混乱する戦場④
<賭けの目>
リューンの突撃が始まる、ほんの少し前。
ルシアンは前線に立ち、腕を組んで戦場を眺めていた。
視線の先にいるのは、剣を振るい続けるダリウスの姿だ。
「よしよし……」
口元が、自然と緩む。
「このまま攻めていけば、賭博場での借りは返せそうだぞ」
魔王軍の突撃は、ダリウス達によって受け止められてはいた。
だが、勢いはまったく衰えていない。むしろ、押し合うほどに熱を帯びている。
それもそのはずだ。
指揮官であるルシアン本人が、今日はやけにノッていた。それが個人的モチベーションによるものというのはさておいて。
「ルシアンさまー」
背後から声がかかる。
「ん? なんだよ、いま忙しいんだ」
ダリウスの動きを目で追っていたところを邪魔され、ルシアンは少し鬱陶しそうに振り返った。
声をかけてきた魔族兵は、なぜか言いづらそうに頭をかく。
「いや、その……いいんですかね? 俺たち、こんな感じで」
「こんな感じ?」
「王国軍も野盗も、両方狙うって話だったじゃないですか。今は邪魔が入ったとはいえ、王国兵ばっかりと戦ってて……」
少し間を置いて、魔族兵は言った。
「なんか、卑怯じゃありません?」
「ひきょ……!?」
思わぬ単語に、ルシアンの思考が一瞬止まる。
「いやいやいや! 戦いってそういうもんだろ!?」
慌てて取り繕うが、魔族兵は首を傾げたままだ。
「いやぁ……これじゃ野盗の味方みたいじゃないすか」
「嫌っすよ、あんな連中と一緒にされるの」
妙なところでプライドを見せる部下に、ルシアンは唸った。
「むむ……」
一瞬考えた末、ぽん、と手を叩く。
「じゃあこうしよう」
魔族兵が身を乗り出す。
「野盗を狙いたいやつは、狙っていい」
「俺は王国軍と戦いたいから、こっちに集中する」
「え、いいんすか? そんな適当な指示で……」
「いいんだよ!」
ルシアンは話は終わりだとばかりに、再び前を向いた。
「ほら、分かったらさっさと行け!」
追い払われた魔族兵は、仲間のもとへ戻る。
「どうするよ……」
「いや、ああ言われたら行くしかないだろ」
「でも、遠いよな……」
しばしの相談の末、誰かが言った。
「よし、遠距離攻撃で狙おう」
「お、いいじゃん」
「弓兵呼んでこい!」
「お前も弓持ってんだろ、それでいいじゃん」
「これかぁ……届くかなぁ」
「俺、魔法も撃っちゃうもんね」
「いいねー」
そんなノリで、矢や魔法がほうぼうから飛び始める。
雑だが、一応届いてはいる。
「よしよし……」
呑気に構えていた、そのときだった。
「退却ー! 退却ー!」
どこからともなく、大声が響く。
「え? なんで?」
「今いいとこなのに」
理由を聞いて、魔族兵たちは肩を落とす。
「ルシアン様が悪い目引いたんだってよ」
「またかよ……」
文句を言いながらも、命令には素直に従う。
「これで帰るのかな?」
「いやー、まだまだっしょ」
そんな軽口を叩いていたところ――。
ドドドドド……。
「ん?」
地響きに振り返ると、騎馬の一団がこちらに向かってきていた。
「やべぇ! 退却だ!」
慌てて散開し、間一髪で突撃をかわす。
「あぶねー……」
「退却の指示がなければ、二年は死んでたぞ……」
「ルシアン様……今日は来てるのか?」
「いや……ルシアン様だぞ?」
「だよなぁ」
当のルシアンはというと、少し離れた場所でカードを引いていた。
「……何してんすか?」
「なかなかいい目が出なくてな」
真剣な顔でカードを眺めながら、言い切る。
「それまでは待機だ!」
「うぃーす」
こうして魔王軍は、一息つくことになった。




