16話 迫り来る魔の手
いよいよ合同演習がスタートした。アデルはアース族でトウヤやリーアの他に新たな仲間と共にこの苦難を乗り切る。
「え?!」急所を外したのか或いは傷が浅かったのかは分からないがピトのナイフが刺さったダークウルフはまだ動いていた。
「静かになりやがれ!」そこに駆けつけたクロウが二回ダークウルフの背中と頭に攻撃を食らわせ、ようやく動きをと止めた。
「すまねぇピト、一匹逃しちまった。怪我ねぇか?」ピトは安心したようでその場に座った。
「もっ…問題ないです。助けてくれてあ…ありがとうございます。」ピトの様子にクロウも深く息を吐く。
「そそ…それよりもクロウさん血だらけですけど大丈夫ですか?」
「あーこれダークウルフの血浴びただけだから心配いらねえよ!ベトベトでくっそ気持ち悪いがな!」笑いながらクロウは腕をブンブン回して払っていた。
「レオ洗い流してくれー。」他のメンバーも警戒を解かない様にこちらに向かってきた。
「僕は便利屋じゃないよ。」と言いつつ後頭部をかきながら片手から水を出した。
「ありがてぇー。」クロウは血を洗い流した。
「手が空いてるやつは牙取るのを手伝ってくれ。軽い傷でも怪我がある場合はシーラに治癒してもらって。」シーラは光属性の持ち主で治癒術は光属性の使用者のみが使用を許可されている。攻撃的術式がほとんどなくバフやヒールが主な役目となっている。各々が支度を終えたころ。
「さて先に進もう。」日が真上を過ぎ小鳥のさえずりが徐々に増えた頃再び一向は走り始め、草木が生い茂る山道をただひたすら駆け上がるのだった。
「最後の刻印は済んだな。」
「終わりました。いつでも展開できます。」中心に一つそれを囲うように計7つの陣が刻印が完了した。
「よし時間どおりだ。全員に連絡。これより計画の第一段階を行う。各員、魔法陣を展開せよ。」その知らせはディジェクラント王国に潜む亜種族全体に行き渡った。一斉に陣が展開され禍々しい色の幕が王国を飲み込んだ。しかし人々はまだこの変化に気付いていない。
日が傾く頃、アース族一向は限界ライン付近に到着した。
「日没までに夜営の支度を済ませよう。ベルゼンとアデル、二人に任せる。その他は罠の設置や警戒をお願い!」僕は布を取り出し、ベルゼンは防護術式が刻印された太柱を開けた場所に立てた。
「手印法第二ハンドコントロール」僕は布をゆっくりと持ち上げ、太柱に掛けた。この布にも刻印が施されてるらしいが、古いため使えるかどうか怪しい。
「アデルとトウヤって仲良さそうに見えるけど、古くからの知り合いなのか?」杭を打ちながら、ベルゼンが質問してきた。
「出身地が同じなんだよ。そんなに仲良く見えた?」
「見えたと言うより戦いの最中で、咄嗟の対策に大体アデルに指示を出してたからかな。互いを良く分かっているように感じたんだ。」ランタンに火を付け、暗くなった森に光を灯した。
「まぁ単純に二人で鍛錬することが多くて、その内に得手不得手を覚えたからね。」二人で話している所にトウヤたちが帰ってきた。
「おぉ結構立派だね。使い物になるかは別だけど。」トウヤたちの目の前には、森の開けた中に使い潰された古い深緑のワンポールテントが足っていた。そのテントは環境のせいか異様な存在感を放っていた。
「まぁ一応起動してみるか。シーラ頼んだ。」
「はい…」ゆっくりと歩み寄り太柱に手をおく。
「セルリア様どうか我々をお守りください。」
その言葉と共に太柱は輝いた。神聖力が布へと伝わり、周囲に暖かな空気が漂った。
「使えたな。よし警戒解いて平気だよお疲れ様。」トウヤの言葉に皆安堵した様子だった。
「あー疲れたぜ!腹も減ったし飯にしよ飯に!」クロウは疲れ果てた様子で地面に倒れながら言った。
「そうだな飯にするか。ベルゼンみんなに食料配ってくれ。」ベルゼンはリュックから携帯食料を取り出しみんなに配った。他は焚き火を付けそれを囲うように座る。
「けっ…これだけか結構少ないな。」
「仕方ないさ。残りの7日間これで生きていかなければ生けないからね。」クロウの文句にレオが突っ込む。確かにお世辞にも旨いとは言えないし、量があるわけでもない。
特にリーアやロキなど令嬢にとってはとても耐えられないと思っていたのだが、意外と文句も言わずに食べていた。
「何その目は。もしかして私達がこんな携帯食料、食べられないとでも思っていたの?」視線を向けたのがリーアにバレてしまった。
「幼い頃から軍に所属する貴族たちは昼食に携帯食料を食べているのよ。訓練のためにね。だから慣れたわ。」ロキが丁寧に説明してくれた。
「まじか。」クロウも少し引いていた。
「もちろん、商売貴族は毎食豪華よ。それでも誇りある近衛を任されている以上、贅沢なんて言ってられないから。」ロキもそうだが、リーアがそんな心持ちでいたとは驚きだ。
その時後ろで物音がした。
一同は武器に手をつけ、音のする方を見る。
「助けてくれ!」誰か分からない生徒の叫び声がした。
「そんな、空間探知に何も引っかかってないのに。」トウヤが呟いた。
「私が行く、みんな待ってて」リーアが飛び出す。
「僕も行く。」二人は声のする方へ向かった。
「なんでついてきたの?!」リーアは走りながら聞いた。
「一人で行くよりいいだろ。」すると縮こまった一人の白い制服を着た生徒を見つけた。
「大丈夫?!」リーアが駆け寄ると男が顔をあげる。
「リーア様」どうやらうちの学校の生徒らしい。背中や腕に複数の引っ掻き傷から血が滲んでいる。ダークウルフにやられたのだろうか?
「私よりも仲間を」
「グルゥゥ」目線の先から獣が唸るような声が聞こえた。ダークウルフだ。それにしても昼間に討伐したやつより邪悪なオーラだ。
「トウヤは何も引っかかってないって。」どうしてだろう。探知に失敗なんてしたこと無かったのに。
「とにかく倒しましょ。」リーアが切り込む。
僕は親指以外の指を重ねる。
「手印法第四束縛」鎖は向かってくるダークウルフを確実に捕えた。しかし軋む金属と共に鎖がちぎれた。
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次回は「転換」お楽しみに。




