2020年3月9日 感謝の日
2020年3月9日
夕方、駅のホームを歩いている二人の女子高生。時間的に学校の帰りなのだろう。にぎやかで、とりとめのない日常の一コマだ。
「それでさぁ、彼ったらホーント鬱陶しいのよ、お前何歳だよって、アッハッハ」
聖美「あはは、そうなんだ」
「聖美も彼氏作ればいいのに。この前告って来た人さ、かなりすごい人だったらしいよ。来年からプロチームに入るんだって。今からでももう一回声かけたらホイホイついてくるっしょぉ」
聖美「うーん……」
「付き合ってみたら意外と楽しいかもって! 将来有望だし!」
苦笑いをする聖美。彼女は学校の中で高嶺の花と認識されている。女子からは良い子だと思われているし、男子からは清楚で気品があるとされていて、話したことは無いけど好き、という印象をよく持たれていた。
駅の中を歩く彼女たち。駅ナカのカフェで休憩でもしていこうと、すこし入り組んだ構内を進んでいく途中、曲がり角の出会い頭で聖美は誰かにぶつかられた。
??「あ、ご、ごめんなさい!」
「ちょっと! 聖美、大丈夫!?」
聖美の友達が即座に抗議の声を上げる。ぶつかられた聖美がよろけて尻もちをついたからだ。
??「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか? 痛かったよね、ボクの不注意で……」
聖美「あ、大丈夫ですよ、全然痛くなかったし……」
聖美は本当に痛くなくて、簡単に立ち上がってスカートのお尻をパンパンと払う。
??「ど、どうしよう。ボク今何も持って無くて……」
聖美「本当に大丈夫ですから。急いでたんなら……ね?」
??「ご、ごめんなさい。それじゃあ……」
ぶつかった相手はまた足早に、今度は注意しながらスピードを落としてどこかへ去っていった。
「はぁー……本当に痛くないの?」
聖美「全然大丈夫だよ。それより何食べてく?」
聖美がすぐに話題を変えたことでその友達も安心したようだ。ならばとその子も話題を変えた。
「それよりさ、今の子、男の子だよね?」
聖美「多分。制服着てたし……どこの子だろうね?」
「ゃー、めっちゃ可愛くなかった……? 顔とか声とか、あたしよか可愛くね? ちょっとショック感じたんだけど……」
聖美「ま、まぁ確かに可愛かったね~。女装とかしたらすごい可愛いんじゃないかな」
「うわー、めっちゃ見てみたいわ! 聖美、次さっきの子にぶつかられたら頼んでみようよ!」
聖美「えぇー……」
「ジョーダンジョーダン! あははは!」
思いついたことを適当に話す会話は楽しい。この生活がつまらないことなんてない。聖美の浮かべる笑顔は本物の笑顔だ。
――――――――――
「ではお手本を。イリス・ラプソディ」
本来なら真っ暗でジメッとした地下の広い部屋で、燭台の火は煌々と燃えている。そこから発生するのは普通の火の明るさではなく、チリチリと酸素を食べる音を小さく発しながら太陽のように白い光を放っている。
ここは魔法学校の一室。およそ30人が座る教室で、年配の男性が隣に立つイリスにそう指示を出した。
イリス「はい」
イリスは腰をピンと張って杖を片手に、目を閉じながら不思議な言語を口にした。身も蓋もなく言えば魔法の言葉で呪文を唱えたのである。
イリスは呪文を唱え終えると、杖に封じ込めた魔力をその先端から発射し、水をワインに変えたのだ。それを確認した男性はそのグラスを持つと、生徒たちに見せるように掲げながら言う。
「変化の魔法の四。これは新しい性質を加えるというものだ。これを応用していくことで魔法は独自に進化していく。これはワインだが、君たちはまず砂糖水や塩水を目指しなさい。さぁやってみたまえ」
男性は指示を出すなり、そのワインを口に運んだ。どうやら美味しいらしい、喉をコクんと鳴らして満足そうに深い息を吐き、グラスを置くと隣のイリスに小声で言った。
「……イリス、君には退屈だろう」
この教室ではイリスよりも年の低い少年少女たちがイリスを真似て呪文を唱え、水をヘドロにしたり、泥水にしたり、異臭がする液体にしたりと試行錯誤を始めて、男性はその様子を優しい瞳で監視している。それが魔法学校の教師の務めである。
イリス「いえ、そんな事は……」
イリスも同様に生徒たちを見守りながらそう答えた。二人は生徒たちをしっかり見守りながら小声で話し合う。
「君は新しい魔法を作ることにもっと積極的に取り組んでも良いと思うぞ。なにか目標や目的は無いのかね?」
イリス「目的。世の中を豊かにするとか……?」
「それは君の目的かね。もちろんしたいならするべきだが。例えば……そうだな、不死の魔法薬を作り出すとか、界面へ到達する方法を探すとか。いや、夢想がすぎるか。しかし君にはより大きな目標があっても良いと思うのだよ」
イリス「大きな目標って言われても……」
「オウガすら片手間に倒してしまうような君にはそうそう見つからないか……しかしね、こんな風に授業の補佐をしたり、手持ち無沙汰に小さな魔法を作ったりしているようじゃ、私にはもったいないと思うがね」
イリス「(そんな事言われたって)」
むすっとしたイリスにその男性は年頃の娘を重ねてすこし笑った。
「君は若くして強大な力を得てしまったからね。そうそう大きな目標なんて見つからないかもしれないが……でも探す努力はするべきだ。人の役に立つことであれ、自分が満足することであれ、人生を楽しむんだよ。今が楽しいならそれももちろん良いことだが」
そこに生徒の一人が「イリス先生ー!」と声をかけた。
「子供に人気なのも良いことか。行ってあげなさい」
教授はイリスを送り出した。イリスは優しく生徒の元へ行き声をかける。
イリス「……どうしたの?」
「これ、砂糖水になりました!」
イリスはそれを確かめてニッコリと笑う。やったーと喜ぶ子どもたちを見ているのがつまらないわけではないのだ。
―――――――――――
五人少女の家。留音と西香は出かけていたが、残っていた3人とミニーズは小さなお茶会を開いていた。
アンジー「でね、ふと考えたんだよ。ボク達がもしこうしてミニーズじゃなかったら、って」
聖美「私は多分普通の女子高生だったと思うし……」
こんなに変顔はしていなかっただろうな、となんとなく考えている。
イリス「あたしは多分、魔法学校の名誉教授とか。そんなところだったでしょうね」
アンジー「だから、今日はなんとなくみんなにありがとうって言いに来たんだよねぇ」
真凛「わたしたちにですかぁ?」
聖美「うん。みんながいたからこうしていられるのかなーって思ったの」
イリス「……まぁ、留音は倒すのに丁度いい相手になったって話で……別に感謝してるわけじゃないけど……」
アンジー「素直じゃないなぁっ。でもみんなのおかげで今幸せだよね。そこは五人少女ちゃんたちのおかげだーって」
イリス「ま、聖美とアンジーの二人と会えたのは、そうね」
衣玖「まぁ、なるようになったってところなんじゃない?」
真凛「そうですよぉ。人間は常にひとつの選択しか取れませんからね!」
衣玖「真凛は言えないわねそれ。そして私も言えないわねそれ。でもそういうもの。それに感謝する相手が違うわよ」
イリス「相手?」
真凛「うんうん。こうしてミニーズさんが誕生したのも、そもそも応援してくれてる人がいるからですからねっ。わたしたちもそうですから!」
衣玖「そういう事。ちょうど今日はサンクスサポーターズデーってのがあるみたいだし。ここは読んでくれた人にありがとうって方がいいわね」
聖美「確かにそうだね……読んでくれてる人たちー! ありがとうございまーす!」
アンジー「ボクたちこれからも楽しくやるからねーっ!」
イリス「応援よろしく」
サンクスサポーターズ、サンキュー、感謝。今日はたくさんの感謝の日がある日。




