↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
283/325

ピクニック隊、出発!④

余興と治安維持


「いやぁ~、勝った勝った!」


 昼下がりの草原に、上機嫌な声が響いた。


 ルシアンが札束ならぬ金貨袋をぶん回しながら戻ってくる。


 後ろでは、散財した部下たちが魂の抜けたような顔でついてきていた。


「ルシアン様、今日に限って強すぎますよ!」


「悪いねぇ、これも時の運ってやつさ。」


「いや、それで何回連敗してたと思ってるんですか……」


 丘の上では、フローラたちがティータイムを満喫していた。


 湯気の立つ紅茶、香ばしいクッキー、そして青空。


 平和そのものの光景だ。


「お疲れ様です、終わったんですか?」


 フローラが優しく問いかけると、ルシアンは自慢げに胸を張る。


「ああ、みんなハコらせてやったよ!」


「珍しいこともあるもんね」とレミがくすりと笑った。


 フェンリルが肩をすくめてぼそっと言う。


「……やっぱり嫌な予感がする。」


 その言葉を裏付けるように、ルシアンの部下の一人が遠くを指差した。


「おい、ルシアン様。あれ……なんですかい?余興っすか?」 


 全員の視線が、丘の下の方へ向かう。


 砂煙の中で閃く剣光。響く金属音。


 戦の音が、空気を震わせて届いていた。


 フェンリルが短く言う。


「余興ではない。」


 フローラが眉をひそめ、目を凝らす。


「どうやら、王国軍と野盗が戦ってるみたいです……。もしかしたら、フィーネさんも巻き込まれてるかも……」


「なにぃ!? そりゃまずい!」


 部下たちは一斉に立ち上がった。


「助けに行きましょう!」「今度こそ恩返しだ!」


 勝負に負けた鬱憤を晴らすかのような勢いで、武器を掴み始める。


「ま、別に放っておいてもいいんじゃない?」


 レミが肩をすくめる。


「あれぐらいでやられないでしょ。」


「いや、そうじゃない。」


 ルシアンの声が、いつになく低く響いた。


 風に黒髪がなびく。彼の瞳が、珍しく理性的な光を帯びていた。


「ここは魔王軍の支配領域のはずだ。そこで他国の軍が勝手に戦っている。――治安維持のために、制圧する必要がある。」


 一瞬、静寂。


 レミがポカンと口を開け、フェンリルが呟く。


「……お前、たまに真面目なこと言うよな。」


「勝って気が大きくなってるだけじゃないの?」


「違う違う、これでも前線指揮官だからな。それに――今日の俺は無敵だ!」


 フローラが拍手をしながら微笑む。


「へぇ~、ルシアンさんも意外と考えてるんですね!」


「意外とって言うな!!」


 ルシアンはくるりと踵を返し、丘の下を指差した。


「というわけで行くぞ! 全員、突撃準備!」


「さっすがルシアン様!」「そうこなくっちゃ!」


 部下たちは一斉に立ち上がり、武器を手に整列――するはずが、


 槍・斧・杖・包丁・楽器(?)まで入り混じった、混沌とした光景になる。


「フェンリルはどうする?」


「僕はパス。昼寝の方が建設的だよ。」


 フェンリルはあくびをしながら地面に横たわった。


「魔獣たちは……行きたい子だけ行っていいよ。」


 その言葉に、数匹の魔獣が「ウゥッ」と吠え、走り出す。


 他の魔獣たちは、気持ちよさそうに寝息を立て始めた。


「よーし、それじゃ行くよー。みんな並んでー!」


 ルシアンの号令に、魔族たちがバラバラに列を作る。


 完全に行軍というよりピクニック延長戦のノリだった。 


 そこでルシアンが懐からダイスを取り出した。


 銀色に輝く六面体。彼が手の中で転がしながら言う。


「じゃあこれで“1”が出たら突撃。それまでは待機だ。」


「ええー!またそれですか!」


「仕方ないだろ?戦機ってのは運命で決まるもんだ!」


「そんな軍聞いたことねぇ!」


 レミが紅茶をすすりながら呟く。


「どういう理屈なのよ……」


「お、5だ。じゃあ5分後にまた振る!」


「はやくしてぇぇぇ!」


「焦るな、兵は拙速を戒めるものだ。」


 そんな緩すぎる会話の最中も、丘の下からは爆音が絶え間なく響く。


 しかし――丘の上では、相変わらず紅茶の香りと笑い声が漂っていた。


 魔王軍の“治安維持活動”が、今まさに始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。