19話 敵意
合同演習2日目。エレムバードを追った先には地面に刻印が施されていた。調べていると謎の男からの襲撃される。
アデル達が襲われる前夜、合同演習運営本部は開始直後と比べて騒がしくなっていた。
「誰か手当てを頼む!こっちにも光属性の治癒者を早く!シスターに協力を要請してくれ!」最初に集合した広場には脱落者が大勢運ばれていた。
「例年よりも圧倒的に脱落者の人数が多いな。中にはまだ入れないのか!」統括局の剣士部ラハン・フリッグ。赤い髪に白い軍服を身に纏うこの男性は、29歳という若さで統括局に席を置く天才だ。リーアの兄でもある。
「外からの接触は完全に遮断されています。聖獣や妖精を送っていますが途中で繋がりが切れてしまいます!」テイマーが使役する聖獣は神聖力の繋がりが直結する。魔素の影響を受けると繋がりが切れてしまい、操ることが困難となる。
「中に居る生徒観察隊との念話が通じません!」スキル念話は主に隠密行動をする際に口頭ではなく、意思の伝達のみで会話が成り立たせることができる。重宝されそうだが、転換ほど希少なものではないため隠密調査や諜報員などの職業に回されやすい。こちらも魔素に強い影響を受ける。
「現在解析を続けていますが複雑かつ巧妙なため解除には数日を要するかと。」作業員の言葉にラハンは怒りを抑えながら伝える。
「なるべく早く頼む。」ラハンは自分の拳をこれでもかというほど握りしめる。
「そう焦るでない。」ラハンは声のする方向に振り向いた。
「セイゲルさん。」ラハンは気が抜けたような声だった。ラハンにとってセイゲルは、統括局の先輩の様な存在だ。
「わしも弟子が中に居るが心配はしておらん。なぜか分かるか?」ラハンは考えたが首を横に振る。
「分かりません。」
「信じているからじゃよ。多少魔獣が強くなったからといって負けることなどないとな。」セイゲルは言い切るとラハンの隣に立った。
「セイゲルさんはこれは地下に眠る呪いが原因だと思いますか?」ラハンは険しい顔で聞く。
「分からん、じゃが無関係ではないじゃろうな。少なくとも結界のオーラは地下の呪いとは別のようじゃ。」セイゲルは断言した。
「そうですか・・・。」ラハンは少し落ち着ついた。
「信じなさい。それに彼女は私の弟子と同じ族じゃ。必ず生きて帰ってくる。」セイゲルはラハンの肩をポンと叩き、去っていった。
「死なないでくれよ・・・リーア。」
その日はとにかく負傷者の治療と結界の解析に皆が全力を尽くし、翌朝を迎えた。昨日よりも怪我の程度が低い族が次々と避難してきた。中には既に自分以外のメンバーが全滅した生徒も居た。日が傾き始めた頃、その子たちのと中の状況について話していると、セイゲルは胸元で物が壊れる音がした。ペンダントが割れたのだ。
「やはり何か危険な物があったか。」セイゲルは立ち上がり、本部へ向かった。その時脳内に違和感が駆け巡った。
「聞こえ…すか?セイ……さん。」雑音混じりの声だが聞き覚えがあった。
「トウヤか?」
「はい、…安定で申し…ありません。」トウヤが念話を使えていることに驚きながらもセイゲルは落ち着いて話す。
「そちらの状況はどうなっている。ペンダントを割ったということは、限界ライン近くに何かあったのじゃな?」少し間が空いて返事がきた。
「はい…、結…を安定させる刻…を見つ…ました。」声が途切れて聞きづらいが内容は伝わってくる。
「解…を試みていますが、な…なか上手くいきません。」中に居るトウヤ達も解除に困っているようだ。
「アデルはそこにおるか?であれば手印法第24で。」
「アデ…は刻印発…時に…族と交戦し…」セイゲルは少し口を空ける。それまで雑音で聞こえなかったが、その言葉だけははっきり聞き取れた。
「リーア共に行方が分かりません。」
時間はアース族が襲われるところまで遡る。突如現れた男はアデルたちに問いかけた。
「人間よ。何故ここがわかった?」みんなが顔を見合い、トウヤが答える。
「エレムバードの習性を利用した、それだけだ。」トウヤの言葉を聞くと謎の男はもごもごと独り言をしゃべり始めた。恐らく仲間に連絡をとっているのだろう。
「みんな聞こえる?」頭の中にトウヤの言葉が駆け巡った。
「気づいていると思うけど多分あいつは亜種族だ。こっちに危害を加えてこない保証がない。ひとまず今は動かずじっとしていて。」
亜種族。アデルの中でこの言葉は最も忌々しい言葉だ。だが今はその感情を抑えてその場にとどまった。
「時に貴様ら名前は?」亜種族の男は僕らに名前を聞いた。トウヤは恐る恐る答える。
「僕はトウヤでこの族の代表をしています。隣がアデルで手前からピト、レオ、ロキ、ベルゼン、リーアだ。」最後の名前に亜種族は眉をひそめる。
「リーア、リーア・フリッグか?」亜種族の男はリーアの名前に反応した。リーアが一歩前へ出る。
「私に何か用なの?」リーアは問いかける。
「リーア・フリッグ、名前あった、だから。」「構えて!」リーアとトウヤの声が同時に頭に流れた。
「殺す!!!」次の瞬間全身が凍りつく冷気が足元を走った。リーアの技だった。亜種族の男は氷付けになっていた。リーアは躊躇なく氷を砕き、亜種族の男はバラバラになった。
「みんな怪我はないか?」トウヤは念話のまま会話をしていた。
「リーアさん、アデルさん、先程はありがとうございました。おかげで助かりました。」ピトは頭を下げ二人に御礼をした。
「無事で何よりだ。それよりトウヤ、またお前は人からスキル盗んだのか?」トウヤのスキルは解析者、能力は相手の術式のカラクリを完全理解するというスキルだ。これにはスキルも対象とすることができる。トウヤの場合は天性の才能によって対策と体現を無条件で行える。まさにコピーといっても遜色のないスキルと言えよう。
「いやーまぁ助かったことだし、結果オーライってことに。」
「ならねーよ。」トウヤはしょんぼりとした。しかし、次に現れた、圧倒的なまでの強者の恐怖にその場にいた全員が動けなくなった。
「呆気ない最後だったな、同士ザーデル」窶れた肋をむき出しにし、痩けた顔の男は藍色の鋭い眼光をこちらに向けてきた。悪寒が僕らに訴え掛けている。
逃げろと。
男は森の中からそっと体を出し、ダークウルフを二匹引き連れて現れた。
「遅れてすまない。もう少し早ければ助かっただろうに残念だ。」氷の破片を手で救い上げた。
「あぁ可哀想にこんなに冷たくなって・・・。」リーアが剣を抜こうと持ち手を握った。
「やめとけ女。君たちはもう囲まれているのだから。」森の中から多数の紅瞳がこちらを見ていた。
「餌食になりたくなければ大人しくしてることだ。」恐らく昨夜出くわした群れだろう。足音から想像はしていたが数があまりにも多すぎる。
「今は言うとおりにしよう。隙を、」トウヤが念話で指示をしていると男はトウヤに向かって突っ込み、爪を立てる。
「小細工はやめろ。腹立たしい。」しかし、トウヤの眼前にまで迫ってきた爪は一瞬にして切り捨てられた。
「小僧何処から出しやがった、その曲刃剣。」トウヤの右手には曲刃剣が握られていた。アデル以外はこの演習で初めてトウヤの武器をみることになる。蒼明な色の持ち手に金色の柄、鋼の刀身は正に美しさがあった。
「曲刃剣なんて名前はこの武器には似つかわしくない。刀と呼び方を改めてくれると嬉しい。」男はバランスを崩しその場に倒れる。リーアは氷で手を、アデルは足を束縛でそれぞれ拘束する。
「いいだろう、そっちがその気ならあの世へと送ってやる!」ダークウルフ達が一斉に飛び出し、アデル達に襲いかかる。
「各自で応戦!アデルには僕が付く。」トウヤは大声で指示を出す。四方から来るダークウルフをまずはレオの矢が貫く。
「シャウターアロー」無数の水の矢がダークウルフに降り注ぐ。ロキは遠距離射撃ではなく、ダークウルフに突っ込んでいった。ガンティルの発射口にはナイフが付いていた。槍のようにガンティルを振り回し、次々と矢を逃れたやつらを切り裂く。クロウも取りこぼしたダークウルフを次々に拳で殴打した。ベルゼンはピトを守り、そのピトは背後から虚手を使って捌いていた。最も活躍しているリーアはスキル神速を使い、至る所を駆け巡りながら数を着実に減らしていった。アデルは拘束を解かないことに集中し、それをトウヤが守る。
「無心流迅雷斬」5匹のダークウルフが一瞬にしてトウヤの斬撃で切られた。テイワーなら襲ってくる魔獣すべてを捌き切れば攻撃手段が限定されると、皆がそう思っていた。
「っ?!アデル避けて!」アデルは間一髪のタイミングで攻撃を避けた。
「ブラッドディバインド」拘束をされながらも男は術式を発動させた。彼はテイワーではなく自分の血を魔獣に吸わせて操る。魔族特有の血操の術式を使用していた。
「そこらの亜種族と一緒にするなよ。俺は魔族軍ゼパル配下筆頭、血操術者ウォルゼンだ。」魔族という二文字に皆が恐怖した。高等生が束になっても魔族には勝てないと教わっているからだ。魔族に出くわした場合の対応はとにかくその場から離れることだ。
「全員タイミングを見計らってここから離れて!」トウヤは念話で指示を出した。
「煙幕張るよ!」ロキはウォルゼンの立つ地面に向かって三発放ち、白煙が彼の身を包んだ。その隙にみんなは散り散りに森の中へ向かった。
「秘密の場所で会おう。」秘密の場所は野営地のことを指し、トウヤはそこで合流をしようと考えていた。
「以上です。」トウヤの報告を聞き、セイゲルは頭を抱えた。亜種族の時点で危険レベルだが魔族が介入しているとなるとより緊急案件である。
「状況は分かった。統括局はすぐに結界の解除と生徒救出に全力を注ぐ。君たちも早く避難してくれ。」少しの間があったがトウヤは口を開いた。
「セイゲルさん我々は内側から結界の解除に尽力します。同時にアデルとリーアの捜索も行うため結界外へは出ません。」いつの間にか念話の雑音が減ってきていた。トウヤの決断にセイゲルは納得しなかった。
「教導者よ、魔族を見たなら分かるだろう。君たちでは対処できん。どうかわしらを信じて安全を確保してくれんか?」
「仲間と、アース族のみんなと決めましたから。万一の場合は必ず逃げ切ります。」トウヤの真剣な態度にセイゲルは観念した。
「分かった。ただし逐一念話で状況を伝えてくれ。それと日が落ち始めとる。今日は活動しないように。」セイゲルの言葉にトウヤは短く返す。
「了解です。」
19話読んでいただきありがとうございます。
コメントやレビューお待ちしています。
またX(旧Twitter)にて投稿告知をしています。
フォローといいねよろしくお願いします。
#イニシエで検索してみてください。
次回は「信じる」お楽しみに。




