第六話 アルス編 王宮の粛清——静かに進む戦い
ガロン典医の証拠がほぼ揃ってきた。
シルヴィアが一週間かけて積み上げた書類の束は、七賢院の下部組織「三角商会」からの送金記録、王妃の薬の差し替えが行われた夜の人の出入り記録、ガロンが王宮内の別の七賢院関係者と交わした連絡記録——全てが繋がっていた。
「告発できる水準に達しています」
シルヴィアは言った。
「しかし——」
「ガロン一人を告発しても、七賢院本体には届かない」
「はい。尻尾切りになります。ガロンの上にいる者——王宮内部で彼に指示を出していた七賢院の直接の接触者——そこまで繋がなければ意味がない」
アルスは書類に目を落とした。
「ガロンはまだ動いているか」
「はい。七賢院への報告は続けているようです。ただし——王妃の解毒後から、報告の内容が変わっています。情報の質が落ちている。おそらく、何かを疑われているかもしれないという恐怖から、意図的に薄い情報しか渡していない」
「賢い男だ」
アルスは静かに言った。
賢いというのは本当にそう思う。
ガロンは悪人だが臆病な悪人だ。
七賢院が怖い。
アルスも怖い。
両方から挟まれてどちらにも深入りできない——その恐怖が、皮肉にもガロンを中途半端な証言者として保存している。
「もう少し泳がせる。七賢院の接触者が動くまで」
「承知しました」
シルヴィアが書類を片付け始めた時、ライトが入ってきた。
「アルス様。南方の竜の件、続報が入りました。被害が広がっています。集落二つが避難を余儀なくされたとのことです」
アルスは立ち上がった。
「支援隊の準備を始めてくれ。教会として医療班と物資を送る。私も——」
「アルス様が直接赴かれるのですか」
「民が困っている。行かない理由がない」
シルヴィアが「七賢院の動きが活発化している時期に、アルス様が王都を離れるのは」と言いかけた。
アルスは「竜の件も、七賢院と無関係とは言い切れない」と遮った。
「陽動の可能性があるということか」
「賢者一番が竜を利用した陽動を示唆していたという情報がある。竜が動く時、七賢院も動く——その前提で準備する」
シルヴィアは少しの間考えてから、「分かりました」と言った。
「私は王都に残ります。ライトも残す。アルス様の行動記録と通常の業務は私たちで継続します」
「頼む」
アルスは窓の外を見た。
南の空にうっすらと煙が見えた。




