混乱する戦場⑯
<炸裂する大魔法>
ミレイユの掌に生まれた炎は、最初は灯火ほどの大きさだった。
だがそれは、瞬く間に膨れ上がる。
空気が歪む。
熱が、周囲の草を揺らす。
レオンは息を止めた。
「……」
ミレイユが、ゆっくりと腕を振る。
巨大な火球は、弧を描いて空を裂いた。
戦場の喧騒の上を越え、野盗の中心へ――
そして。
――着弾。
ドォォンッ!!
衝撃が地面を揺らす。
爆炎が立ち上がり、砂と煙が空へ噴き上がった。
爆心地を中心に、野盗たちは吹き飛ばされる。
倒れ伏す影。焼け焦げる地面。
熱風が周囲を薙ぎ払った。
高台から見ていたレオンが、静かに息を吐く。
「……凄まじいな」
下方では、すぐに動きがあった。
「今だ! 追撃せよ!」
駱駝に騎乗したマーリスが、即座に指示を飛ばす。
混乱する野盗たちへ、王国軍が押し返す。
一方、魔狼の群れは――
フェンリルが危険を察したのか、すっと距離を取っていた。
魔狼たちは野盗への攻撃をやめ、後退する。
まるで「今日はここまで」と言わんばかりに。
レオンは頷いた。
「こちらは大丈夫そうだな」
だが、戦いはまだ終わっていない。
ミレイユは再び目を閉じる。
今度は――魔族側だ。
距離は遠い。
しかも少数精鋭。
混戦の中から特定の標的を狙うのは容易ではない。
カイルが望遠鏡を構える。
「……狙うなら指揮官だろう」
「さっきフィーネが言ってたな。ルシアン、とか」
レオンが横目でフィーネを見る。
「どいつだ?」
フィーネはしれっと言った。
「カイルさん、もう少し右です」
「右だと?」
半信半疑で視線を動かす。
やがて、小柄な男が映る。
だがその周囲の魔族たちが、明らかに指示を仰いでいる。
「……あいつか」
カイルが低く呟いた。
「ルシアン。噂には聞くが、あんな男だったとはな。……なぜ教える?」
フィーネは肩をすくめる。
「聞かれたから答えただけです」
その目の奥に、ほんのわずかな感情がよぎる。
(まぁ直撃しても……死にはしないでしょうし)
レオンは短く言った。
「ミレイユ。狙いはあの男だ」
「……はい」
再び火が集まり始める。
だが距離がある。
風もある。
ミレイユの額に汗が浮かぶ。
「……少し、右に流れます」
いつの間にか隣に来ていたフィーネが冷静に言う。
「風がありますので、もう少し上を」
ミレイユがわずかに照準を修正する。
そして――放った。
巨大な火球が、再び空を裂いた。
…
「む……なんか押し返されてきたな」
ルシアンは、戦場を駆け回るシルヴィアの姿を見ていた。
「あの女の子が来てから流れが変わった気がする……先にあいつを狙うか?」
隣の魔族がそれを聞いて非難する。
「嫌っすよ女の子狙うの」
「そこ関係ないだろ!……あれお前ら僕の魔法で脳筋になってるはずでは?」
「さっき戻りました」
「ああ〜時間切れかぁ。じゃあもう一回……」
「やめてー!」
言い合っていると、遠くで爆音が響いた。
ドォンッ!!
「な、なんだぁ?」
魔族が叫び、ルシアンは振り向く。
野盗の中心が爆炎に包まれている。
「……なかなかだな。あんなのリリスでもそうそう撃たないぞ」
「あっちの高台から撃ってますね」
「ほぉ……って、あれフィーネじゃないか?」
魔法使いの隣に見慣れた顔があった。
「本当だ。なんかこっち指さしてますけど」
ルシアンが笑う。
「まさか次はこっちには撃ってきたりしてな」
「まっさかぁ」
二人が笑った、その瞬間。
「……あれ」
魔族の顔が固まる。
空を見上げる。
赤い光が、こちらへ一直線に落ちてくる。
「ほんとに来たぁぁ!?」
「えええええ!?」
ルシアンが叫ぶ。
「何故だ! 裏切ったのかフィーネ!」
「この前ポーション勝手に賭けに使ったからじゃ――」
「それは後で謝っただろ!セーフだ!」
「アウトですってぇ!」
ぐんぐん迫る火球。
ルシアンはぽかんと見上げる。
「……あ」
直撃。
ドォォォォォン!!
衝撃が地面をえぐる。
爆炎が吹き荒れ、魔族たちが吹き飛ぶ。
地面に巨大なクレーターが生まれる。
高台からは、煙しか見えなかった。




