ピクニック隊、出発!④
余興と治安維持
「いやぁ~、勝った勝った!」
昼下がりの草原に、上機嫌な声が響いた。
ルシアンが札束ならぬ金貨袋をぶん回しながら戻ってくる。
後ろでは、散財した部下たちが魂の抜けたような顔でついてきていた。
「ルシアン様、今日に限って強すぎますよ!」
「悪いねぇ、これも時の運ってやつさ。」
「いや、それで何回連敗してたと思ってるんですか……」
丘の上では、フローラたちがティータイムを満喫していた。
湯気の立つ紅茶、香ばしいクッキー、そして青空。
平和そのものの光景だ。
「お疲れ様です、終わったんですか?」
フローラが優しく問いかけると、ルシアンは自慢げに胸を張る。
「ああ、みんなハコらせてやったよ!」
「珍しいこともあるもんね」とレミがくすりと笑った。
フェンリルが肩をすくめてぼそっと言う。
「……やっぱり嫌な予感がする。」
その言葉を裏付けるように、ルシアンの部下の一人が遠くを指差した。
「おい、ルシアン様。あれ……なんですかい?余興っすか?」
全員の視線が、丘の下の方へ向かう。
砂煙の中で閃く剣光。響く金属音。
戦の音が、空気を震わせて届いていた。
フェンリルが短く言う。
「余興ではない。」
フローラが眉をひそめ、目を凝らす。
「どうやら、王国軍と野盗が戦ってるみたいです……。もしかしたら、フィーネさんも巻き込まれてるかも……」
「なにぃ!? そりゃまずい!」
部下たちは一斉に立ち上がった。
「助けに行きましょう!」「今度こそ恩返しだ!」
勝負に負けた鬱憤を晴らすかのような勢いで、武器を掴み始める。
「ま、別に放っておいてもいいんじゃない?」
レミが肩をすくめる。
「あれぐらいでやられないでしょ。」
「いや、そうじゃない。」
ルシアンの声が、いつになく低く響いた。
風に黒髪がなびく。彼の瞳が、珍しく理性的な光を帯びていた。
「ここは魔王軍の支配領域のはずだ。そこで他国の軍が勝手に戦っている。――治安維持のために、制圧する必要がある。」
一瞬、静寂。
レミがポカンと口を開け、フェンリルが呟く。
「……お前、たまに真面目なこと言うよな。」
「勝って気が大きくなってるだけじゃないの?」
「違う違う、これでも前線指揮官だからな。それに――今日の俺は無敵だ!」
フローラが拍手をしながら微笑む。
「へぇ~、ルシアンさんも意外と考えてるんですね!」
「意外とって言うな!!」
ルシアンはくるりと踵を返し、丘の下を指差した。
「というわけで行くぞ! 全員、突撃準備!」
「さっすがルシアン様!」「そうこなくっちゃ!」
部下たちは一斉に立ち上がり、武器を手に整列――するはずが、
槍・斧・杖・包丁・楽器(?)まで入り混じった、混沌とした光景になる。
「フェンリルはどうする?」
「僕はパス。昼寝の方が建設的だよ。」
フェンリルはあくびをしながら地面に横たわった。
「魔獣たちは……行きたい子だけ行っていいよ。」
その言葉に、数匹の魔獣が「ウゥッ」と吠え、走り出す。
他の魔獣たちは、気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
「よーし、それじゃ行くよー。みんな並んでー!」
ルシアンの号令に、魔族たちがバラバラに列を作る。
完全に行軍というよりピクニック延長戦のノリだった。
そこでルシアンが懐からダイスを取り出した。
銀色に輝く六面体。彼が手の中で転がしながら言う。
「じゃあこれで“1”が出たら突撃。それまでは待機だ。」
「ええー!またそれですか!」
「仕方ないだろ?戦機ってのは運命で決まるもんだ!」
「そんな軍聞いたことねぇ!」
レミが紅茶をすすりながら呟く。
「どういう理屈なのよ……」
「お、5だ。じゃあ5分後にまた振る!」
「はやくしてぇぇぇ!」
「焦るな、兵は拙速を戒めるものだ。」
そんな緩すぎる会話の最中も、丘の下からは爆音が絶え間なく響く。
しかし――丘の上では、相変わらず紅茶の香りと笑い声が漂っていた。
魔王軍の“治安維持活動”が、今まさに始まろうとしていた。




