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密輸組織⑧

合流


 先ほどの戦闘でたてた埃の匂いが、部屋の空気に残っていた。


 エレナは最後の帳簿を閉じ、短く息を吐く。


「……こんなところかしらね」


「だな。ここで集められる情報は以上だろう」


 カイルの言葉に、シルヴィアがほっとしたように肩を下ろした。


「敵が来ないで助かりました……」


「長居は無用だ。撤退しよう」


 三人は静かに部屋を出た。


 階段を降りるにつれ、空気が変わる。


 ひび割れた壁、床に散らばる石片――そして、下階へ降りきった瞬間、嫌でも目に入る光景。


「……なに、これ」


 エレナの声が、わずかに低くなる。


 壁が吹き飛び、天井は崩落して外光が差し込んでいる。


 通路の先は半壊し、瓦礫の向こうに空が見えていた。


「戦闘……というより」


 シルヴィアが言葉を探す。


「破壊、ですね……先ほどの爆発音はこれですか……」


 エレナは瓦礫に近づき、焦げ跡と崩れ方を目で追った。


(これは……)


 剣撃ではない。


 魔法の余波とも少し違う。


 一点から外へ、力任せに叩き割られたような痕跡。


「レオンか?」


「……まさか。でも、関係はあるのかも」


 胸の奥に、拭えない違和感が残る。


 そのときだった。


 ――気配。


 崩壊した通路にある下り階段。その下の階から、確実に人の気配が近づいてくる。


(残党のようね)


 エレナは即座に身を引き、角に身を伏せる。


 ハンドサインで、カイルとシルヴィアにも静止を指示した。


(先手必勝……)


 階段を上がる足音。


 隠す気配はないが、こちらに気づいてもいない。


 そして――


 影が姿を現した瞬間。


「ふっ!」


 エレナの剣が、迷いなく振り下ろされる。


 必中を確信した一撃。


 だが――


 キンッ!


 鋭い金属音が、空間を裂いた。


(……防がれた?)


 一瞬の驚愕。

……


 階段の下、盗賊たちが折り重なるように倒れていた。


「よし……こんなところか」


 レオンは剣を下ろし、息を整える。


 階段という逃げ場のない地形。狭い出口。


 一人ずつ確実に仕留めた結果だった。


「後続も、いないようです」


 そう言って戻ってきたフィーネの服には、煤がついている。彼女はいつの間にか魔法で背後に回って盗賊を挟み撃ちにしていたようだ。


「リーナも、なかなか良い投擲だったぞ」


「……私にはこの程度しかできませんから」


 リーナは倒れた盗賊の武器を拾って投擲することで援護していた。護身程度と言った割にはなかなか様になっていた。心得でもあるのだろう。


「さて、外に出るか」


「どうぞお先に。変態さんに後ろから見られるのは嫌なので」


「……今はそういう冗談を言う場面じゃない」


 レオンはため息混じりに返し、階段を上がり始める。


 中ほどまで来たとき――


(……気配)


 上階。


 そして、あからさまに消された気配。


(待ち伏せか)


 だが、気づいたことを悟られるわけにはいかない。


 レオンは歩調を変えず、剣に手を添えたまま進む。


 そして、階段を登りきった瞬間――


 ふっ!


 鋭い斬撃。


 レオンは即座に抜刀し、刃を受け止める。


(鋭い……!)


 想像以上の一撃に、背中を冷たい汗が伝う。


 剣を弾き返し、間合いを取る。


「……おい」


「あら……」


 互いの顔を認識した、その瞬間。


「敵ですか?」


 フィーネの声と、


「エレナさん!」


 シルヴィアの声が、ほぼ同時に響いた。


「いや、大丈夫だ」


 レオンが短く言う。


「なんだ、レオンか」


 カイルが肩の力を抜いた。


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