宴もたけなわ③
<二次会>
フローラは、最後の一人に回復魔法をかけ終えると、ぱんぱんと手を叩いた。
「みんな元気になりましたかー?」
周囲では、先ほどまで傷だらけだった魔族たちが体を動かしている。
肩を回したり、軽く跳ねてみたり、鎧の具合を確かめたり――。
「お、動く動く」
「さっきまで脚とお腹が離れてたのに……」
「魔狼のつま先ももう大丈夫だ」
魔狼たちも元気に尻尾を振っている。
フローラは満足そうに頷いた。
「じゃあ仕上げに……」
そう言って杖を地面に突き立てる。
次の瞬間、杖を中心にして大きな魔法陣が地面に広がった。
紫と黒の紋様が草の上に浮かび上がる。
淡い光がゆっくりと広がり、空気が微かに震えた。
フローラが短く唱える。
「エリアヒール」
魔法陣がふわりと光り、周囲の魔族たちを包み込む。
回復の光が波紋のように広がった。
切り傷。
擦り傷。
疲労。
戦闘でできた細かな傷が、ゆっくりと消えていく。
強力な回復ではないが、広範囲に行き渡る補助魔法だ。
しばらくして光が消える。
フローラは胸を張った。
「これで万全ですね!」
しかも本人はまったく疲れた様子がない。
それを見てルシアンが感心したように言う。
「いやー、すごいねフローラは」
フェンリルも頷いた。
「まぁ……ノクスの巫女だからね」
ルシアンは腕を組む。
「確かに……長年生きてきたけど、巫女なんて初めて見たよ」
巫女とは神の声を受ける存在。
ノクスを信奉する魔族の中では、魔王に次ぐ立場とも言われている。
二人はしげしげとフローラを眺めた。
その視線の先では――
フローラが魔狼に抱きついてじゃれていた。
「わぁ~ふかふかですねぇ!」
魔狼も嬉しそうに尻尾を振っている。
ルシアンはぼそりと呟いた。
「……そんなすごい存在には見えないけどなぁ」
フェンリルは苦笑する。
「でも何故か魔獣にはめちゃくちゃ好かれるんだよね」
元々は人間だったフローラが、急に魔族社会の上位に来た形だ。
だが魔族たちはあまり気にしていない。
強い。
面白い。
それで十分なのだ。
その時。
フローラがぴょんと立ち上がった。
「は~いみんなちゅうもーく!」
右手を高く上げる。
魔族たちの視線が集まった。
フローラが元気よく言う。
「さっきフィーネさんからお手紙がありまして!」
「色々あって聖騎士のレオンさんに捕まっているので、しばらく帰れないみたいです!」
魔族たちがざわついた。
「えー、かわいそー」
「でもちょっと面白そう」
「レオンって誰?」
「魔王様の胃薬どうするんだ?」
口々に好き勝手言っている。
フローラが手を振る。
「はーい静かにー。そんなこんなでだいぶ楽しみましたので、宴もたけなわですが……およ?」
ちょうどその時だった。
一羽の魔鳩が空から舞い降りてきた。
フローラの腕に止まる。
脚には小さな手紙が結ばれている。
「あれ?」
フローラは手紙を外して開いた。
そしてそのまま読み上げる。
「えーと……」
『変態のレオンさんがヴァルミナへ行くことになったので私もついていきます。ご飯は食べて帰るつもりです。魔王様の胃薬は冷蔵庫に何本か備蓄がありますので使ってください』
魔族たちがまたざわめく。
「ヴァルミナ?」
「あの海の町?」
「レオンって変態なの?」
「胃薬ストックあったんだ」
フローラは顎に指を当てた。
「うーん……これは……」
少し考え込む。
ルシアンが首をかしげた。
「どうした?何か悩むことが?」
フェンリルは肩をすくめる。
「帰るなら準備するよー」
その瞬間、魔狼たちが耳を伏せた。
まだ帰りたくないらしい。
フローラは突然顔を上げた。
「わかりました!」
ルシアンが瞬きをする。
「ん?」
フローラは力強く言った。
「これは……二次会のお誘いですね!」
ルシアンが呆れ顔になる。
「なんでそうなる?」
フローラは得意げに説明する。
「これは言外に隠された意図を読まないとです!」
「きっとゆっくり手紙を書く時間もなかったのでしょう。ヴァルミナでご飯を食べるつもり……」
フローラはびしっと指を立てた。
「つまり!」
「ピクニックの続きをそこでやりましょうって事ですよ!」
一瞬の沈黙。
そして。
「「うおおおお!!!」」
魔族たちが歓声を上げた。
「二次会だー!」
「海だー!」
魔狼たちも跳ねる。
「ワオーン!」
ルシアンが頭に片手をやる。
「おいおい……」
しかしフローラは止まらない。
「二次会にいきたいかー!」
「おおー!」
「ヴァルミナに行きたいかー!」
「おおー!!」
「ワオーン!」
フェンリルが苦笑した。
「これは……行くしか無さそうだね」
フローラは満足そうに頷いた。
「というわけで、ゼノには手紙で連絡しておきますね!」
魔鳩の脚に手紙を結ぶ。
「鳩さんお願いします!」
鳩は空へ飛び立った。
それを見送りながら、魔族たちは荷物をまとめ始める。
魔狼たちは楽しそうに走り回っていた。
こうして――
魔王軍のピクニックは、二次会へと突入するのだった。




