宴もたけなわ②
<回復>
丘の上から、フローラは帰ってくる一団をのんびりと眺めていた。
魔狼たちがゆったりと歩き、その後ろに魔族の隊列が続いている。
その中心には――担架があった。
「えっほ、えっほ」
二人の魔族が担架を担いでいる。
その上に横たわっている人物は、全身が真っ黒だった。
焦げている。
髪はチリチリ、服は焼けてボロボロ。
まるで炭の塊のようだ。
フローラは小走りで丘を降りながら手を振った。
「ルシアンさん大丈夫ですかー?」
担架の上の黒い塊がぴくりと動く。
「大丈夫じゃない!」
元気な声だった。
その横を歩いていたフェンリルが、少し顔をしかめる。
「割と元気じゃないか……」
魔狼たちは気にした様子もなく、のんびりと尻尾を振っていた。
フローラは担架の横まで来て、ルシアンの姿をまじまじと見た。
「うわぁー……」
感心したような声が漏れる。
「真っ黒ですねぇ……」
「フィーネのやつがね!」
ルシアンは怒ったように言った。時間を置いたら怒りがぶり返してきたらしい。
「フィーネさんですか?」
「ああそうだよ! フィーネが僕を裏切って魔法を撃ってきたんだ!」
その言葉に、フェンリルが静かに訂正を入れる。
「別にフィーネが撃ったわけじゃないけどね」
フローラは首を傾げた。
「どういうことです??」
ルシアンは担架の上で身振りを交えて説明する。
人間の魔法使いがいたこと。
フィーネがその近くにいたこと。
そして――
「しかも僕を指差してたんだ!」
ルシアンは指を突き出した。
「その直後に魔法が飛んできた!」
フローラは何度か頷く。
「なるほどぉ〜」
「なるほどじゃないよ!」
ルシアンが叫ぶ。
「僕、これ直撃したんだぞ!」
「そうなんですかぁ」
フローラは感心したように頷いた。
「それでその色なんですね」
「この色は関係ない!」
その様子を見ていたフェンリルが、ふと思い出したように言う。
「そういえばフィーネからの手紙は読んだ?」
フローラはぱっと顔を上げた。
「あ、さっき読みました!」
ルシアンが驚く。
「手紙?なんだっけそれ?」
フローラはにこにこしながら答えた。
「変態紳士の聖騎士レオンさんに捕まったので、しばらく戻らないそうです!」
ルシアンは目を見開いた。
「は??」
フェンリルは少しだけ考える。
「……まぁいいか」
そして肩をすくめる。
「さっきのあれこれも、捕虜だったなら仕方ない事もあるんじゃない?」
「フィーネが安々と人間に捕まるか?」
ルシアンが不満そうに言う。
フェンリルはのんびり答えた。
「聖騎士が絡んでるみたいだし……」
「聖騎士って……」
フローラが元気よく補足する。
「変態紳士の聖騎士レオンさんですね!」
ルシアンはぽつりと呟いた。
「……変態……なに?」
フェンリルは軽く首を振る。
「そこは突っ込まないでおこう」
少し沈黙が流れた。
ルシアンはため息をつく。
「まぁ……聖騎士なら仕方ないか」
案外あっさりと納得した。
その時、フローラが担架を見ながら言った。
「ところで……」
にこりと笑う。
「それ、治しましょうか」
ルシアンが瞬きをする。
「え?」
フローラは両手を軽く掲げた。
「えいっ!」
次の瞬間。
フローラの手から、柔らかな闇色の光が広がった。
紫と黒の光がゆっくりと波紋のように広がり、ルシアンを包み込む。
魔族特有の回復魔法。
闇の巫女の力だ。
焦げていた体が、みるみる元に戻っていく。
黒く焼けていた肌が元の色に戻り、チリチリだった髪も整っていく。
さらに、焼けていた服まで――
ぱちり、と元通りになった。
周囲の魔族たちがざわめく。
「おおお!」
「すげえ!」
「服まで治ったぞ!」
魔狼たちも嬉しそうに鳴いた。
「ガウッ!」
フェンリルがぽつりと言う。
「便利だなぁ……」
声の調子は相変わらず落ち着いていた。
ルシアンは担架からゆっくりと起き上がる。
自分の体を見下ろした。
「……完全に治ってる」
腕を回し、肩を鳴らす。
「さすが……こんなんでも闇の巫女なだけあるなぁ」
フローラは照れくさそうに笑う。
「えへへー」
そして周囲を見回した。
「他にもケガした人がいたら治してあげますよ!」
その言葉に魔族たちがざわめく。
「おお!」
ルシアンがすぐに言った。
「じゃああっちに真っ二つになって全治半年のやつが……」
フローラは元気よく頷く。
「任せてください!」
その後、フローラは次々と魔族たちを治療していった。
切り裂かれた鎧。
血まみれの兵士。
足の先を斬られた魔狼。
闇色の光が広がるたびに、傷が消えていく。
魔族たちは歓声を上げた。
「闇の巫女ばんざーい!」
フェンリルはその様子を眺めながら、のんびりと呟いた。
「今日はいい日だね」




