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密輸組織⑩

情報交換


 一通りの探索と戦闘が終わり、廃城の内部には一時の静けさが戻っていた。


 崩れた壁の隙間から差し込む光が、舞い上がった埃を淡く照らしている。


「さて……」


 カイルが周囲を見回し、低く声を落とす。


「ここで得られた情報についてだが。少し、向こうで話さないか」


 視線が、フィーネとリーナの方へ一瞬だけ向けられた。


 あからさまに、聞かせるつもりのない話だと分かる。


「……わかった」


 レオンもそれを察し、頷く。


 二人は崩れた壁の裏手へと移動し、周囲から距離を取った。


「奴らの本拠地が分かった」


「なに?」


 レオンの表情が引き締まる。


「残されていた書類から判明した。どうやら、このアジトは単なる末端だ。指示は別の場所から出ている」


「……場所は?」


「ヴァルミナだ」


 その名を聞いた瞬間、レオンは息を呑んだ。


「ヴァルミナ……。あの廃港都市か」


「そうだ」


 カイルは淡々と続ける。


 かつて王国の港町として栄えた街。


 だが、魔王軍の影響が濃くなるにつれ交易は途絶え、人は去り、やがて地図の端に追いやられた。


 王国・バルヴェルク・魔王領の狭間。


 どの勢力からも“遠すぎる”場所。


「確かに……あそこなら、表立って監視はされないな」


「だからこそ、奴らはそこを選んだんだろう」


 カイルは腕を組む。


「どうする? このまま出張するか?」


 レオンは即答しなかった。


「……気持ちはある。だが、今の戦力で単独遠征は無理だ。まずはリューン殿と合流して、状況を共有する」


「同意見だ。だがもう一つ伝えておくことがある」


「なんだ?」


 カイルはもう一枚の紙を取り出す。


「それは……」


「バルヴェルク印のある文書だ。また発見された」


「……またか。どういうことなんだ」


 ドミニク領でも発見されたこの印のある文書。二人の間で、短い沈黙が落ちた。


「そのこと含めて、リューン殿と話す必要がある」


「……そうだな。彼が内通しているとは思えないが……」


 ――その少し離れた場所で。


(なるほど……)


 フィーネは、瓦礫に腰掛けて静かに息を潜めていた。


 十分に距離を取ったつもりだったが、彼女にとっては意味をなさない。


(ヴァルミナ、ですか……)


 人間の会話が、まるで耳元で囁かれているかのように聞こえる。


 魔族の感覚は、時として便利すぎる。


 ふと、視界の端で影が揺れた。


(あら……)


 空を見上げると、一羽の鳥が旋回している。


 見覚えのある動きだった。


「エレナさん」


「どうしたの?」


「少し……お花を摘みに行きたいのですが」


 一瞬、エレナの視線が鋭くなる。


 だが、周囲を見回してから小さく肩をすくめた。


「……仕方ないわね。この辺りにはそれらしい場所もないし。……あの辺りの見える範囲ならいいわよ」


「ありがとうございます」


 フィーネは丁寧に一礼すると、指定された茂みへと足を向けた。


 しゃがみ込んだ瞬間、先ほどの鳥が音もなく降り立つ。


「やはり……フェンリルさんのところの鳥さんでしたか」


 小さく微笑み、懐から紙切れを取り出す。


 手早く何かを書き記し、鳥の脚へと結びつけた。


「あ、あと魔王様にも……」


 追加でもう一枚サラサラと書いて結ぶ。


「皆さんに、伝えてくださいね」


 鳥は一度、頷くように首を動かし、空へと舞い上がる。


「よし……」


 フィーネは何事もなかったかのように立ち上がり、元の場所へ戻った。


 ちょうどその頃、レオンとカイルの話も終わったようで、エレナたちが待っていた。


「逃げようと思えば、逃げられたでしょう?」


 エレナが探るように言う。


「別に、そんなつもりありませんよ」


 フィーネは穏やかに返す。


「それで……これからはどうしますか?」


 シルヴィアが尋ねる。


「まずは、陽動してくれているリューン隊の援護だ。その後、砦へ戻る」


 レオンの言葉に、リーナが不安げに声を上げた。


「……私も、同行しなきゃいけませんか?」


「返してあげたいのは山々だけど」


 エレナは苦笑する。


「この辺りはまだ危険よ。もう少しだけ我慢して」


 リーナは小さく頷いた。


 誰も気づかない。


 フィーネが、ほんの一瞬だけ空を見上げていたことを。


 ――すでに、魔王軍へ情報が流れ始めていることを。


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