22 斬込隊
そんな所にそんな方法で乗り込んでくるなんて聞いていない。
下から登ってくるなら対応策は準備されている。その通りに行えばいい。
しかし、突然山の中腹にロープを張ってそこから乗り込むなど。
ヴァルカニア軍はアリステアたちの強襲に組織的な対処を始めることができなかった。
「敵は少ない、しかも大将首だ! 臆するな!」
アリステアが乗り込んだ陣地を任されている指揮官だろうか、一般兵士よりも目立つ軍装をした男が叫んだ。
「恩賞は思いのままだぞ! かかれー!」
その誘惑に目がくらんだヴァルカニア兵数人がアリステアめがけて槍を突き出してきた。
ひゅん、とアリステアの剣が風を裂いた。
槍の穂先が斬り落とされ、返す刀で横なぎに兵士の胴を両断。そこから振り返って反対側にいた兵を袈裟懸けに斬り裂き、それを見てひるんだ別の敵兵の懐に飛び込んで喉を一突き。
「つ、強ぇ……」
瞬く間の剣技にヴァルカニア兵たちが怯えを抱いた。
アリステアと共に乗り込んできた兵たちも、必死で働いている。一番手に選ばれるだけの兵である。数少ない引退した歴戦兵や、剣や槍の道場で腕を磨いていた者など、良く戦える者を選び抜いてあった。彼らも、自分たちより数の多い敵兵に囲まれながら、有利に戦いを進めていた。
帝国軍はわずか11人。
しかしその11人にその場のヴァルカニア兵たちは飲まれた。帝国兵たちはじりじりと押し込んで自分たちのスペースを広げていった。
無我夢中で戦うことしばし。
「アリステア様!」
レイナがアリステアに駆け寄ってきた。第2陣が到着していたのだ。
「おう、来たか」
そう応じる間にもアリステアは敵兵を切り捨てている。
「まずはこの周辺を制圧するぞ」
「はい!」
帝国軍の数が倍になり、圧力が増した。
「ひ、引けー!」
ヴァルカニア兵たちが退却していく。
「逃がすかぁ!」
レイナたちにリフト下を任せ、アリステアたちはそれを追った。
こうして小規模ながらも橋頭堡を確保し、アリステアたちは戦果を拡大するべくより上へと攻め登っていった。
神龍が左肩から杭を放ち、別の場所にも同様にリフトが通された。
さらに同時に地表に展開させていた軍も突撃を開始する。
ヴァルカニア軍は混乱した。
「なんて無茶する連中だ」
ベガートは帝国軍のリフト強襲作戦をそう評した。
リフト自体がどうなっているのかわからなくとも、何をしているのかは見ればわかる。まさか城塞龍から山に直接兵士を送り込んで来るとは予想もしていなかった。
「将軍、どういたしましょうか!?」
「うろたえるなよ。中腹にごく少数の敵が乗り込んできただけだ。見たところあちらの兵を送り込む速度はそこまで速いものではない。焦る必要はない」
ベガートは冷静に帝国軍の動きを見極めていた。
リフトを使って2か所に降り立った帝国軍はヴァルカニア軍を攻めたてながら合流しようとしているようだ。
点と点を線にしてそれより下のヴァルカニア軍の退路を断つつもりだ。それが実現すれば上下を挟まれた兵は浮足立ち、攻め登ってくる帝国軍を止めることはできなくなるだろう。
「よし、予備から50人ついてこい」
ヴァルカニア軍にも兵の余裕は少ない。ベガートが連れてきた兵は3千。下から攻めてくるのを守るには十分だったが、帝国軍がリフトを持ち出してきたとなると、上層の陣地を守っている兵を動かすのは得策ではない。帝国軍の狙いが2か所だけとは限らないのだ。
ベガートは冒険に出ようとしていた。
中腹に帝国軍の歓声が響いた。
2か所のリフトから進撃した帝国軍部隊がついに合流したのである。
2つ目のリフトからの斬込隊5百人を率いてきたのはルークである。神龍騎士団の兜の下から琥珀色の目が楽しそうに覗いている。
「ご尊顔を拝することができまして光栄の至り。騎士ルーク・フェルナンドル、殿下のために艱難辛苦を乗り越えて参りました」
大仰に礼をするルーク。
「うむ。大儀である」
それに合わせてふざけるアリステア。
「ではこの分断線の守りはお任せください。殿下はどうぞご存分に」
ルークは山頂に向けて手を広げた。
「頼んだ。レイナ、半数はルークに預けろ」
アリステアの指示で、レイナの持つ5百の半分がルークの指揮下に移された。
アリステアとレイナは、残りの250人を連れて上へ向かって突撃を開始した。
アリステアは、槍を並べ帝国軍を止めようとするヴァルカニア兵の列に真っ先に飛び込んで、剣を振るう。
アリステアは、リフトを降りてから今まで常に最先陣を切っていた。
剣が一振りされれば誰かが死ぬ。
槍衾も、剣も、鎧も、肉も、骨も、その剣を一瞬たりとも止めることができない。
「姫鬼だ……」
誰が言い出したか、ヴァルカニア兵はそう呼んで恐怖し始めていた。
「姫様に遅れるな!」
レイナ以下、250名が必死にアリステアに追従する。先頭を行くアリステアについていけば勝てる。兵たちにはすでにそういう印象ができ始めていた。
アリステアが開けた穴を帝国兵たちが広げていく。
敵をなぎ倒しながら山道を登り、少し平らになっている開けた場所に出た。
「ここで止めるぞ!」
「応!」
統制の取れた2百人ほどの集団が待ち構えていた。指揮官は高級将校、千人長であろうか。
「突撃!」
アリステアはそこへ向かって突っ込んでいった。
「おぉ怖い」
ルークはその様子を下から眺めていた。
彼が実戦でアリステアの暴れぶりを見るのは初めてであった。演習ではあそこまで暴虐を尽くすことはない。
「なにしろ剣がやばい」
演習では刃をつぶした普通の剣を使う。だからアリステアの進撃を止めることができる。
だが実戦で聖剣を抜いたアリステアは止まらない。鋼鉄さえ紙のように切り裂く剣を前に何ができるだろうか。皇帝がアリステアを死なせないためにと与えるのも当然と思えた。
もはや敵がかわいそうですらある。
「姫鬼様、味方で良かったなぁ」
ルークはそう呟いた。
「ルーク様、敵の逆撃です!」
「来たか」
ルークは即座に目の前の戦場へ視線を戻した。今報告した伝令が来た方向、ルークが通り抜けてきた地点にヴァルカニア軍が上から降りてきていた。
彼らが持つ旗を見て、ルークは色めき立った。
「来た、戦功第一!」
ヴァルカニアの将軍旗。ベガート率いる反撃部隊であった。




