2020年3月11日 イリス誕生日(ディレイ)
2020年3月11日
今は昼というにはまだ早い時間。聖美の家で作戦会議をするミニーズたち。イリスがちょうどトイレに立った時、窓辺に梟が舞い降りた。
アンジー「あれ、イリスちゃんの伝書梟じゃない?」
聖美「ホントだ。なんだろうね?」
魔法界からの便りは普通郵便で届くこともあるが、こうして動物を使って届けられることも多いのだ。この梟は特にイリスの家の梟らしく、聖美もよく見ていた。とても賢く、窓を優しくノックするようにくちばしで突いて聖美が開けるのを待っている。
聖美はイリスがやっていたのを真似るように優しく窓を開け、それから脇にある魔法の餌を掴んでその梟に与えた。すると梟は持ってきていた手紙をぽいっと家の中に投げ入れ、しゃくしゃく餌を食べると再び飛んでいってしまった。クールな梟である。
投げ入れられた手紙はもちろんイリス宛であるのでアンジーも聖美も盗み読もうとは思わない。だがしかし、筒状になっていた手紙に「お誕生日おめでとう!」と書かれていたのだ。
アンジー「これ……誰の誕生日の話だろう……?」
アンジーはわからないから尋ねているわけではない。イリス宛なのだから誕生日を祝われる人間なんて絞りきれる。だがイリスからは誕生日の話など一切聞いていないのだ。
聖美「……ちょっと読んでみよっか……」
アンジーが止める間もなく聖美は手紙を手に取り、ペラっと捲って中を読んだ。
中にあったのはそのまま、イリスちゃんお誕生日おめでとう! という親からの誕生日祝いの手紙である。
アンジー「えっ……イリスちゃん、今日誕生日なの!?」
聖美「嘘ー! 全然聞いてないよぉ!」
そこにイリスが帰ってくる気配がし、聖美は手紙を元あった状態にして置いておく。ものすごく早くて的確な動作だった。
イリス「ただいま。それで計画だけど……」
聖美「あっ、イリスちゃん、お手紙届いたよっ」
なにも知らないかのような声音で言う聖美にアンジーはただ頷くことしか出来ない。
イリス「あらそう。うちからの手紙か。まぁ何が書いてあるのかはだいたい分かるんだけどね」
そう言ってイリスは手紙を広げ、つらつらと目線だけで読むとそれを折りたたんで自分の机にしまった。
アンジーと聖美は目線だけで会話する。「秘密なのかな?」「わかんない……」。
聖美「な、何が書いてあったの?」
イリス「大したことじゃないわよ。それで計画だけど……」
やはりイリスは話そうとしなかった。アンジーと聖美は再び目線をあわせて「恥ずかしいのかな?」「そうかも……」。
というわけで、なんやかんやと聖美とアンジーが秘密裏に動き、イリスの誕生日計画を練り……その夜。
イリス「はーはっ! 今日はパンダ発見の日! パンダの黒いところにある目はキュートだけどわかりづらくなるのと同じように、闇に紛れて登場よ!!」
完全に日が落ちた夜の時間。聖美の無理やりな提案に乗ってイリスはその夜、まんまと五人少女の家に引き込まれていた。
留音「来たなイリス……今日はこっちが勝負を用意しておいたぜ……」
イリス「ヤル気じゃない留音……受けて立ちましょう!!」
そこにあるのは切り分けられたケーキ(真凛作)である。
イリス「早食い対決というわけ……あんまり自信はないけど美味しそうだしいける……?」
留音「違うぞイリス……これをみんなで美味しく召し上がるんだ!! なぜなら今日はお前の誕生日だから!!」
そのタイミングで聖美とアンジーがパカン! クラッカーを引くと、続いて真凛や衣玖らもクラッカーを引いた。
アンジー「わーっ、お誕生日おめでとうイリスちゃーん!」
それぞれがおめでとうとお祝いの言葉を贈り、パチパチと華やかに拍手をした。西香だけはもそもそとケーキを食べて他人事のようにイリスのお祝いを見ているが。
イリス「な、なんで……?」
聖美「ごめんね。実は朝に届いた梟からの手紙、ちょっとだけ読んじゃって……」
アンジー「(全部読んじゃって)」
聖美「それでイリスちゃんの誕生日だって知って。みんなにお祝いしたいなって言ったら乗ってくれたんだ」
イリス「そうだったの……で、でもあの……」
留音「いいからいいから! めでたいじゃん! 今日は食べようぜ!」
留音はイリスを椅子に座らせてフォークを手渡した。イリスはおずおずとケーキを口に運び、ぱくりと食べて、美味しいと伝えてくれたことに真凛も満足そうだ。
アンジー「でもイリスちゃん、なんでお誕生日教えてくれなかったの?」
イリス「いや、別に大した理由はないんだけど……」
喋り始めるイリスはどこか言いづらそうにしているが、ここで話さないのも悪いと思ったか、ケーキを食べる手を止めて言葉を続けた。
イリス「あたしは魔法界ではもう大人以上の存在っていうか、だからあんまり年齢とかに固執してないって言えば良いのかしらね。みんなに祝ってもらうほどのものでもないなって」
聖美「そんな事無いよ!! 大事な友達の誕生日だもん!」
ピクッと西香が反応している。長らく聞いていなかった友達という言葉に脊髄反射的な反応をしたようだ。特に意味はなく、西香には関係のない話である。
イリス「あ、ありがとう。……でも、あのね」
イリスは言いづらそうにしながらケーキを口に運んでいる。「どうしたの?」とアンジー。
イリス「あたしの誕生日……昨日なのよね……」
聖美「……えっ」
イリス「梟便って梟が飛べないときって勝手に休むのよ。昨日は風強かったし、魔法界が雨だったら無理して飛ばないし……だからあたしの誕生日……昨日……」
なんとなく気まずい沈黙、苦笑い的な空気。そこに西香が一言。
西香「でもケーキが食べられるのですからいいではありませんか」
来年はちゃんと当日に。聖美はしっかりスマホのカレンダーに書き込んだ。




