密輸組織③
一方その頃――静かな侵入
アジトの裏手に回り込んだ三人は、小高い岩場の陰から建物を見下ろしていた。
乾いた風が草を揺らし、遠くでは断続的な金属音と怒号が響いている。
エレナは目を細め、建物の構造を一瞥した。
「あそこね。裏口があるわ。……見張りはいない」
「確かに、今は完全に正面に意識が向いてるな」
地図を畳みながら、カイルが短く応じる。
「戦闘になったら頼むぞ」
「少しは自分も鍛えなさいよ」
「適材適所だ」
いつもの軽口だが、無駄な緊張はない。
シルヴィアが周囲に目を走らせ、小さく頷いた。
「魔力反応も薄いです。今が一番静かですね。行きましょう」
三人は足音を殺し、裏手へと滑り込む。
その瞬間――正面側から、ひときわ大きな怒声と爆ぜるような音が届いた。
地面が、かすかに震えた。
「……俺たちが見つかったわけじゃない」
カイルが低く言う。
「レオンさんでしょうか……?」
「違うわね」
エレナは即答した。
「彼、あんなヘマはしないもの」
それは信頼だった。短く、しかし揺るぎのない断言。
「……理由はわからんが好都合だ」
カイルが視線を戻す。
「注意が完全に正面に向いてる。今がチャンスだ」
裏口の扉は、予想通り簡易な鍵だった。
カイルが道具を差し込むと、かすかな音とともに錠が外れる。
中に入ると、背を向けた男が一人。
騒ぎに気を取られ、こちらにはまるで注意を払っていない。
「任せて」
エレナはそれだけ告げ、影のように滑った。
次の瞬間、男の体が崩れ落ちる。
音はほとんどしなかった。
「……厨房か」
中は生活感に満ちていた。
まな板、包丁、切りかけの野菜。
長期的に使われている拠点であることは明白だった。
「野盗にしては、腰を据えてるわね」
「密輸拠点……でしょうね」
シルヴィアが小さく呟く。
「調査が目的だ。先へ進むぞ」
廊下を進み、階段を上る。
敵と遭遇することもあったが、必要以上の戦闘は避けた。
倒すべき相手は倒し、避けられる相手はやり過ごす。
そして――重厚な扉の前で、三人は足を止めた。
「ここが怪しいな」
カイルが鍵に手をかける。
扉の向こうには、広めの部屋があった。
椅子に腰掛けた大柄な男が、こちらを睨みつけてくる。
「なんの用だ?」
机の上には帳簿、地図、封蝋付きの書類。
情報の匂いが、濃い。
「あなたがここのボスかしら?」
エレナが一歩前に出る。
「……ボスは不在でね。俺は代理だ」
「下っ端に用はないの」
冷ややかに言い放つ。
「片付けさせてもらうわ」
男が歯を剥いた。
「おもしれえ……やってみやがれ!」
剣が抜かれ、空気が一変する。
――戦闘が、始まった。




