2020年3月10日 あま~い日
2020年3月10日
俺の名前は読者。平凡で平凡じゃない男子高校生さ。今日は休日で、朝食を用意する音に導かれて起きてきたところだ。
真凛「読者くーん、朝ごはんが出来ましたよぉ☆」
彼女の名前は真凛。小さい頃からの幼馴染なんだが、高校生になってからというもの休日は毎日のようにこうして俺の胃袋を満たしに来てくれている。やれやれ、一体何のつもりなんだか。
真凛「はぁい、読者くんの好きな厚い卵焼きのサンドイッチとコーンスープですよぉ☆」
でも真凛の料理は本当に美味しいんだ。美味しかったものとか、美味しそうなものを言うと次の日には作ってくれる。それから……。
イリス「洗濯終わったわよ読者。あっ、ご飯食べるの? スープ! 冷まさないとね!」
こっちの子はイリス。すこし前に近くに越してきたんだけど、なにやら真凛と同様に部屋に入ってくるようになった。こんな感じで俺の周りには女の子が多いんだ。
イリスがスープをすくってふぅふぅと息を吹きかけている。そんな事をしなくたって食べれるんだけどな……俺の意見は聞いてくれない。でもその様子を目撃した真凛が「あー!」と抗議の声をあげる。
真凛「もぅ、イリスさん! 読者くんのスープにそんなにふぅふぅしないでください!」
イリス「なんでよ。だって読者があっついスープを飲んで舌をやけどしたら可哀想でしょ?」
真凛「それはそうですけど……でもそんなにふぅふぅしたらダメー!」
なんでこんな言い争いをするんだか、全くやれやれだぜ。可愛い言い争いをする二人をよそに、俺はサンドイッチを持ってテレビの前のソファに移動した。ソファに深く腰掛け、テレビを見ながらサンドイッチを食べていると……。
衣玖「お兄ちゃん」
衣玖が現れた。義理の妹。オヤジの再婚相手の連れ子ってわけだ。年齢がそう離れてるわけではないんだけど、背は小さいしこうして兄ちゃん兄ちゃん、なんて懐いてくれると本当に妹みたいで可愛らしい。
衣玖「お兄ちゃん……」
衣玖は起きたてなのだろう、よろよろしながらこっちへ来ると、ソファの"座るところ"を背もたれにして、俺の足と足の間に体を入れてきた。毎日このポジションだが、なんでも安心するんだそうだ。
衣玖「ふぁあ……眠い。お兄ちゃん、今日はずっと家に居るの?」
俺は首を横に振った。友達と出かける日だ。
衣玖「またぁ……? 休日いっつも出かけるね……せっかく新しいゲーム買ったのに」
ごめんごめん。足の間にある衣玖の頭をポンポンと撫でてやると、衣玖は両サイドの俺の足を両腕でガッチリとホールドしてきた。
衣玖「やぁだっ。今日はお兄ちゃんと遊ぶっ。遊ぶって言うまで離さないっ」
衣玖はとんでもなく頭がいいはずなのに、俺にはこうやって甘えてくるんだ。まったくやれやれだぜ。
帰ってきたら朝まで付き合ってやるからさ、なんて言うと、衣玖はホールドを解除して、代わりにこっちを見上げて言った。「ほんとぉ?」俺は頷く。
衣玖「じゃあお夜食を用意して、魔剤も置いとかないと……絶対寝かせないから!」
これはヘヴィな日になりそうだ、やれやれだぜ。
それから真凛とイリスのバチバチが引いて、俺もご飯を食べ終わり支度をして家を出た。友人との待ち合わせは駅中にある、大きなオブジェクトの前が定位置だ。そこで立ってスマホを触って時間を潰していると。
「あ、あのぉすいません……いまお一人ですか?」
突然声をかけられた。とても可愛い女の子だ。まったく、可愛い女の子は間に合ってるんだけどな、やれやれだぜ。
「実は私も一人でぇ……よかったら一緒に遊びに行きませんかぁ……?」
逆ナンってやつじゃないか。俺はすこし心をときめかせつつ、でも自分を制する。だめだ、怪しすぎる。でも本当に可愛い。この子は本当に……って、見つめた顔の、その口が、すこし笑いを我慢しているように見えたんだ。まさか……。俺は一気に気持ちが白けてきて、その名前を呼んだ。アンジー?。
アンジー「……ぷぷ、ばれちゃったー☆ そうだよ、残念ボクでした~っ! どう? ドキドキした?」
そうだ。こいつと遊ぶ時は要用心なんだ。学校では普通の格好をしてるけど、たまにやたらクォリティの高い女装をしてくることがある。見た目も声も美少女だからこれまで何度騙されかけたことか。
純情な一般男子を弄ぶのはやめてくれよ。俺はやれやれしながらそう言うと。
アンジー「じゃあときめいちゃったんだぁ? んふっ、じゃあもっとときめかせちゃおっと♡」
なんて、俺の腕に抱きついてきた。華奢な体が触れて、俺はドキッと心臓が鳴るのを抑えきれなかった。こいつは男なんだ……でも周りから見たら美少女を連れた羨ましい男に見えるんだろうなぁ……一般男性の嫉妬の目線にやれやれだぜ。
そんなところで。
??「こ、こらーっ! 公共の場で何をやってるのー!」
アンジーがベタベタと俺にくっついてきていたところで、遠くから声がした。駅のオブジェクト前にはたくさんの人達が待ち合わせのために待機している。そのみんなの視線が一気にそちらへ向くのだが、その声の主は気にしていないでこちらにずんずんと詰め寄ってきた。
アンジー「あっ、聖美ちゃんだ」
そう、声の主は学校で風紀委員を務める聖美会長だ。品行方正、ミスコン優勝、才色兼備の女子高生。でもなんていうか、俺は目をつけられている気がする。
聖美「ど、読者くん! こんな場所で知らない女の子とくっついちゃだめでしょ! う、うちの学校の風紀が……っ」
聖美会長は唐突にそんな事を言い始めた。そう言われても困るというものだ。
アンジー「えへへへ……会長こんにちは」
聖美「えっ……? うちの生徒の子……?」
アンジー「誰かなー? えへへへ☆」
聖美「だ、だめでしょ! 不純異性交遊だよ! 風紀委員長として許しません! 読者くんから離れて!」
そう言って聖美会長は俺の体を無理やり引っ張ってアンジーから引き剥がした。そんなに強く引っ張られたら痛い。
アンジー「不純異性交遊なんかじゃないよぉ。ボク男の子だもんー」
聖美「何言ってるの! そんなに可愛い格好して可愛い声で……っ」
アンジー「ボクだよぉ。アンジー。同じクラスのぉ」
聖美「嘘っ……アンジーくん!? ほんとに女の子だったの!?」
アンジー「逆だってばぁ」
まったくやれやれだぜ。しかし会長、こんなタイミングでよく出来たってもんだよ。それにこんな外でまで風紀活動に勤しんで。まるで常に監視されてるみたいだ、なんて冗談で言うと聖美会長は首をブンブンと振りながら言った。
聖美「別に違うよ!? イリスちゃんと協力して動向を監視してたわけじゃないし! ストーカーみたいな事何もしてないから!!」
何を言ってるんだか。まったくやれやれだぜ。
聖美「んんっ、と、とにかく。二人が不純ことをしないように今日は私も監視します!」
聖美会長は人目を憚る事無く俺の腕に絡みついてきた。風紀はどこへいったんだか。
アンジー「両手に華だねぇ、読者くん」
お前は男だろうが、なんて言えないほど可愛いアンジーに茶化されて、まったくやれやれだぜ。
帰った後には真凛とイリスが作ったデザートと夕食を食べさせられるんだろうな。いつもみたいに「あ~ん」なんてされたらたまったもんじゃないぜ。その後は衣玖とゲームでオールナイトか。あいつ眠くなってくるとやたらと纏わりついてくるんだよな。
しかしやれやれ、アンジーと聖美会長、いい加減離れてほしいぜ。聖美会長はたまに柔らかい感触があって困るし、アンジーは遠慮なくくっつきすぎだ。
今日は砂糖の日。だけどこうやって甘々なのはやれやれってもんさ。




