混乱する戦場⑬
<フェンリルの様子>
戦場の外縁。
砂煙と怒号が交錯するその少し外側で、フェンリルは巨大な魔狼の背に揺られていた。
「うーん……」
少し離れたところで、野盗が黒い影に転がされていく。
「みんな、荷物運びばっかりでストレス溜まってたんだね」
朝からピクニック用の荷物を背負わされ、森を歩き回らされていた魔狼たち。
今は解放されたかのように、野盗を相手に駆け回っている。
もっとも――
噛んではいない。牙は立てない。
押し倒し、転がし、威嚇し、逃げ惑わせるだけ。
「本気でやったら危ないからね。ケガしないようにね」
フェンリルがそう言うと、近くの魔狼が尻尾を振った。
心配しているのは、人間ではない。
自分の群れだ。
一体の魔狼がトコトコと戻ってくる。
耳を伏せ、ややしょんぼりしている。
「お、君はさっき遠くまで行ってたよね」
フェンリルは身を起こした。
「勝手にどこか行っちゃダメだよ」
魔狼が小さく鳴く。
「それで? なんであっちに行ったの?」
ワン、と吠える。
「見たことないやつがいた?」
ワン。
「変な匂いがしたから近寄らなかった?」
ワン。
「駱駝かな? あれ、ちょっとクセあるよね」
フェンリルは軽く笑った。
「好奇心旺盛なのはいいけどさ。気をつけてね。あっちの人間、結構強いよ」
魔狼はもう一度鳴き、群れへと戻っていった。
フェンリルは視線を戦場へ向ける。
白い影が駱駝に乗って駆ける。
別の戦域では、魔族たちがやけに真っ直ぐ突っ込んでいる。
「……うん。今日はなかなか盛りだくさんだね」
面倒くさそうに肩をすくめる。
そのとき。
一羽の鳥が舞い降りた。
フェンリルは片手を差し出し、器用に受け止める。
足に巻かれた小さな紙片を外す。
さらりと目を通す。
「なるほど……」
少しだけ、口元がゆるむ。
「次はフローラさんのところに行ってね」
手紙を結び直して鳥を空へ放つ。
青空へ吸い込まれるように羽ばたいていく。
「ボチボチ撤収かな」
騎乗している魔狼が、え?というように首をもたげた。
「まだ遊び足りない?」
小さく笑う。
「じゃあ、もう少しだけね」
フェンリルは背中に寝転んだ。
魔狼の背は意外と安定している。
透き通るような青空が広がっていた。
戦場では怒号が上がり、剣がぶつかり、血と砂が舞っている。
だがフェンリルにとっては、ただの外出の延長だ。
群れが楽しそうなら、それでいい。
「いいストレス解消になったかな……」
ぽつりと呟く。
魔狼たちは今日も元気だ。
それが何より大事だった。




