27 敗軍
神龍に乗ったアリステアたちが合流地点にたどり着いた時、そこにエルアクス軍の姿はなかった。
野営をした跡が残っていたため、どうやらアリステアたちを待たずに先に行ったらしいことは分かった。
「先に進もうか」
アリステアはそう決めた。先に行ってしまったのなら追いかけるしかない。
「皇太子殿下の部隊は、ほとんど訓練する暇はなかったはずです。何かあれば一瞬で崩壊する部隊ですよ。不安ですね」
ルークがろくでもないことを言った。
アリステアは万が一のことがなければいいと思いながらも、斥候を出しつつ帝都への道を進んだ。
凶報はすぐにもたらされた。
アリステアが放った斥候が、逃げてきた騎兵を見つけたのだった。神龍騎士団員だった。聞けば、クラハッドから急いで戻りアリステアに事の次第を知らせるよう命じられたらしい。
彼の説明を聞いて、アリステアは絶句した。
「皇宮が岩亀になり、秘宝の力を巨大化させて使うだと……」
どのような秘宝が皇宮にあったか。それを知るアリステアは血の気が引き、一瞬めまいのようなものを感じ、頭を振った。
「それで、兄上とクラハッドは?」
「私は真っ先に行けと言われましたので、そこまでは」
「そうだな。お前はまずはゆっくり休め」
彼を休ませると、アリステアは急いで人を呼び、帝都の方への捜索斥候を増やした。
斥候は逃げてきた兵士を次々と発見し、彼らから情報を聞くことで状況が明らかになっていった。
エルアクス軍が崩壊してすぐ、ヴァルカニア軍は皇宮岩亀から騎兵を下ろし追撃に取り掛かった。
騎兵の追撃を受けた軍勢はかなり散り散りにされてしまったが、どうやらエルアクスは神龍騎士団に守られながら撤退しているらしい。
ならばその一団を探さなければならない。追撃を避けるために山や森に入って行ったという可能性もあり得る。
アリステアは歩兵たちも捜索に加わらせ、自らは騎兵150を率いて街道を一直線に進んだ。
街道をしばらく進むと、アリステアは神龍騎士団の一団を見つけることができた。その中にエルアクスもいた。
「兄上、ご無事で!」
「あぁ、アリステアか」
アリステアは素早くエルアクスの全身を確認した。怪我はなさそうである。表情は晴れないが、これは疲れによるものだろう。深刻な状態ではない。
「……クラハッドは?」
普通ならエルアクスとともにいるはずのクラハッドがいない。
「隊長は、兵を一人でも多く生かして返すために、殿軍として残りました」
エルアクスと一緒にいた騎士団の男が教えてくれた。
「無事なのか?」
「別れた時には、怪我はされていませんでした」
「……そうか。殺しても死にそうにない男だ、大丈夫だろうな」
アリステアはそうコメントして、エルアクスを連れて神龍に戻った。
それから後も、続々と逃げてきた兵が到着した。
アリステアたちは彼らを受け入れ、寝る場所や食事の用意やけがの治療などを黙々とこなした。
翌日も、アリステアたちは敗残兵の受け入れに忙殺された。皆が疲れ果てている。元気な者の受け入れよりよほど手間がかかった。アリステア達は彼らを神龍内には収容せず、神龍の外に幕舎を張って野営させることにした。
午後になりようやく逃げてくる兵が少なくなってきた。
クラハッドはまだたどり着いていない。死んだという話をする者もいない。
夕方、日が暮れるころ、アリステアは野営地の出口まで足を延ばした。何か知らせがあったわけでもない。なんとなくである。
ちょうど、5人の神龍騎士団員が命からがらという様子でやってきた。
その中にもクラハッドの姿はない。
「姫様……」
騎士団員の一人がアリステアの姿を認めて呟いた。副団長を務めるレグルドだった。
その呟き方が不吉であった。
「クラハッドは?」
「……団長は、戦死しました」
「なんだと?」
「追ってくる敵の岩亀を防ぐために、一人残り、団長に預けられた秘宝を、絶界盾スヴァリアを使いました」
「……それで?」
「ご存じかもしれませんが、あの盾は、発動中は絶対に動かしてはならないものです。そのため団長は我々に先に行くように命じ、その場に残りました。
しばらくは盾が力を発揮していたのが見えました。それが消えた直後、団長がいたあたりで大きな爆発が起こったのです」
レグルドは語りながら涙を流していた。
クラハッドは死んだ。
その涙がそう告げてくるようであった。
「……そうか。お前たちも休め。フレイの砦に入って兄上をお守りしてくれ」
「……はい」
レグルドたちは重い足取りで神龍の方へと歩いていった。




