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31 最後の切り札

 レイナは見た。


 アリステアがベガートと一騎打ちをはじめ、しかもベガートが対聖剣のための秘宝を持ち出してきていたことを。

 それゆえアリステアとベガートの戦いは拮抗し始めていた。


 ドローマの鎖の壁を破る手立てはレイナの手元にない。

 護衛騎士であるレイナにとってこのまま見ているだけではいられない。

 レイナは砦に乗り込んできたヴァルカニア兵を見た。


「奴らを追い返す、一騎打ちどころではなくしてやりましょう」


 レイナは部下に宣言した。


「はっ!」

「いくぞ、いざ帝国の姫薔薇のために!」


 レイナ隊(一番の信者たち)がヴァルカニア兵に突撃を開始した。


「どけどけどけぇー!」


 帝国兵が威勢よくヴァルカニア兵に突きかかる。

 元は新兵とはいえ、神龍内で訓練を積み、山岳での実戦も経験した兵たちである。もはや新兵集団ではなくなっていた。


 しかも彼らは熱心な姫薔薇教徒。普通の兵であれば警戒して圧力を弱めるところを、逆に踏み込んでくるという狂気の一団であった。


 これを受け止めさせられる方はたまらない。

 ヴァルカニア兵たちはその狂信力(プレッシャー)にじりじりと押されざるをえなかった。

 レイナ隊は戦線を押し込み、ついに皇宮岩亀と砦を結ぶロープを切ることに成功した。




「なんだあの集団」


 光の壁の中で、ベガートは信じられないものを見たという顔をしていた。

 彼が選りすぐった砦斬込隊である。たやすく押し込まれるような兵たちではないはずだった。


「私もよく分からん。なんなんだろうな、あの士気の高さは」


 アリステアは苦笑いである。


「ちぃ」


 ベガートは舌打ちして、ドローマの鎖を手元に戻した。


「おや、私の首はいらないのか?」

「俺はまだ死にたくないんでね」


 そう言いながらもベガートはアリステアを攻める手は止めない。この拮抗はベガートが攻め続けているからこそ維持されているのである。


「見逃してやる義理はないぞ!?」

「そう言わずに頼むよ!」


 攻防の中で、一瞬距離が離れた。

 そこへ数本のジャベリンが同時に投げ込まれてきた。


「くっ」


 アリステアは聖剣でそれを斬り落とした。

 その隙にベガートは体をひるがえして一目散に走りだしていた。


「あばよー!」


 同時にヴァルカニア兵たちも走り出していた。


 そこへバリスタの矢がまとまって飛んできて、城壁上にそれにつながるロープが垂れた。

 ヴァルカニア兵たちはそのロープをつかみ、ロープの矢側を切ると、一斉に飛び降りた。


 ロープがぴんと張ってヴァルカニア兵たちが振り子のように皇宮岩亀の方へと帰っていく。弧を描いて支点の反対側までいき、また下降を始めようとしたところで、兵たちが不自然に浮き上がった。


「秘宝浮羽の理(フローティア)か。本当に何でもかんでも使うな」


 アリステアは舌打ちした。

 ヴァルカニア兵たちはゆっくり落ちていったが、その間に新たにその真上から垂らされたロープにつかまり、皇宮岩亀の上へと戻っていったのだった。


「さて」


 次こそこちらの番だな、と仕切り直そうとしたアリステアの目にそれは映った。


 皇宮岩亀の背に、一本の長い杖が浮かんでいる。

 魔砲星の杖(スターライト)。その杖であった。


「退避だー!」


 アリステアは叫んだ。

 アリステアも急いで砦の中へと入っていった。


「殿下」


 空中から声がした。


「オラリオ男爵か。火砲は!?」

「神龍空間を限界まで小さくしても、5割の出力、しかしおそらく打ち負けるとのことです」

「そうか。タイサ殿でもフレイでも、何か提案は!?」

「魔力が足りません」


 鷹梟大佐の返答は簡潔だった。つまり、有効な対策はないということを意味している。


「星の杖射撃まであと2分です」


 それが手立てを講じるタイムリミット。


(どうする)


 アリステアは走りながらも思考を巡らせた。

 ダメ元で火砲を撃つ以外になにかないか。

 火砲、杭打ち、攻撃オプションはこの二つだ。皇宮岩亀と押し合っているこの現状では移動も難しい。


「……フレイ」

「なぁにアリー」


 呼びかけると、すぐに目の前にフレイの体が生じた。相変わらず緊張感のない表情をしている。


「お前も、あれと同じように秘宝を食えば機能を使えるようになるか?」

「たぶんね」

「……口を開けてくれ」


 さすがのフレイも、意識体の口を開けてあーん、などとはやらなかった。彼が指をパチンと鳴らすと、その足元に白い穴が開いた。


 アリステアは腰の剣を抜いた。聖剣を。


「お前に食わせるなどありえん、と言っておいてなんだが」


 逆手に持って、その穴の上へ。

 帝国の宝である聖剣。だが帝国そのものの滅亡とは比べるまでもない。まして帝国の守護神である神龍に捧げるのであれば、許されるだろう。


「フレイ、頼んだぞ」


 手を放せば、聖剣はその中へと落ちていった。


 聖剣を飲み込んだその穴から光が溢れ出す。


「あぁ、任せろ。あいつは俺がやる」


 フレイはその光の中で約束した。

 穴が閉じた。


「マスター」


 鷹梟大佐の声がした。


「魔力の急回復を確認。また、刻印された魔法文字が解析され、新たな武装を取得しました」

「あぁ」

「マスターに感謝を。これならば、星の杖《スターライト》など問題になりません」


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