20話 信じる
魔族ウォルゼンに襲われたアース族。トウヤはセイゲルに危機的状況を伝え、その上でアデルとリーアを救う決断をした。
セイゲルとの念話の半日前、アース族の野営地には続々とメンバーが集まっていた。
「皆さんレオとロキが到着しました。」シーラの呼び掛けに、既に着いていたピト、ベルゼン、トウヤ、クロウは迎えに行った。
「二人とも無事で何よりだよ。」トウヤは安堵した。
「これで後はリーアとアデルが着けば全員合流だな!」このときのクロウの言葉が実現されることは無かった。刻々と時間が過ぎる中トウヤが口を開いた。
「アデルとリーアの捜索に行ってもいいか?」みんながトウヤを見る。
「一人で行くのか?」レオの問いにトウヤは頷く。
「みんなの命を借りるわけにはいかないよ。後任はベルゼンに任せる。僕の代わりにリーダーを頼む。」するとベルゼンは両手を挙げた。
「いやだよ。前にも言ったろ、俺はリーダーが勤まる器は持ち合わせてないって。俺は2人の捜索に付いていくよ。」その言葉にシーラも同調した。
「私も行かせて下さい。リーアは、私の親友ですから。」レオも更にロキ、ピトと全員が、捜索に名を挙げた。
「みんな本当にいいのか?」トウヤの質問にみんなが頷く。相手は魔族だ、命を落とす危険だってある。
「当たり前だろ!仲間を助けないで族が勤まるか。」クロウもこう言っているが実際声が震えていた。
「負傷者は歩けそうなのか?」レオの質問にシーラは答える。
「はい。意識は回復されて完治とまではいきませんが、歩行には問題ないそうです。」すると野営テントから負傷者は体を出した。
「迷惑掛けてすまい。友人を助けるんだろ。足手まといの俺は置いていけ。」負傷した人間は明らかに剣が振れる様子では無かった。
「大丈夫だ。結界から出れば安全だろ。ここは限界ラインに近いからすぐに外へ出れるさ。」確かにそうだが結界から出たからといって魔獣がいないという保証は無い。結局説得はしたものの、負傷者は自力で抜け出す事になった。野営地を片付けトウヤ達は負傷者と別れて移動をする事になった。
「そういえば名前は?」レオが荷造り中に突然気になったのか、負傷者に質問した。
「ナグトだ。制服から分かる通り剣士をやっている。」
「ナグトか。いい名前だ。事が済んだら真っ先に生還してるか確認するから絶対に死ぬんじゃないぞ。」レオの言葉に応えてナグトは右手の拳を目の前に出した。
「そっちこそ、必ず生きて帰れよ。」二人はグータッチを交わした。
「行こうか。」トウヤ達はナグトと別れて刻印があるところへ向けて出発した。
到着してトウヤはすぐにシーラとロキに結界の破壊を依頼して、他を護衛に当たらせた。ペンダントを割り、セイゲルと念話で連絡を取り、今に至る。今夜の見張りはレオとベルゼンだ。ベルゼンは交代の時間に横で寝ているレオをつついた。
「起きろ交代の時間だぞ。」レオは寝返りをうち頑なに起きるのを拒んだが、しばらくしてゆっくりと起き上がり、体を伸ばした。
「すまん、寝すぎたか?」レオは目を擦りながら立ち上がる。
「いや、普通に起きれてるよ。」ベルゼンの言葉にあくびをしながら答えた。
「なら良かったよ。俺は寝起きに弱いんだ。」
話ながらレオは武器の点検をした。
「レオ、君は何で2人の捜索を手伝うなんて言ったんだ?」レオは少し驚いた顔をした。
「正直怖いんだ。自分たちがあんな化け物みたいなやつに勝てるのかって考えると。だからあの時君が言ってくれなかったら僕は断るつもりでいたんだよ。」それを聞いたレオは静かに笑った。
「別に勝とうと思わない方がいいと思うよ。だって僕らはアデルとリーアを助けに行くんだから。途中あの魔族、ヴォルゼンと遭遇するかもしれない。でもそうなったらむやみに戦わず逃げればいいのさ。弱い奴は弱いなりに強者に対して生き延びる選択肢を持っておくべきだと、俺は思うね。」レオの考え方はベルゼンにとって初めての捉え方だった。
「そうだな。そう思うことにしてとっとと寝るわ。」ベルゼンは装備をはずしながら呟いた。
「アデルとリーア、生きているだろうか。」するとレオは暗い顔をしながら答える。
「女神セルリア様に祈るばかりだよ。後は二人なら生きていると信じるしかない。」
「そうだな。」
横になったベルゼンから、しばらくして寝息がかすかに聞こえてくるのだった。
みんなと散開した後、アデルは渓谷近くに身を潜めていた。背後の低木の茂みから物音が聞こえた。振り返ると同時に口を押えられる。リーアだった。
「静かに。あれ見て。」小声で話すリーアの指先の方をよく見ると、等間隔でダークウルフがこちらに向ってきていた。さらに上空にはエレムバード、地面にはガドルスネークが這っていた。あまり獣らしくない統率の取れた行動から恐らくヴォルゼンが操っていると二人は予想した。
「静かにここを離れましょう。野営地の道はすでに塞がれているから反対方向へ行かないとだけど。」リーアは手招きをして僕を誘導した。渓谷を下りしばらく歩くと浅い洞窟が視線に入った。
「ここが良さそうね。入るわよ。」中の安全を確認し、敵がいないと判断した二人はその場に座り一息ついた。
「あー生きてるー良かったー。」僕はとりあえず安堵した。
「油断はできないわよ。あの魔獣軍団の索敵をなんとか搔い潜らないと野営地には戻れそうにないわね。」すでに後方は魔獣で埋め尽くされている状態。この場合やり過ごすのが得策なのだが果たして魔族にこの手が通用するだろうか。とりあえず入口に通気口を確保しつつ、外から洞窟が見えないように塞いだ。匂いで追われていた場合終わりである。
「手印法第16アースクエイク。」岩壁がみるみる上がっていき、上に少しの隙間を残し僕らは洞窟の奥の方へと向かった。入り組んだ道を通ると明らかに掘り進められたような跡がいくつかあった。
「ここら辺で休まないか。歩きすぎだし迷うぞこれ。」浅く思えた洞窟も奥に進めば進むほど長く感じる。一体どこに繋がっているのだろうか。徐々に空気が冷えてきた。リーアは属性的に慣れているが、僕はそうではないので気をつけなければならない。
「そうね少し休憩しましょう。」薄暗く外が夜かも分からないこの洞窟で二人は一言もしゃべらなかった。そんな気力が残っていなかった。沈黙を破ったのは進む方向からした声だった。
「全く、ここに護衛をつける必要があるのかね。敵の一人も現れやしないよ。」僕とリーアは顔を見合わせ互いに頷き、足音を立てないように声のする方へ向かう。
「そう言うなって、魔族からの命令なんだから。上は今頃皆殺しだろうな。人間どもに思い知らせてやる。」二人は開けた場所に出た。螺旋状に階段が掘られており、その空間には魔晶石らしき赤い宝石を台座に乗せその下に大きな刻印が刻まれていた。
「あれ、もしかして結界の中枢かしら?」見た目からしてそう見えるが、中身は全く違うオーラだ。別物だとは思うが何が発動してるか分からない。
「亜種族。」護衛かは分からないが魔晶石を守っている。気を
「トウヤがいてくれれば分かるんだけどなー。」
「文句言わない。あれを壊しに行くわよ。」一瞬の間が置いて僕は驚いた。
「今さらっと襲撃するって言った?」そんな僕を無視してリーアは飛び降りた。
「階段使えよ全く。」僕もそれに続いて飛び降りた。
「手印法第4束縛」僕は階段にある柱に鎖をつけて落下速度を落とす。リーアはつららのような氷の棘を生成し下に向けて放った。速度を増したつららは一瞬にして3人の敵の胴体を貫く。
「敵襲だ!上からくるぞ。」亜種族も火炎球で迎撃しようとするが属性的に相性が悪かった。リーアはデカい氷塊を足元に生成しそのまま落下した。
「逃げろ!逃げろ!」魔晶石と氷塊がぶつかり、金属音が洞窟の中に響いた。敵は散り散りに逃げたが、取り残された者や逃げ遅れた者は下敷きとなった。リーアとアデルは警戒しながら降りる。アリの巣のように掘り進められた洞窟には大勢の亜種族が待ち構えていた。
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次回は「死闘」お楽しみに。




