12話 支度
師匠との試験に無事合格したアデルは帰り道に、ウルザス教団の手下と遭遇する。
ザクバリの正面に来た頃には日がすっかり落ちていた。店の中はロウソクの明かりではなく、トウヤによる神聖術で明るくなっていた。中に入ると既に待ってたかのようにトウヤが厨房から出てきた。
「待ってたよアデル。師匠とは一緒じゃないのか?」
「師匠なら近衛に盗人を預けに行ったよ。」僕は向かっている最中にあった事を話した。
「なるほどねー。アルバン教団か。」トウヤはカウンターに肘をつき、手で顎を支えて考えていた。
「僕も最近耳にするようになったんだよ。被害が増えてるらしいね。どんな連中なんだっけ?」僕の質問にトウヤは店の外を横切る人々を見ながら答えた。
「アルバン教団は反セルリア派閥の中で最も勢いのある団体だよ。また魔族との和平を望み、貴族社会の失墜を目論んでいるって噂だよ。実際教会が被害に遭った話や、貴族の御側付きが殺されたなんて話もあるらしい。」トウヤの話を聞きながら、同じ人間なのに酷い事をする人も今の世の中には居るんだなと思っていた。しかし、金が無いと生きていけないのは事実だ。この大地で育てられる作物も安心して住める場所も限られてきた。そうなれば持ってる人を妬み、奪いたくなる気持ちが湧いてきてしまうのだろうか。
「聞いてる?アデル。おーい」考え事をしてると他人の声を聞けないのはアデルの悪い癖だ。
「聞いてるよ。」アデルの返事にトウヤは、それ聞いてない人のセリフだよと内心思っていた。
「まぁウルザス教団について知ってるのはそれくらいかな。詳細な情報は国と近衛、それと統括局が管理してるから。」統括局といえば師匠が所属しているところだ。だから盗人の手首をみて教団の関係者だって分かったのか。
「まぁそんな暗い話はやめにしてここに来たってことはセイゲルさんに誘われたんだろ。頼まれた新作用意してあるから少し待ってて。」トウヤは再び厨房に戻っていった。カウンターでさっきの話を考えていた。もし、自分にお金が無かったら教団に入っていたのだろうか。生きるために他人から何かを奪っていたのだろうか。そんなことを思っていたら店のドアを開ける音がした。
「いやいや、遅くなってすまんかった。事情を話すのにちと手間取ってしまったのじゃ。」
僕の顔を見た師匠が尋ねた。
「どうしたアデル?そんな難しい顔をして。」
「いえ…もし今の環境に身を置いて居なかったら、自分はどんな選択をしただろうと考えていただけです。」師匠は少し驚いていた。
「アデルもそんな事を考える歳になったんじゃな。じゃがそんな難しく考えなくても良いとわしは思う。今生きている自分を大切にしなさい。今疑問に思っている事の答えは後になればおのずと出てくる。」師匠の穏やかな言葉が僕の胸の中の重い何かを取り除いてくれたような気がした。
「はい、師匠ありがとうございます。」自然と笑顔になった僕を見て師匠は安心したようだった。
「待たせたねって、セイゲルさん来ていたんですか?」厨房から出てきたトウヤは、師匠を見て驚いていた。
「先ほど着いた所じゃ、頼んでいたやつはできたかの?」師匠の質問にもちろんです。と言わんばかりの顔で手に持っていたバットをカウンターに置いた。
「名前はトンカツで、豚肉を使用した揚げ物です。セイゲルさんのご要望通り何か祝いたいときに食べたり、または祈願のときも食べたりしますね。」随分と分厚いなと思いながら一口食べてみた。肉の食感が分かりつつ、しっかりサクサクしてて美味しい。ソースもあまり味わった事の無い味がした。
「このソースは特製?」トウヤにそう聞くと話したかったのかとても熱心に語ってくれた。余程作るのが難しかったように思える。
「アデル、わしにも一つくれんか。揚げ物は食べたことが無かったもんでな。」僕は師匠に一掛け渡してあげたが、トウヤは待ったをかけた。
「セイゲルさん、食べたら胃もたれ起こすからやめた方が。あっ、」時既に遅し、師匠はトンカツを口の中に運んでいた。
「んーうまいなぁ」師匠も気に入ってくれたようだ。その翌日師匠が朝食を食べられなかった事をアデルは知らないのであった。
家に帰るといつも通り両親の姿があった。
「お帰りアデル。」二人は食卓で話をしていた。
「なんの話をしているの?」僕が聞くと父は立ち上がり、僕の方へ向かってきた。
「それはだな。」後ろに手を回し、背中で何かを隠しているようだ。
「じゃじゃーん」という言葉と共に真新しい片手剣を出した。
「合同演習が近いと前々からセイゲルさんに聞いていて、何を持たせようか悩んだが、やっぱり剣がいいだろうと思ってな。昔の知り合いに作って貰ったんだよ。」手渡された剣はデザインも父の剣に似ている造りで、神聖石が青色で父とは対照的な色になっている。
「重さやサイズはどうだ?一応アデル好みに仕上げてあるはずなんだが。」不安そうな父とは裏腹にここまで完璧に作れるのかと僕は感動していた。気に入った。
「素振りしてきていい?」僕の言葉に両親はコクりと頷いた。早速使おうと、僕は外へ出た。それを見たエドレスとストベラは顔を合わせ微笑んだ。
「気に入ってくれたようで良かったですね。」
「ああ。合同演習上手くいくといいな。」
それからの合同演習会までの10日間の記憶はあまり無い。術式を覚えたり、手に剣を馴染ませたりと忙しい日々を過ごした。遂に今日、合同演習の会場であるディジェクラントに向かうため、転移門の前にケストレア王国高等生一同が集合する。
12話読んでいただきありがとうございます。
またここまで読み進めていただき感謝で一杯です。
さて次週からはいよいよ学校編の山場である合同演習が始まります。是非続編を楽しみにしていて下さい。
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次回タイトルは【開幕】です。




