密輸組織②
フィーネとレオン、相性抜群(?)の突入コンビ
密輸組織のアジトは、古びた城壁を寄せ集めて無理やり砦にしたような建物だった。
石壁はひび割れ、木製の門は湿気で歪んでいる。それでも見張りの男たちが数名、周辺を警戒しているあたり、最低限の機能は保っているらしい。
レオンとフィーネは斜面の陰に身を沈め、その様子をじっと見つめていた。
「やはり守りは固いな……門の裏にも何人か隠れている。仕方ない、裏口がないか……」
レオンが囁いたその瞬間。
「情け無用です!」
「お、おい!?」
フィーネは言葉の途中で斜面を滑り降りていた。
そして軽く跳ねるように着地し、一番近くの門番へと大鎌を振り抜く。
――空気が裂けたような感覚。
「うぎゃっ!?」
門番の男は声にならない叫びをあげて倒れ、奥にいた別の男が目を剥く。
「て、敵襲ーー!!」
砦内部から怒号が上がり、人が蟻のように溢れ出す。
フィーネは二歩、三歩と踏み込むたびに、鎌の軌道に黒い火花めいた魔力をまとわせながら敵を押し返していく。
「なんだあのねーちゃん!?」「鎌!? 怖ぇ!!」「強っ……!」
小柄な身体とは不釣り合いな力で振り抜かれる刃。
軽やかで、しなやかで、しかし確実に急所だけを撃ち抜く精度――まるで舞うような戦いぶりだった。
レオンは物陰からその様子を見つめ、一瞬だけ口を開けたまま固まった。
(いや……えぐいなこれ……)
しかしすぐに意識を切り替える。
「おっと見てる場合じゃない。フィーネが注意を引いているうちに……俺は上だ」
レオンは素早く塀の影に回り込み、上部の狙撃手へと忍び寄った。
「なっ!? もう一人いるぞ!」
「悪いが――寝ていてくれ」
振り返った盗賊の剣をレオンが弾き、そのまま柄でこめかみを叩き込む。
男は目を白黒させながら崩れ落ちた。
フィーネが前線で派手に暴れているからこそ、レオンの隠密戦法は抜群に刺さっていた。
敵はフィーネ一人に気を取られ、背後を突かれたことにすら気づかない。
フィーネは魔法と斬撃をリズムのように繰り返し、その度に敵がなぎ倒されていく。
「消えなさい!」
黒い炎が弧を描き、盗賊の足元で爆ぜる。
その爆風に怯んだ敵の首元へ、フィーネの鎌が僅かに触れる。
それだけで男は武器を落として崩れ落ちた。
レオンも外側の敵を順に刈り取り、いつの間にか外周は静けさを取り戻していた。
「これで最後です!」
フィーネが叫ぶと同時に、最後の盗賊が仰向けに倒れた。
レオンも塀の上から降りてくる。
「こっちも片付いた。外にはもう敵はいないな」
「そうみたいですね」
フィーネは息一つ乱さず、鎌についた埃だけを軽く払っていた。
レオンは思わず内心で唸る。(魔族って……やっぱり規格外だな)
だが次の瞬間、フィーネはジトッとした目を向けてくる。
「レオンさんのそのコソコソ動き……変態さんらしいですね。もっと正々堂々と戦ったらどうですか?」
「やめてくれ……それは臨機応変なんだよ」
レオンが反論すると、今度はフィーネが小首をかしげる。
「でもまあ、変態さんにしてはいい動きでした。」
「俺はもっと穏便に進めようと思ってたんだけどな」
「私の目的は殲滅ですから」
「いや……そうなのかもしれないが、あんな戦い方は危険じゃないのか?」
「大丈夫です。矢が多少刺さるくらいなら気になりませんし。丈夫なのが取り柄ですから」
「……さすが魔族だな」
呆れ半分、尊敬半分の言葉が漏れる。
フィーネは大鎌を肩に担ぎ、城の入口へ目を向けた。
「さて、では中に入りましょうか」
「――ああ。行こう、フィーネ」
二人の影が並ぶ。
戦い方は真逆なのに、不思議と足取りは噛み合っていた。




