2020年3月12日 解放者ルネ ~熾烈なる二党の闘いを阻止せよ~
2020年3月12日
衣玖「本当に行くのね、解放者」
ルネ「あぁ。なんとしても止めなくてはならない。この戦いを」
軒先にて、外套を風に揺らせるルネの背中を見つめる衣玖。解放者は決戦の場を見据えている。
衣玖「あなたを止めることが出来ないのはわかってる。……だからどうか願わせて。あなたの無事を」
ルネ「あぁ。それじゃあ行ってくる。晩ご飯はモスバーガーで頼む」
衣玖「どうして……?」
ルネ「今日がモスバーガーの記念日だからだ」
そうして、いつでも記念日を大事にするルネは旅立った。遠い道の先にある戦場を目指して。荒れ果てた道を行き、戦場の余波が街をボロボロにしているのを横目に進む。
やがて……ルネの耳にも様々な戦場の音が届くようになった。
ルネはその戦いを止めるべく、なんとか戦場の中心に立ち続ける。だがその戦闘はどちらの陣営も引くこと無く戦い続けている。
ルネ「何故だ……! どうして戦う!! どうしてお互い手を取り合ってわかりあえない!!」
ルネは叫びながら両陣営の間に立つ。しかし戦火は広がるばかり。相対する二つの巨大勢力にルネの叫びは届かない。
どら焼きチョコ「やつらが先に始めたのだ! 我々は平穏に暮らしていた!」
ミルクおせんべ「そうだ……! 古き民である我々を蔑み、駆逐しようとしたのは奴らだ!! 仲間にも既にたくさんの犠牲が……!」
チョコマドレーヌ「それは貴様たちが新しいお菓子を認めないからだ! 貴様たちの年季であれば別の道もあったろうに!!」
フォトジェニックケーキ「味、見た目、全てにこだわって生まれたのが私達よ! 古い時代のまま、その姿に固執したあなたたちのほうが間違っているとは思わないの!?」
おにぎりおせんべ「なにぃ!? それでも俺たちは味と信頼、安心感を届けるためにこうしてお客さんと歩んでいるんだ! それを間違っているだと!?」
表面焼きプリン「その歩みの遅さが今の格差につながったのさ……タラタラしてたお前たちの負けだ!」
タラタラしてんじゃね「!?」
熾烈なる戦い。混迷を極める戦場。駄菓子とスイーツは相容れること無く、どんどん戦火を広げている。
ルネ「やめろォお前達!! あたしは駄菓子もスイーツもどっちも好きだぞ!!!」
インスタ映えフルーツ盛り「でも人間! あなたは今となっては食べるのはスイーツのほうが多いでしょう!?」
ルネ「た、たしかに接する機会はスイーツのほうが多いが……! でもたまに食べたくなるんだ、駄菓子も!」
タピオカラテ「ほらね……! もう駄菓子は終わりよ!」
ルネ「違うっ! あたしはっ……!」
ルネの言葉も届かず、駄菓子側の何者かが砕け散った。
お金チョコ「うわぁぁあ! ポティトフライ!!!」
味なカレー「ポティトフライが生産中止された!! おのれぇぇぇスイーツどもめぇええ!!!」
アイスケーキ「ハッ! ポティトフライは数多くの子供の口内を傷つけてきた! 当然のバツさ!!」
カフェのミルクレープ「所詮駄菓子など!! お菓子業界の落ちこぼれよ!!
戦場はスイーツに有利であった。互いに互いを破壊し合うお菓子の戦場において、スイーツはあまりにもその種類、単価、知名度で分があるのだ。
ルネ「どうして……お前たちはどちらもお菓子だろう!! お菓子なんだよ!!」
ルネの必死の叫びも届かず、お菓子たちは互いの身を食い合っている。
欠けるうまか棒。すくい上げられるクリーム。おにぎりおせんべの海苔が儚く空を舞い、タピオカは破裂し弾け飛ぶ。もはやこの戦いは止められないのだ。
ルネ「やめろ……」
ミニサワーラムネは内容物を撒き散らし、当たり付きお菓子は連れ去られる。
ルネ「やめろ……!!」
アイスケーキのアイスは溶けていき、たこ焼いたスナックはあえてフォトジェニックケーキの上で息絶えることで写真写り的に相打ちを試みた。
ルネ「やめろーー!!!」
もうルネの怒りは抑えきれない。こんなの間違っている! ルネは咆哮と共に、近くにいたミルクおせんべを手にとった!! そしてもう片手にはねり飴を、垂れ落ちないようにすごい速度で箸を回して空中にとどめながら走った。
ミルクおせんべ「な、何をするのだ人間!」
ねり飴「う、うわぁあ!! ものすごい練られている!!」
ルネ「お前たちなんてこうだ!!!」
ルネはミルクおせんべを連れ、アイスケーキの元へ特攻する。そして溶けかけたアイスケーキのバニラをミルクおせんべで、ぐわっとすくい取ったのである。ついでに近くのフルーツ盛りからいちごを抜き取り、ミルクおせんべに挟み込んだ。
そして同時にねり飴もだ。空中にとどまっていたねり飴を、繊細かつ大胆な箸使いでシフォンケーキに向けて発射したのだ。
フルーツ盛り「うわあああ!! 何をするんだ!!!」
シフォンケーキ「ねり飴が……ねり飴が私の体に! し、侵食される!!」
ルネ「これが……あたしの出した答え!」
ミルクおせんべ ウィズ クリーム アンド ストロベリー。そしてとろとろキャンディシフォンケーキ。それがルネの導き出した唯一の答えだった。
それは光を纏い、風を巻き起こす。一体なんなのだ、あれは。戦場の誰もが動きを止め、その白銀に輝く何かに見入っていたのだ。
ルネ「古き良き駄菓子。進化を続けるスイーツ。どちらも素敵じゃないか……相対することはないんだ。こうしてお互いの良いところを使えば、また新しい形が見えてくる。駄菓子スイーツとして!!」
そう、ルネの至った答えとは、駄菓子とスイーツの融合であったのだ。
今日という日はスイーツの日と駄菓子の日が別枠で同時に置かれた日。相容れぬ二つのお菓子が戦いを余儀なくされる日ではなく……お互いを認め合い、そして願わくばこうして新たな道を導き出すための日にするべきである。……ルネはそう願ったのだ。
ルネの取った道は記念日の解放ではなく融合。新しい道を、解放者もまた見つけたのである。駄菓子とスイーツ同様に。
しかし認められないものもいる。
たこ焼いたスナック「くっ……だが人間! 俺たちゃどうすりゃあいい……たしかにそれなら、ミニプリンちゃんやヨーグルン、チョコソフツ達のような甘い系駄菓子は新しい道が開けるかも知れない……でも俺たちは……?」
そこには不安そうな顔のたこ焼いたスナックを始め、でかカツ、よっちゃんタコなどが佇んでいる。新しい道を見つけたのは理解したが、受け入れられないようだ。無理もない話だが。
ルネ「お前たち……カリカリ梅も田舎こんぶも……お前たちにはそもそも、別の道があったじゃないか」
さくら色大根「別の道……?」
ルネ「あぁ。わざわざここで戦う必要は無い。お前たちには既に……主食のお供という役目があるんだから」
おやつカルプス「あぁ……あぁっ……そうだ……俺達は、ご飯と一緒でも美味しいって……」
ルネ「だから本当に、お前たちは争う必要なんてなかったんだよ。記念日が同じ日にあるからって、闘う必要はなかったんだ。駄菓子でご飯を食べて、その後にスイーツになった駄菓子を食べる……そんな世の中を願うことこそ、お前たちが本当にやるべきことだったんだ」
こうして誰からも戦いの意思が消えていった。その戦いに意義も正当性も感じられなくなっていったから。
ルネはまた一つ、記念日より生まれた悲しい戦いを乗り越えたのだ。駄菓子とスイーツ、どちらも素敵だと言い残して。
やがてルネのお料理レパートリーには駄菓子のおかずを添えるレシピ、甘い系駄菓子に適当にクリームをつけるレシピなどが加わるのだった。




