黒猫 第三話
一人の物書きが書いたつたない物語ですが、どうぞ。
「少し悲しい」をテーマに書いたつもりです。
第三話になります。
「随分と久し振りになっちゃったなぁ。」
最後に岸部さんを訪れてから、結局1ヶ月程間があいてしまった。一度カフェに顔を出し、プレゼントは聞いてある。早く岸部さんへ届けなくては。
「え、亡くなられたんですか。」
「はい。3日前の早朝に。」
「そんな…」
急死だったそうだ。元々あまり病状はよくなく、医者からすればよくここまで耐えたものだ。と言う感じらしい。最期も苦しさを見せず、とても安らかな表情だったという。
遺体はもう病院内で火葬されていた。何となく、お見舞いに誰とも顔を合わせなかったことから何となく察していたが、遺族の方は顔を見せなかったらしい。
「あの、」
とにかく、猫にこのことを伝えなければとカフェへ向かおうと踵を返すと後ろから看護士さんに呼び止められたら。
「はい。」
「よく、岸部さんのお見舞いに来られていた方ですよね。これを、岸部さんの遺品なのですが。」
そう言って小さな紙袋を差し出された。
「やあ、一週間ぶりと言ったところか。」
猫はいつものカフェではなく、病院とカフェの間くらいにある公園にいた。
「猫…ごめん。プレゼント、届けられなかった…順子さん、亡くなっちゃった…」
猫は何も言わなかった。私は、人目もはばからずにわんわんと泣いた。公園の真ん中で、猫に向かって何度もごめんごめんと言いながら。
漸く少し落ち着いて、2人でベンチに腰掛けた。それからも、しばらくぼぉっとしていたけど突然猫が口を開いた。
「あのカフェあるだろう。ついこの間閉店したんだ。」
いつものように。ケーキを寄越せと言うのと同じような口調で猫は話し出した。
「ケーキはすべてオーナーの手作りだったんだ。それでも、1人じゃ辛くなってアルバイトを雇った。いい子だったよ、とても。でも、やっぱりオーナーのケーキには適わない。味が落ちていったのを君も分かっただろう?客もどんどん減っていった。もともと、多くもないのにね。バイトの子はよく頑張ってたよ。それこそ、見舞いに行く暇もなく。3日前にね、病院から店に電話があったんだ。内容までは分からなかったけど、あの子、大泣きしてたから。あぁ、多分そうなんだろうなぁって。」
私は何も言えなかった。ただ黙って聞いてることしかできなかった。
また、沈黙が流れた。
「なんで、僕がオーナーに会いに行かなかったか分かるかい?」
猫は私の答えを待たずに続ける。
「黒猫は縁起が悪い。最初にあったとき、君はそう言ったろう。その通りだよ。黒猫が幸福の象徴だと言っている地域は本当に極わずかだ。知らない方が一般的なんだよ。僕はオーナーと喋れない。だから、そのことを伝えることも出来ない。」
「っそんなの、私が伝えたのに!」
「言って信じるかい?自分が病に伏せって入院しているというのに?信じるわけがないだろう!…だから、僕は見舞いに行かないと決めたんだ。でも、一度君からオーナーの様子を聞いたらいても経ってもいられなかった。行かないと決めていたのに、オーナーの帰りを店で待つと決めていたのに。全く、欲というのは恐ろしい。一度満たされれば次はそれ以上のことを求める。僕は病院の前まで行ってしまったんだ。」
猫の声は泣きそうなほどに震えていた。
「病院を見たら帰ろうと思った。きっと大嫌いな病院の臭いに嫌気がさしてすぐ帰るだろうと思ってた。なのに、僕はオーナーの姿を探してしまった。根気よく、ずっとずっと。そして、見つけてしまったんだ。葉の落ちた大きな銀杏の木の奥にオーナーの姿を。呆れてしまうね。ああ言うのを本能というのか、気が付いたら僕は銀杏の木の枝に座っていたよ。オーナーはすぐに気が付いて、窓を開けてくれた。僕を中に招き入れて、頭をなでてくれた。すぐに追い返してしまえばよかったに、あの人は優しすぎる。」
猫はゆっくり吐息をはいて、続けた。
「店に電話があったのは、その次の日だよ。」
連続投稿ですので、ぜひ続きもお読みください。




