11話 手印法
イニシエについてトウヤと話していたアデルは、ファーゼンの授業後に師匠と対決をする。
アデルが術式を唱えると同時に地面から岩塊が連なりながら轟音をあげて、師匠へ向かった。師匠は瞬時に手の形を変えて唱えた。
「手印法第5プロテクト。」岩塊は師匠の眼前で動きを止めた。手印法は手の形を崩すと、前に発動した術式が失くなる。簡単に言えば一度に複数発動はできない。そのため守りに入った師匠は第4束縛を維持できない。足が動くようになった僕は一度距離を取るため後方へ下がった。岩塊が崩れ師匠は次の一手を出すため、右手の人差し指に中指を上にのせ水平にアデルに向けて唱えた。
「手印法第11インフェルノ。」火花が散り炎で覆われた紅色の玉が僕に突っ込んでくる。プロテクトでも凌げるが、ここは守りながら攻撃をした方が次に来る術に対応しやすいと判断し、両手を器のような形にして唱えた。
「手印法第10アクアリウム。」次の瞬間僕の回りに8個の水玉が出現し、インフェルノに5個、師匠に3個放った。飛んできたインフェルノは消沈したが師匠は左手でなぎ払った。手に神聖力をまとっている。師匠は更に連続でインフェルノを放ってきた。僕も水玉で応戦する。相打ちが続く中、オーバードライブも相まって神聖力がそろそろ切れそうな状態だ。起死回生発動後に一気に攻める。そう思っていたが、発動前に師匠が先に動いた。
「手印法第19空間転換。」師匠は一瞬にして目の前から姿を消した。不意打ちを警戒し、辺りを見回しながら左手の親指と人差し指で輪っかを作り唱えた。
「手印法第19空間て、」言い終える前に首の辺りに打撃をくらい詠唱できず、術が発動しなかった。目の端で見ると師匠が背後から硬化した腕で手刀を入れたようだ。僕は体の軸を効かせ、師匠に人差し指を向け唱えた。
「手印法第1圧。」師匠は少しよろけたが、すぐに体勢を立て直し、僕を地面に叩きつけた。
負けたと感じて僕は体の力を抜いた。
「ここで何か反撃ができたら満点じゃったな。」師匠は手の力を緩めながら言った。
「すいません。考えが至りませんでした。」
僕は起き上がりながら答える。
「アデル、決闘のときもそうじゃが、最後に自分が力が出せなくなった際、諦める癖があるな。」師匠は僕に手を差しのべた。僕はその手を掴み立ち上がる。
「それにスキル発動時まで持久戦に持ち込もうとするのは格上相手には通用せんぞ。今後直すように。」僕は黙ったまま頷いた。
「ともあれ及第点じゃ、10番台のスキルは全て見れとらんが、次の20番台に練習を移行しても問題ないな。4年で良くここまで仕上げた。」その言葉を聞いた僕は嬉しい気持ちになった。
「本当ですか?」僕は高ぶった声で聞いた。
「この後の残りの術式の出来次第じゃ。」その後僕は
第12ニブルヘイム、第13ライトランス、第14ウィンドクロス、第15タイムエンド、第18ホーリープリズム、第19ダークインバウンドを順に披露し無事合格を貰った。
「アデルよ、お主に20番台を教える前に言っておく事がある。」師匠は険しい顔をしていた。
「この先習う術は加減をしても生命を奪えてしまうものばかりになる。それは殺しの手段を覚えるのと等しい。生物は古来から殺しの手段をもっている。ある生物は牙や爪を長く生やし、またある生物は自分の体内で毒を作った。人間は道具を作りそれに対応してきた。それは生きるために必要だからじゃ。君はその手段を何に使う。」真剣な眼差しの師匠を見ながら答えた。
「家族のために使います。」サナのためでも。僕の言葉を聞いた師匠は静かにこう言った。
「分かった。」
校門まで師匠と共に歩いていると夕陽が沈みかけていた。ふと師匠は思い出したかのように僕に聞いてきた。
「そうじゃ、アデル。今日トウヤと彼の店に行く約束をしたのじゃが、一緒に来るか?」
トウヤといつの間に仲良くなったのか疑問に思ったが、師匠からの誘いは珍しく断る理由はなかった。
「行きます!」僕は勢い良く返事をした。
街中に入ると遠くの方で悲鳴が上がった。
「きゃーーー返して私の財布」どうやら引ったくりにあったようだ。犯人は人々をかき分け真っ直ぐこちらに向かってくる。
「アデル」師匠は短く僕を呼んだ。この場合任せる、という合図だ。
「はい、師匠」僕は手をつき、犯人が人混みが開けた所に来た瞬間、唱えた。
「手印法第16アースクエイク。」今回は加減をして岩塊を少し出しただけだが、転ばすには十分だ。足を引っかけた犯人は体勢を崩し、地面に倒れた。僕は走って足で背中を抑え、財布を取り返し、向かってきた少女に渡した。
「ありがとう、お兄さん。」少女はそう言って走り去っていった。その姿をサナと重ね、心臓がキュッとなった。僕は首を横に振り犯人を見た。全体的に痩せ細り、黒い布で顔を覆っている。
「良くやったアデル。」後から来た師匠は眉をひそめた。どうやら犯人の手首にあるギザギザの入れ墨が気になるようだ。
「どうやら巷を騒がせてるアルバン教団の手先のようだな。」アルバン教団は目立った犯罪はないものの、盗難事件のほとんどが教団の手によって行われていると言われているほど巨大なカルト集団だ。
「アデル、わしは近衛にこやつを引き渡してくるから先にザクバリに行ってなさい。」
「分かりました。」
11話読んでいただきありがとうございます。修正点、感想等コメント待ってます。
次回第12話支度お楽しみに。




