二 面談
一対一面談は、火曜日から始めた。
最初は北村さんだった。
彼女は会議室に入ると、椅子に座る前に「資料、拝見しました」と言った。
拝見しました、という言い方が、すでに距離だった。
私は笑顔を作った。
「ありがとうございます。今日は北村さんのこれまでの経験と、今後の方向性を一緒に整理したいと思っています」
「方向性」
「はい。北村さんの強みは、顧客理解と運用品質だと思っています」
「それは、古いという意味ですか」
質問が早かった。
私は、少しだけ息を吸った。
「古いという意味ではありません。ただ、今のままだと、北浜商事固有の文脈に閉じすぎてしまうリスクがあります」
北村さんは、膝の上で両手を重ねていた。
指先が白かった。
「閉じているから、事故が起きなかったんです」
「それは理解しています」
「理解されていますか」
私は黙った。
「北浜商事の月末処理は、マニュアル通りにやると失敗します。二十七日が金曜かどうかで、営業側の締め処理が変わります。営業側はそのルールを文書化していません。向こうの課長が変わったときも、こちらが気づいて止めました。そういうものは、クラウドとかAIとかでどう高度化されるんですか」
私は、答えを持っていなかった。
正確には、答えらしいものなら持っていた。
標準化、例外処理の洗い出し、業務ルールの可視化、運用自動化。
しかし、それを口にすると、彼女の二十年を浅いスライドに変えてしまう気がした。
「だからこそ、可視化が必要なんです」
結局、私はそう言った。
もっとも正しく、もっとも薄い言葉だった。
北村さんは小さく笑った。
「可視化ですか」
「はい」
「私たちは、見えていないものを見ていたんですけどね」
面談は三十分の予定だったが、二十一分で終わった。
彼女は最後に「ありがとうございました」と言った。
怒鳴られるより、ずっと堪えた。




