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密輸組織⑥

爆発の後


 ――耳鳴りだけが、世界に残っていた。


 意識が浮上するのと同時に、胸の奥に鈍い重さを感じる。


 レオンは仰向けに倒れたまま、薄く目を開いた。


「……どう、なった……?」


 視界は白く滲み、天井だったはずのものは既に形を失っている。粉塵が漂い、妙な静けさが包んでいる。


 それよりも。


「……重いな……」


 胸の上に、確かな質量がある。まだ視界は回復してないが爆発の際に上に何か乗ったようだ。


 瓦礫にしては柔らかすぎるその感触に、レオンは眉をひそめ、腕を伸ばして持ち上げようとした。


「……ん?」


 そこでようやく、違和感の正体に気づく。


 上体を起こした瞬間、視界がはっきりとした。


 至近距離に、端正な顔立ち。


 銀髪がはらりと垂れ、鋭い瞳がこちらを睨みつけている。


 ――フィーネだった。


 自分に跨るような形で座り、両肩を掴む体勢。


 完全に、どう言い訳しても誤解しか生まれない構図だった。


「す、すまん!」


 レオンは慌てて声を上げ、フィーネの肩から手を離す。


 だが。


 彼女の口は確かに動いているのに、音が届かない。


「……悪い、何も聞こえないぞ」


 爆発の衝撃で、聴覚がやられたのだろう。


 フィーネは一瞬だけ納得したような顔をすると、懐から紙とペンを取り出した。


 そして、迷いなく一言。


『やっぱり変態さんですね』


「そんなことで筆談するな……!」


 思わずツッコミを入れるレオンだが、自分の声がちゃんと出ているのかすら怪しい。


 フィーネは気にした様子もなく、小瓶を一つ取り出して差し出してきた。


「……飲めってことか?」


 先ほどの“日焼け止め”――いや、爆弾を思い出し、思わず警戒する。


 フィーネは紙を裏返し、短く書く。


『大丈夫』


 じっと見つめてくる視線が、妙に圧迫感を伴っていた。


(……信じるしかないか)


 レオンは腹を括り、瓶の中身を一気に飲み干した。


 数秒後。


 耳の奥にこびりついていた膜が、ゆっくりと剥がれていく感覚。


「……お、おお」


 瓦礫の崩れる音、遠くの叫び声。


 世界が、音を取り戻す。


「治ってきた……」


「この前、試作した薬です」


 ようやく聞こえたフィーネの声は、至って落ち着いていた。


「効いてよかったです」


「……俺は治験かよ」


 軽くため息をつきつつ、レオンは改めて彼女の様子を見る。


 服の端が焦げ、煤はついているが、目立った外傷はない。


「君は……大丈夫なのか?」


「魔族は頑丈なので」


 ケロリと言い放つその様子に、思わず苦笑が漏れる。


 だが。


(……もしかして、庇ってくれたのか?)


 爆発の瞬間、自分の上に倒れ込むような形だったことを思い出す。


「君は俺を……」


 問いかける前に、フィーネは視線を逸らし、淡々と言った。


「たまたま、吹き飛ばされた先にいただけですよ」


 即答だった。


 早すぎる否定に、レオンはそれ以上踏み込むのをやめる。


「……そうか。とにかく、助かった。薬もありがとう」


「どういたしまして」


 そっけない返事。


 二人は立ち上がり、爆心地となった部屋を見渡した。


 製薬室は跡形もなく消え、天井は抜け落ち、外光が差し込んでいる。


 壁も抉られ、再利用の余地はない。


「……建物ごと崩れてないのが不思議なレベルだな……」


「天誅です」


 妙に満足そうなフィーネの表情に、レオンは苦笑した。


 その時。


 遠くから、足音と怒号が近づいてくる。


「ここでは囲まれるな……」


 開けた場所となっている今の位置に、レオンは即座に判断する。


「あの階段だ。逃げるぞ」


「仕方ないですね」


 爆破により怒りが収まったのか、先ほどまでの突撃癖は影を潜め、フィーネは素直に頷いた。


 二人は粉塵の残る爆発跡を抜け、階段へと駆け下りていった。


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