28 前進あるのみ
ベガートたちヴァルカニア軍は間道を抜けて帝国軍との接触を避け、皇宮岩亀のもとへとたどり着いた。
「将軍、おかえりなさいませ」
ヴァルカニア帝都奇襲部隊の副将レナードが皇宮岩亀の足元でベガートたちを出迎えた。
「首尾はどうだ?」
「素晴らしい成果です。秘宝搭載城塞龍、まさに計画通りの圧倒的な力でしたよ」
そう言ってレナードは眼鏡を指でくいと引き上げた。
「戦果は?」
「皇太子率いる1万3千の軍を粉砕しました。神龍騎士団長が所持する秘宝を用いたため皇太子は取り逃がしましたが、騎士団長は討ち取りました」
「ほう、あの神龍騎士団長を」
「はい。死体を確認なさいますか?」
「必要はない。勇者の亡骸だ、丁重に弔ってやれ」
「承知しました。将軍の方はいかがでしたか?」
「アリステア、奴はやばいな。あれを討ち取るには別の秘宝が要るるだろう。後で一緒に考えてくれ」
「勿論です」
「よし、では兵を城塞龍に乗せ、再編成をしてから進軍といこうか」
ベガートは城塞龍に乗るべく馬を歩かせた。
「私のせいだ……」
クラハッドの戦死についてエルアクスに伝えると、エルアクスは頭を抱えてしまった。
「私がバルゲスト伯爵の進言を容れずに、合流を待っていればよかったのだ……」
「兄上。私以外の者にそのようなことは決して発言なさいませんように」
アリステアはあえて厳しい声を発した。
「だが!」
「戦場には『たら』も『れば』も『もし』もありません。兄上がそれを言えば命令に従った者は不満を持ちます」
「それは、な。その理屈は、わかるんだ。だが……」
感情が納得しないのだ、という部分をエルアクスは飲み込んだ。
「クラハッドは、行うべきことを行っただけです」
「お前は悲しくはないのか?」
「……戦場で、一人ひとりの死に悲しんでいては戦えなくなります。ただ、もし本当にクラハッドが死んだのであれば……。その仇は必ず取ります」
「そう、か」
「では失礼します。ゆっくりお休みください、兄上」
アリステアはエルアクスの部屋を出た。
「まったく!」
誰に対する憤りかもわからないもやもやをアリステアはそう吐き出した。
「兄上は優しすぎる……。平時であれば名君の器であるというのに」
アリステアには悲しんでいる暇もないというのに。
「アリステア様」
珍しくレイナの方から声をかけてきた。
「なんだ?」
「フェルトが申しておりましたが、今日の晩御飯はフレイの大好物のハンバーグだそうでございます」
異例の報告内容である。
「レイナ、なぜそれを今言う?」
「報告を忘れていたのを思い出しただけで、他意はありません」
「……そうか。ハンバーグだと、あのポンコツはさぞ喜んでいるだろうな」
「きっとうざいですよ」
「やれやれ」
アリステアは肩をすくめた。それだけで気持ちが少し軽くなった気がした。
翌日、アリステアは軍議を開いた。
「帝都へ向けて進軍する」
冒頭でアリステアは言い切った。
「ここで撤退すれば挙兵した意味さえ失われる。故にやる」
アリステアは感情を軍事上の理由にはしない。
「殿下の思し召しのままに」
オラリオ男爵が賛意を示した。
「弔い合戦は好きじゃないんですが、やらなきゃいけない戦いですからね」
ルークもそう応じた。素直ではない男だが、その言葉で流れが決まり、他の全員も賛意を示したのだった。
「いいよ、やろう」
最後にフレイがそう宣言した。
「クラハッドのおっちゃんは、いいやつだった。殺した奴は許せないな」
フレイとは思えない真面目な顔であった。
その正体を知らないオラリオ男爵だが、フレイに異様な何かを感じ、思わず息を呑んだ。




