、突然セイゲルに襲い掛かる。しかし、セイゲルはいとも簡単にそれを払い除けた。
「先の攻撃で気でも狂ったかのう。どちらにせよ弟子を痛めつけた罪は重いぞ。」セイゲルは硬化していた腕をウォルゼンの腹部に一発、重たい一撃を加える。ウォルゼンはよろけながらも立ち直り反撃をしようとしたが、セイゲルの追撃によって吹き飛ばされた。
「老体に体術はちときついのう。」セイゲルは手のひらを天に掲げて唱える。
「手印法第24インフィニティープロミネンス。」アデルよりも多い数の薄緑色の光線が降り注ぐ。ウォルゼンは素早く避け、凝血で防ぎながらセイゲルの元へと迫る。
「手印法38千嵐斬景」トウヤが使っていた空跡斬のような空間が裂ける感覚がセイゲルを中心に全体に広がった。ウォルゼンは正面からその攻撃を受け、体がバラバラに崩れ落ちた。しかし、回復で立ち直り無理矢理にでも体を形成して更に向かってきた。
「やれやれ惨くて見てられんな。皆耳を塞いでおれ。」セイゲルは腕をクロスし、両手の指先を人差し指と中指だけ出してインフェルノを開いた形で構えた。
「手印法第44」閃光と爆音が同時に襲った。十字を切るように両腕を振り払い、流れ星のように真っすぐウォルゼンに降りかかった。勢いで後ろの大木や岩壁さえも消失した。
「皆はここにおれ。わし一人で見てくる。」セイゲルはウォルゼンの元へ向かった。
見つけた時にはボロボロながらも立ち上がろうと悶えている姿がそこにあった。ほとんどが骨や筋肉ではなく、血操の凝血によって体らしきものに見えるものだった。
「もうよせ。直に息絶えるぞ。」セイゲルの声を聞くなり、ウォルゼンの視線はセイゲルに向いた。
「たとえ息絶えようとも一匹でも多く道連れにしてやる。お前も!」手を伸ばし攻撃をしようとするが、魔力が一切なく何もできなかった。
「ここで終わるわけには行かない。あいつらや、父さんの仇を!」尚も息巻くウォルゼンに、セイゲルは息を吐いた。
「復讐に感情を駆られてしまったな。わしも亡くしたよ。家族も、友人も、妻も・・・。」
一人一人の顔を思い浮かべながら更にセイゲルは言う。
「戦争では死など隣り合わせじゃ。死がない争いなど存在せん。もう君は十分過ぎるほど他人の命を奪った。父も誉じゃろうよ。」言い終えた途端ウォルゼンの足や手を形成していた血が緩み、溶け始めた。
すまないバルバトス、お前との約束守れそうにないわ。ごめんなさい父さん、僕は最後まで強くなれ・ません・・でした。
そうしてウォルゼンは息絶えた。それを見届けたセイゲルは後ろを振り向く。
「盗み聞きをする弟子は、感心せんな。」大木に隠れていたアデルは身を乗り出してのぞいた。
「気づかれてましたか。」アデルは困ったように後頭部を搔きむしった。
「なんとなくじゃよ。アデルならそうすると思っただけじゃ。」師匠には敵わないな。途端にアデルは膝の力が抜けた。
「さすがに戦い過ぎたようじゃな。起死回生の修行もこれからきつくせんとな。」セイゲルはアデルに肩を貸して歩き出した。
「とにかく戻ろう。アデルに会いたいと言っている人がいるのじゃよ。」
「僕にですか?誰が、」
「ガイアスじゃよ。」セイゲルは静かに答えた。
その後僕らを含めこの合同演習に参加した生徒の救出作戦が開始され、多くの生徒が帰還を果たした。しかし死者も生徒だけで3000人を出してしまい、合同演習初の最多死者数となった。また大半の生還者も負傷した人で全治3カ月という痛手を負うこととなった。
アデルたちのいる土球の元中央国テカロトは現在魔族の手に落ちて20年が経過していた。そこを守っているのは、ソロモン会70席のゼパルとグシオンの二人だった。
「報告は以上です。」国王が座ってたと思われる玉座に腰を掛けたゼパルは深く息を吐いた。
「そうかー失敗しちゃったかー参ったなー魔王様になんて報告しようかなー。」薄暗い空間に彼の声が響く。
「ウォルゼンちゃん死んじゃったんかー。もう少し駒として使えたら良かったんだけどなー。残念だなー。」僅かな沈黙の後、ゼパルの怒声が響く。
「この恨み、必ず返してやるーーー!!!」
24話読んでいただきありがとうございます。
これにて第1章学校編は終了です。ここまで読み進めていただきありがとうございます。
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さて次回は「謎の男」です。お楽しみに。




