第四・五話 幕間 カイン視点 ——亡者が独り言を言った夜
カインは廃神殿の外の木陰に立ちノクスが出てくるのを待っていた。
護衛のためではない。
この男に護衛は不要だ。
ただ——今夜は何となく離れがたかった。
理由は分からない。
長年の勘とでも言うべきものだ。
廃神殿の中からかすかに声が聞こえた。
ノクスが——独り言を言っている。
カインは耳を澄ませた。
言葉は聞き取れなかった。
しかし——声の質が普段と違った。
この男が独り言を言うのを、カインは見たことがない。
五年間そばにいた。
どんな状況でもノクスは必要なことだけを言う。
無駄な言葉がない。
感情が漏れることがない。
それが今夜——何かを一人で言っていた。
ノクスが出てきた。
「待っていたのか」
「……いえ」
カインは答えた。
「たまたまです」
ノクスは一瞬カインを見た。
何も言わなかった。
しかし——追及もしなかった。
二人で隠れ家への道を歩いた。
途中でノクスが低く言った。
「カイン」
「はい」
「俺の右手首の傷——お前は、どう思う」
カインは少し間を置いた。
「……戦闘でついた傷ではない、と思っています。ずっと」
「なぜ言わなかった」
「言う必要がないと判断しました。ノクス様が気にしておられることは分かっていましたが——その答えを出すのはノクス様自身の仕事だと」
ノクスはそれ以上何も言わなかった。
しかし——カインには分かった。
この男は今夜何かに近づいた。
廃神殿の中で一人で向き合っていた。
それが何かは——まだ分からない。
しかし、いつか分かる時が来る。
その時カインは隣にいると決めていた。
五年前からずっと。




