密輸組織⑤
爆破
フィーネの突撃は、止まらなかった。
「ほらほらぁ! どんどんやっちゃいますよぉ!」
甲高い声とは裏腹に、振るわれる大鎌は容赦がない。
盗賊たちは一瞬でも怯んだが最後、次の瞬間には斬り伏せられて床に転がっていた。
「……まったく、危なっかしいな」
レオンは小さく息を吐きながら、背後と側面を警戒する。
フィーネは敵を見つけるたびに前へ前へと突き進んでいくため、通路は自然と奥へと伸びていった。横道から飛び出してくる盗賊や、背後から忍び寄る影は、すべてレオンが切り捨てる。
背後の敵を倒し、振り返ったときには、すでにフィーネの姿は見えなかった。
「あの部屋か……?」
通路の先。
左右に開かれた大扉の向こうから、微かな薬品の臭いが漂ってくる。
レオンは警戒を緩めずに中へ足を踏み入れた。
「……どうした?」
広い室内の床には、すでに数人の盗賊が倒れている。
そして、フィーネはその中央に立ったまま、動かずにいた。
外傷はない。だが、どこか様子がおかしい。
視線の先を追って、レオンも部屋を見渡す。
散乱する器具。
無造作に並べられた瓶。
半端な調合跡、放置された素材袋。
引火性の高そうなリキュールの瓶が、まるで水のように転がっている。
「……魔王薬の製造現場、ってところか」
レオンの呟きに、フィーネの肩が、ぴくりと震えた。
「…………」
次の瞬間。
「――――ここが諸悪の根源かあぁぁぁぁ!!!!」
室内に、フィーネの怒声が響き渡った。
「私の薬を!!こんっな雑な環境で!!しかも!! こんな粗悪品を!!」
振り返ったフィーネの表情は、鬼気迫るものだった。
「配合も保存も温度管理も! 何もかも滅茶苦茶じゃないですか!!」
「おい落ち着けって……」
「私は、その模造品の大元を吹き飛ばすために来たんです……」
フィーネは懐に手を入れ、一本の小瓶を取り出した。
白いラベルには、小さくこう書かれている。
――火気厳禁。
「これを持ってきてよかったです」
「……それは?」
「日焼け止めです」
一拍。
「ただ、強い衝撃を与えると……爆発します」
「それ、どう考えても爆弾だろ!!」
レオンのツッコミにも、フィーネはまったく動じない。
「いえ。日焼け止めとして作ったので、日焼け止めです。爆発は副作用です」
「いやいやいや……」
フィーネは部屋の中央から端へと歩き出す。
「ここは……更地にします」
「いやいやいや!」
レオンは制止しようとした。しかし――。
「悪の大元よ……去ね!」
フィーネは既に瓶を投げる体勢に入っていた。慌てて退避するレオン。
割れる音。
そして――白い光。
ドゴオオオオン!!
爆炎が室内を飲み込み、散乱していたリキュールに引火して、さらに爆発が連鎖する。
床が揺れ、天井が悲鳴を上げる。
レオンは咄嗟に出口へと駆けたが間に合わず、爆発に巻き込まれた。もちろん、フィーネ本人も。
爆音の余韻が、アジト全体に響き渡っていた。




