18 試作を重ねる
農具牽引機試作マーク1の実演に失敗したイゼルは、マーク1の製作に協力してくれた神龍都市の面々とすぐに打ち合わせを始めた。
「―――というわけで、失敗してしまいました! アリステア様の宝石よりも貴重なお時間を無駄にしてしまいました! 万死に値します!! もう死んでお詫びするしかありません!!!」
打ち合わせは、失敗の経緯を説明しているうちに泣き出したイゼルを慰めるところから始めなければならなかった。
「まぁそう泣くなよ。新しいことをやろうとしてる嬢ちゃんはすごいよ」
とは歯車屋にして木工屋でもあるフライツ。彼はイゼルに初めて歯車を渡したばかりに巻き込まれた男である。
「アリステア様だって怒ってなかったんだろ?」
とは鍛冶屋レッド。金属部品は彼の仕事である。
「アリステア様はお優しいので! でも絶対内心失望されたにきまってます!」
びええええええええ。
「そんなことないって。がんばれって感じだよ」
大工テオドルはイゼルの背中をさすった。
「アリステア様はそんなあいまいな励まし方しません!!!」
職人3人の顔にそろって『めんどくせえな』が浮かんだ。
「イゼル」
そこに厳かな声をかけたのは鷹梟大佐だった。
「お前に泣いているような暇があるのか?」
「タイサ……?」
「無駄な時間とは、今お前が泣いているこの時間そのものだ。そしてこのままお前が完成させられなかったら、その時本当にアリステア様の時間を無駄にしたことになってしまうのだぞ。いいのか、それで?」
厳しい内容だが、イゼルは、はっとして顔を上げた。
「立てイゼル。マーク2では必ず成功させるのだ。そうすれば、マーク1からの進化を見たアリステア様はお前に何と言う?」
「……イゼルさすがだ、結婚しよう?」
時が止まった。
「……まずはデートからだろうな」
鷹梟大佐は2秒で立ち直り、そうコメントした。さすが大佐である。
「そうですね! まずはデートからでしたね!!」
イゼルは復活した。
「ではなぜ失敗したのか考えてみましょう!」
そしてようやく本題に入って、4人と1羽は頭を悩ませた。
車輪の空転を防ぐにはどうしたらいいのか。
話し合って案を固め、すぐにマーク2の製作にとりかかった。翌日、早くもマーク2が完成した。マーク2は車輪を改良した。
マーク1がただの丸い車輪だったのに対し、マーク2の車輪は一味違っている。
大きな歯車を複数枚重ねてしっかりと地面をつかみ続けるようにしたのである。
「では、いきます」
マーク1起動実験の失敗の教訓から、今回はアリステアを呼ばずに開発チームだけで試してみることにした。
イゼルは、がこ、とレバースイッチを入れた。
車輪が少し回って土をつかんだ。
だがそこで止まった。
空転はしないが、前進もしない。車輪はピクリとも動かない。
「一見悪化したようにも見えますが……」
「これは、力が足りないんじゃないかな。牛も疲れたり病気したりすると全然曳けなくなるんだよ。これはそれじゃないかな」
レッドの意見に他の2人も賛同した。
「そうか、力が足りない。つまり重いものを持てないってことですよね」
「どうすりゃいいんだろう?」
神龍都市民の3人はそれが分からないようだった。
「そこについては、私に心当たりがあります。大きさの違う歯車を組み合わせると、速度や力を変えることができるんですよ。それが使えると思います」
「へぇー!」
「早速戻って設計図にしましょう!」
成功の可能性が見えてイゼルが元気になってきた。
そしてマーク3が完成した。
歯車車輪が土をしっかり噛み、ギアによって力強く回転し、台車に曳かれた鍬が土を掘り起こしていく。
しっかりと働いていた。
「よくこんな短期間で完成させたな。すごいぞ」
アリステアはそれを見てイゼルを賞賛した。
「はい! ありがとうございます!」
イゼルはご機嫌になった。
「神龍の外で使えるようにする改造の方はどういう感じだ?」
だがそう問われて、一瞬でしゅんとした。
「申し訳ありません。これを作るのに必死でそちらはまだ進展が……」
「咎めているわけではない。むしろこれほどの物を作ったのだから、他が進まないのは当然だ。では、次にそれに取り掛かってほしい。間に合うかによるが、それができたら作ってほしいものがあるのだ」
そう頼まれればすぐにまた燃え上がる。イゼルのテンションは激しく乱高下した。
「命に代えましても!!!」
イゼルはそう意気込んで帰って行った。
(熱心だ。職人として実にいきいきと困難に挑戦しているようだ。よほど開発が好きなんだな)
その分析は、大好きなアリステアに頼まれたからという一番大事な所が抜け落ちていた。エルアクスがこの場に居ればため息をついてやれやれと言ったであろう。
アリステアは、農具牽引機試作マーク3の成功を見届けた後、神龍都市へと足を向けた。
その正面、遠くから、訓練中の新兵10名の一団が走ってきた。
ほとんど全員息も絶え絶えである。先頭を走っている神龍騎士団の騎士だけがまだまだ元気そうであった。
「止まれ!」
騎士がアリステアの姿を認めて足を止め、号令した。
「ぜぇ、ぜぇ」
足を止めるとたちまち前かがみになって荒く呼吸をする新兵たち。
「しゃきっとせんか、もう1周増やされたいか!」
騎士が叱咤すると、全員なんとか体だけは起こした。
「姫殿下に礼!」
一糸乱れぬとはいかない。限界の中、なんとか頭を下げたという感じだ。
「頑張っているようだな」
アリステアは新兵たちに声をかけた。
「貴様ら、姫殿下がお尋ねだぞ!?」
「は、はい! 頑張っております、死にそうです!」
騎士はその男をにらみ何か叫ぼうとしたが、アリステアは手で止めた。
「そうだな。訓練は厳しいだろう。だがこれも諸君らが戦場で死なないようにするためだ。私は諸君らに無駄に死んでほしくはないのだ」
「は、はい」
「がんばってくれよ」
アリステアは笑った。その笑顔の直撃を受けた兵士10人はハートを射貫かれた。
「足を止めてしまい済まなかった。続けてくれ」
「はっ。よし貴様ら、姫殿下に男をお見せするぞ、走れ!!」
一団は走っていった。アリステアが声をかける前より速度が上がっている。やる気が高まったようだった。
(名将は一声かけるだけで兵の士気を高めると聞いたことがあるが、私にもできたか。少しは優れた将だと思ってくれているようだ。ふふ)
アリステアは満足げであったが、なぜ士気が高まったのかだけは勘違いしていた。この場にもツッコミ役は不在であった。
アリステアたちが神龍空間で訓練などに時間を費やしている間も、神龍は目的地に向かって歩き続けている。
そして11日目。
クルウエド山道を進む神龍の目の前に、ヴァルカニアの軍旗が姿を現した。
そこはちょうど、アリステアが待ち構えやすそうだと評した場所であった。




