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光と影、二つの魂  作者: そら
第五章 工作と真実の欠片
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第一話 アルス編 証拠の網——積み重なる糸

王都に戻ってから三日が経った。


南方の支援は後任に引き継いだ。

民の容態は安定している。

しかし——右手の鱗の痕はまだかすかに残っていた。


あの痕を見るたびに、アルスは確かめた。

夜の「誰か」がいる。

同じ体の中に。

同じ目標を持って。


確かめてから——書類を開く。


アルスは執務室の机に向かい、書類の束を開いた。


ガロン典医の件。

七賢院の下部組織「三角商会」との送金記録。

王宮内の不審な人事異動。

軍部の資金流入。


それぞれは細い糸だ。

しかし今や、糸と糸が少しずつ繋がり始めている。

全体の形が、輪郭を持ち始めている。


「シルヴィア」


「はい」


「三角商会の帳簿と、軍部への送金記録——照合できるか」


シルヴィアは既に手元の書類を広げていた。

昨夜のうちに準備を済ませていたのだろう。


「昨夜のうちに照合しました。一致する数字が四件あります。うち二件は、七賢院の賢者三番が管轄する財務部門を経由しています」


「賢者三番まで辿り着いた」


「証拠として出せる水準かどうかは、もう少し精査が必要です。しかし——骨格は見えています。賢者三番の名前と、資金の流れを繋ぐ書類が揃えば、法廷に出せます」


アルスは書類を手に取った。

ページをめくりながら、頭の中で地図を描く。


七賢院の賢者七人。

それぞれが担当部門を持ち、評議会の顔を借りて王国に根を張っている。

賢者一番が全体を統括し、二番が軍事、三番が財務、四番が情報、五番が外交、六番が司法、七番が学術。


その根を一本ずつ、証拠で断つ。


「ライト」


「はい」


「騎士団の調査局——セリア・ハルト調査官に、正式な連絡を取りたい。教会と騎士団の協力体制について、話し合いの場を設けてほしい」


ライトが少し驚いた顔をした。

これまでアルスは、証拠の収集を単独で進めてきた。

騎士団との正式な連携は、初めてだ。


しかしすぐに「承知しました」と言った。


窓の外に目を向けた。

王都の午後の光が、石畳の上に柔らかく落ちている。


今まで、証拠は一人で積んできた。

七賢院の工作を避けながら、誰にも知られないように。

しかし——一人には限界がある。

法廷に出せる証拠を作るには、第三者の目が必要だ。


騎士団の正規の手続きを通じた証拠収集は、法廷での証拠能力が高い。

いくら精度の高い証拠でも、裏社会の「亡者」が集めた証拠では法廷に出せない——そう夜の「誰か」も考えているはずだと、アルスは思っていた。


セリア・ハルト。

あの真っ直ぐな目の女性が、今何を掴んでいるか。


「……早めに」


アルスは言った。


「できれば明日にでも」


「かしこまりました。本日中に連絡を取ります」


ライトが下がった後、シルヴィアが静かに言った。


「セリア・ハルト調査官は優秀です。しかしアルス様——彼女は亡者を追っています。連携の過程で、アルス様の『夜』の件に気づく可能性があります」


「分かっている」


「それでも、連携を選びますか」


アルスは窓の外を見た。


「七賢院を断罪するには、正規の証拠が必要だ。そのためには、セリア・ハルトの力が必要だ。——それだけだ」


シルヴィアは少しの間、アルスを見た。

それから、「分かりました」と言った。


何かを察したような目だった。

しかし何も聞かなかった。


「騎士団と正式に連携する——それだけでいいか」とシルヴィアが聞いた。


「七賢院の証拠を法廷に出すには、正規の手続きが必要だ。騎士団の調査記録として残さなければならない」


「セリア・ハルト調査官を信用するということですか」


「信用する、というより——信用しない理由がない」


シルヴィアは少しの間、アルスを見た。


「アルス様は、この方の動向をよくご存知ですね。以前から注目されていたのですか」


「……少し前から」


アルスは窓の外を見た。


セリア・ハルト。

あの真っ直ぐな目の女性。


なぜ気になっているのか、自分でも説明できない。

しかし——気になっていた。


「分かりました。連絡を入れます」


ライトが手帳を開いた。


「今日中に面会の申し込みをします。明日の昼以降で調整できると思います」


「頼む」


アルスは書類に目を戻した。


七賢院の根を断つ。

証拠を積んで、法廷で断罪する。


その日が、少しずつ近づいている。


窓の外の光が、少し傾いてきた。


「シルヴィア、今日の残りの予定は」


「午後に王宮の財務部門との会議があります。それから、ガロン典医の監視報告が入る予定です」


「ガロンは今でも動いているか」


「はい。七賢院への報告を続けています。ただ——報告の質が、一か月前と比べて著しく落ちている。意図的に薄い情報を渡しているのでしょう」


「怖いんだな」


アルスは静かに言った。


「七賢院も怖い。私も怖い。どちらにも深入りできない」


「泳がせます。七賢院の接触者が動くまで」


「七賢院側がガロンに何かを命じた時——それを記録する。そこが証拠になる」


「承知しました」


シルヴィアが立ち上がった。


「では、会議の準備に入ります」


「頼む」


ライトも立ち上がった。


「アルス様、夕方にセリア・ハルト調査官への連絡を入れます。明日の昼以降で面会の調整をします」


「ああ。よろしく」


二人が部屋を出た後、アルスは一人になった。


机の上に、書類が積まれている。


一枚ずつ、丁寧に読む。

数字を追う。

人の名前を確認する。


これが——昼の仕事だ。


夜の「誰か」は、今頃何をしているのだろう。


同じ書類を、別の場所で読んでいるかもしれない。


「……共有したい」


アルスは呟いた。


いつかは——共有できる日が来る。


そう思いながら、書類に目を戻した。


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