18話 襲撃者
負傷した生徒を助けたアデルとリーアは野営地に戻ると周りを囲まれていた。ピンチを乗り越え、みんなは見張りを作ることに。選ばれたトウヤはセイゲルさんから貰ったペンダントを取り出す。
時間は戻り開幕式直前。トウヤが受付を済ませた時、偶然セイゲルに出会った。
「セイゲルさんおはようございます。」
「おはようトウヤ君。」トウヤの挨拶にセイゲルは少し疲れた顔で答えた。
「元気がありませんが大丈夫ですか?」トウヤの質問に少し驚いた様子だった。
「顔に出てしまっていたか、少し気になることがあってな。」アデルのことだろうか。教え子を気にかけるとはセイゲルさんはやはりいい人だ。
「実はな、予定している限界ラインあたりで不穏なオーラが漂っているみたいなんじゃよ。」それは千里眼でみたからだろうか、トウヤは不思議に思ったが聞かないことにした。
「それでだな、君に調査してきてもらいたいのじゃ、教導者よ。万一があれば統括局および近衛がすぐに駆けつける。だからどうか頼む。」セイゲルは右手を胸に当て軽く頭を下げた。
「やめてください。少なくともあなたの方が立場は上なんですから。」トウヤは慌ててセイゲルを止めた。
「内容に関しては了承しました。それで具体的な連絡手段はどうしますか?」トウヤが聞くと、セイゲルはポケットからひとつのペンダントを取り出した。
「何かあればこれを割るなり潰すなりして破壊しなさい。私が持っているもうひとつと連動していての、一方が破壊されればもうひとつも破壊されるようになっとる。」真珠のような宝石に金細工が装飾されていて綺麗だ。
「高そうですが壊して平気なんですか?」トウヤはあまりの高価な品を壊すことに少し抵抗を示した。
「心配は要らん。何せ自分で作ったやつじゃからな。」これを?と思わず二度見してしまうトウヤであった。
朝が来た。霧が出る森の中、ガンティルを握りしめ片足を切り株の椅子にのせ聞き耳を立てている少女がいた。
ロキである。
彼女は閉じていた目を見開き、ガンティルを構え照準を遠くに立つ一本の木に定める。ポンと気の抜けたような音と共に遠くの目標であった木が倒れた。
「ちっ・・・まだ精度が甘い。」ガンティルの基本的な構造は、神聖力を注ぐと本体に刻まれた刻印が瞬時に圧縮し押し出す、という単純な造りでできているが、ロキが使用する改造型は自身の属性を発射時に乗せることができる。かなりの技術が必要だが、習得すれば相当な威力が出せる代物だ。
「私にも千里眼があれば。」ロキは自分の手を握りしめた。彼女はスキルを持っていない。そのためロキ一家の中でも落ちこぼれなのだ。特に遠距離武器を使うためには千里眼が必要不可欠であり、使えない者は己の感覚に頼るしかない。その時だった。空から大きな雄叫びが聞こえたのだ。声のする方を見ると小型の鳥が数百で群れを成してこちら側へ飛んできている。
エレムバード。飛行型の魔獣の中で最も小さく、群れを成す習性があり、鋭い嘴で体当たりをしてくる厄介な魔獣だ。
「みんな起きて!トウヤも早く起きて!」ロキは急いでみんなを起こした。
「どうしたの?」リーアはテントの中から出て状況を確認した。
「エレムバードが来てるの!早くみんなを起こして、トウヤ起きて。」トウヤは即座に立ち上がった。
「状況は?」
「ディジェクラントの方角から多数のエレムバードがこっちに向かってくる。こっちを察知してるみたい。」ロキは指差した。
「遠距離攻撃ができるレオ、ロキ、シーラはすぐに、」トウヤは言いかけた。こっちに向かってきてるのはエレンバード。確かあいつらは。
「全員武器を構えてその場に待機。至近距離まで接近次第攻撃開始。」その言葉にロキは反論した。
「その距離まで迫られたら全部捌き切れるか怪しい。早めに撃退しないと。」迫るロキにトウヤは両手で落ち着けと促した。
「エレムバードだとしてもあの距離で僕らを察知できるとは思えない。多分別の何かを察知したんじゃないかな。」恐らくセイゲルさんが言っていた何か不穏なオーラを探知した可能性もある。みんなも続々とテントから出てきた。
「とにかく待ってみよう。何かあれば俺がなんとかする。」トウヤの目を見てロキは多少迷ったが渋々了承した。
「族の全滅だけは避けてよ。」そう言ってロキは持ち場に向かった。
「密集隊形でいこう。全員ベルゼンの周りで固まって。」ベルゼンを中心に囲むようにみんなで固まった。エレムバードがすぐそこまで迫ってくる。みんなは武器を構えた。
「よーい!」トウヤの合図に合わせてみんなが狙いを定めた。木々の間を通り抜けそうなくらい降下した時、エレムバードは僕らを通り過ぎ、限界ラインの方向へ飛んでいった。みんなは一息つくと武器を納めた。
「飛び去った方へ行ってみよう。」トウヤの提案に僕は正気かと視線を送った。するとトウヤが大丈夫という顔をする。
「道中で魔獣を多少狩ったといえど、まだまだ得点は足りない状態だ。どうせならこの演習の上位を狙いたくない?エレムバードの素材は飛行型だから得点も高いんだ。それに正面は強いが背面はとても脆いという弱点もある。だから心配は要らないと思うよ。」みんなは顔を見合わせた。
「まぁ、安全なら得点は取りたいわよね。」
「そうだな、安全ならな。」
「危険と判断したら逃げられますよね?」
「まぁ少なくともさっきのが全部向かってくるわけじゃないだろ。なら盾で防げなくもない」
「しっ・・・死ななければ僕は行きます。」
「じゃあ行くか」
「だけど負傷者はどうする?」
話し合った結果。負傷者はまだ動けないため、容態次第で明日本部に運ぼうという話にまとまり、念のためシーラを留守番させることにした。負傷した生徒に事情を説明した後、エレムバードが飛んでいった先の限界ラインに向けて歩みを進めた。
荒い道を進み谷を越えた辺りで上空に停滞してるエレムバードを発見した。
「間違いない今朝方に遭遇した群れだぜ。」
「レオ、ロキは遠距離攻撃で片っ端から撃墜させて。ベルゼンは前で構えてぶつかってきたやつらを僕とピトで処理する。アデルとリーア、クロウはやつらを引きずり下ろして墜落次第確実に頭を破壊すること。」号令と共に遠距離の2人が攻撃を開始し、僕も行動を開始した。
「手印法4束縛」数十本の地面から伸びた鎖は上空にいるエレムバードの羽を絡めとり、下に引きずり下ろす。
「リーア!、クロウ!」鎖から逃れようと地面で悶えるエレムバードをリーアが凍らせる。
「アイススプレッド!」続いてクロウが凍ったやつを次々に叩き割る。
「打拳!」ガラスのような音と共に固いエレムバードの頭を木っ端微塵に破壊した。このローテを繰り返しているといつの間にかエレムバードを倒していた。しかし鳴き声がまだ聞こえる。どうやら上空では無く、森の奥の方で鳴いてるようだ。
「アデル片付いた?」後からトウヤ達が走ってくる。
「奥にまだ居るみたいだ。進んでみよう。」僕たちは音を立てないように森の奥へ歩みを進めた。
「見て、密集してる。」ロキが指し示す方を千里眼で見ると地面から禍々しいオーラが溢れている。その上に我先にと集るようにエレムバードが密集していた。
「アデル、レオ頼む。」
「手印法第10アクアリウム」
「シャウターアロー」
上に向けて放たれたレオの矢がアデルによって威力を増し、綺麗な放物線を描いた。滝のような水の矢がエレムバードに到達する。その直前に結界で阻まれた。
「結界が張られてるのか?」攻撃に気づいた数十匹のエレムバードは地面と平行にこちらへ突っ込んできた。
「ベルゼン!ガード!」大盾を地面に突き刺し、その背後にみんなで隠れた。金属音が数回鳴った。
「アデル!」トウヤの叫びと共に地面に手を置いた。
「手印法第16アースクエイク」大盾の前に鋭い岩塊が轟音をあげながら生成され、エレムバードを串刺しにした。
「終わった?」恐る恐るみんなで顔を出す。殲滅を確認した一同は深く息を吐き、その場に座り込んだ。クロウは大の字に体を広げ、寝転んだ。
「みんなお疲れ様。いい連携だったよ。特にリーアとアデルは案外相性がいいかもね。」トウヤの言葉に二人は反論した。
「どこがだよ?!」
「どこがよ?!」見事にハモった。
「そういうとこだよ。それよりも。」トウヤは視線を禍々しい物へ向けた。みんなが座っている中トウヤはその正体を調べに行った。
「これは・・・」その地面には刻印が施されており、目視でも赤黒いオーラを放っていた。エレムバードは人間以上に魔力を食料とする習性がある。もしかしてとは思ったが、ある意味天然の探知機だなとトウヤは思った。続々と他のメンバーがこちらにやって来る。
「うわ!なんだこれ気色わっりーな。」クロウが手で鼻を覆う。
「魔獣の血で描かれてるのかしら?臭いがきついわ。」
「トウヤ、これなんの刻印か分かる?」
「二重に結界が張られているな。しかもこれ、」トウヤが言いかけたその時、みんなは背後に黒い殺気を感じた。振り返るより早く剣を抜いたリーアとアデルはピトに降りかかる斬撃をはね除けた。黒いボロボロのフードを被った長身の男は宙で一回転して後方に着地した。
「何者だお前ら。」掠れた声のフードの男は不気味なくらいこの世ならざる者に見えた。
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次回は「敵意」お楽しみに。




