ピクニック隊、出発!⑤
衝突する両軍
「……ところでルシアン様。」
「ん、なんだ?」
退屈そうにサイコロを弄んでいたルシアンのもとに、部下の一人が声をかけた。
転がるダイスは、今回も“1”を外している。
さすがに部下たちも痺れを切らしていた。
「突撃はいいんですけど……どっちを狙えばいいんです?」
「どっちとは?」
「ほら、王国兵と野盗、両方やり合ってるじゃないですか。どっちの背中に刺さる感じで行けばいいのかなって。」
ルシアンは首を傾げ、ふむ、と真剣な顔をして考え込んだ。
一瞬だけ、風が止まる。
部下たちが「ついに戦略的思考が出るか?」と息を呑む。
「……どっちでもいいよ。」
「え?」
「だって、どっちもムカつくじゃん。
どうせ入り乱れたら見分けつかなくなるし、味方以外は敵。
そのほうが分かりやすくていいでしょ?」
「まぁ……簡単ですけど!」
ルシアンはにっこり笑って、再びダイスを振った。
転がる音が心地よく響き、部下たちが身を乗り出す。
「……おっ、出た。“1”だ!」
「うおおおおおお!!!」
丘の上から、フローラが紅茶片手に手を振る。
「みんなー、あんまり怪我しないように気をつけてくださいねー!」
「よし、突撃ーっ!!」
ルシアンの号令に、魔王軍が一斉に咆哮を上げた。
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荒野に砂煙が舞い上がる。
戦鼓の代わりに、ルシアンの笑い声が響く。
「目標は……一番近いやつ!!」
先頭を駆ける魔族たちは、リューン隊の側面を狙って突撃していた。
だが――その瞬間、横合いから別の影が飛び込む。
「なっ――!」
疾走する騎馬の群れ。
金属の閃光と共に、砂を蹴立てて迫る。
「横殴りとは……やるじゃないか!」
ルシアンは笑い、サイコロを指先で弾いた。
さらに、胸元から一枚のカードを引き抜く。
金箔で縁取られたカードが、太陽を反射してキラリと光る。
「む……この出目は“逆境に強し”か! なるほどね。
よし、前列は押し返されたフリして下がれ! 後列はそのまま突撃だ!」
「えっ、そんな練習してませんよ!」
「やりゃできる! あとはアドリブで何とかしろ!」
…
本能と勢いだけの即興戦術。
しかし混乱した戦場では、むしろその無秩序さが機能した。
ダリウスは騎馬での衝突後、更に相手を押し返すために陣容を整えていたところだった。
しかし、それが押し込みながらも突撃を受けるという謎の事態に遭遇している。
ダリウスと同行するリューン隊の兵士が焦りの声を上げる。
「隊形が読めません! 動きが滅茶苦茶です!」
「……ふざけた奴らだが、やるな。」
ダリウスも突撃阻止に成功したことに安堵しながらも、ここから始まる戦いに気が抜けなかった。
…
砂塵の向こう、黒馬を操る大柄な男がいた。
ルシアンは双眼鏡を覗き込み――次の瞬間、目を見開く。
「あっ、あいつ……この前地下カジノで負けたやつだ!!」
心の底から燃え上がる闘志。
ルシアンの瞳がギラリと輝く。
「燃えてきたぁぁぁ!! 今日こそ勝つ!!」
再びダイスを振り上げ、空に放る。
「……6!! きたぁぁぁ!!」
「ルシアン様、6は何の合図ですか!?」
「もちろん“全力突撃”だぁぁ!!!」
魔王軍の突撃が再開する。
理屈も統率もない――だが異様な迫力を持った暴走。
混乱の渦に、ダリウス隊も巻き込まれていく。
「なんなんだこいつらは……!?」
斬っても下がらず、下がっても笑いながら突っ込んでくる。戦術が読めない。
ルシアンは上機嫌に叫んだ。
「よーし、今日は勝つぞぉぉぉ!!」
「ルシアン様、目的変わってます!!!」
戦場の砂煙が濃く、太陽を覆う。
リューン隊、野盗、そして魔王軍――。
三つの軍が互いを敵と見なし、
誰もが誰を斬っているのか分からなくなっていた。
荒野は、笑いと怒号と混沌に満ちていく。
静かだった昼の平野は、いまや運と気まぐれが支配する狂気の戦場と化していた。




