ピクニック隊、出発!③
のどかな午後と、遠くの戦火
陽は高く、風は穏やかだった。
魔王軍のピクニック組は、昼食を終え、丘の上で優雅なティータイムを楽しんでいた。
草の香りが漂い、紅茶の湯気が陽光に揺れる。
近くでは魔獣たちが寝そべり、兵たちが木陰で談笑している――
王国の人間からは考えられないが、魔王軍らしい光景だった。
「ふぅ~……紅茶とクッキー。自然の中で一息。最高ですねぇ~」
ティーカップを両手で包み込みながら、フローラが満面の笑みを浮かべる。
「リリスが来られなくて悔しがるだろうなー。」
レミが肩をすくめながら言う。
「ここでワイン飲むって、絶対言い出すよ。」
「ふふっ。リリスさんならありそうですねぇ。」
遠くから、**ドゴォン!**と地鳴りのような音が響いた。
だが、誰も動じない。
「まだやってますねー、フィーネさん。」
フローラがのんびりとカップを揺らす。
「まぁ、たまには爆発しておいた方がいいんじゃない?」
レミがクッキーをかじりながら言う。
「比喩じゃなくて実際に爆発してるんだよなぁ……」
フェンリルがため息をついた。
「おかげでこいつらが落ち着かない。」
彼の周囲では、魔獣たちがそわそわと足踏みしている。風に乗って、焦げた匂いと煙の筋が遠くに見える。
それでもフローラは、優しくその頭を撫でてやった。
「まぁまぁ、私が撫でてあげますから。」
撫でられた魔獣はすぐに大人しくなり、満足そうに目を細める。
フェンリルは呆れたようにぼやいた。
「……なんでこんなに懐いてんだ?」
「フローラ、たぶん“たらし属性”持ってるね。」
「それ、褒め言葉ですか?」
「……たぶん。」
その隣で、ルシアンが腰を上げた。
「さーて、じゃあ軽く勝負といこうじゃないか。」
ポーチからカードを取り出すと、近くの兵士たちが顔を見合わせる。
「えー、またやるんですか?こんなに天気いいのに。負けても知りませんよ」
「いや、今日は勝てる気がするんだ。」
「それ、毎回言ってません?」
「いいや、違う。負け、負け、負けと来た。だから今日は勝つ日だ。」
「……理屈になってませんけど。」
そんなやり取りのあと、地面の上に即席の“ギャンブル卓”が完成した。
草原の上で、魔族たちが真剣にカードを切っている。
レミが呆れたように紅茶を置く。
「まったく、ルシアンは懲りないねー。フローラが出て懲らしめてくれば?」
「うーん、今日はそんな気分じゃないです。レミさんとお話したいです。」
「私? なんか聞きたいことでも?」
「最近、農業を始めたって聞いたんです。進捗はどうですか?」
「あー……。まだ畑の整備中。全然だよ。」
「えっ、レミさんがそういうことするの意外です!服が汚れるの嫌そうなのに!」
「意外でしょー。でもね、土を触ってると、意外と気持ちいいのよ。」
「へぇ~! 今度一緒にやりたいです!」
「気が向いたらね~。」
その会話の最中――
遠くで「勝ったー!!!」という歓声が上がる。
フェンリルがちらりと目をやる。
「……ルシアンが勝ったぞ。」
レミが目を細めた。
「……何かあるね、これは。」
「え、めでたいことじゃないんですか?」
「いや、あいつが勝つときは、大体碌なことにならないんだよ。」
フローラはティーカップを置き、遠くの丘を覗いた。
「そういえば……フィーネさん、遅いですねぇ。」
「まぁ、あれだけブチ切れてたし。燃料切れするまでは戻らないでしょ。」
「というか、燃料切れした頃には地形が変わってるな。」
フェンリルがぼそりと呟く。
「……あれあれ?」
フローラの声が少し低くなった。
「ん?どうした?」
「なんか、戦ってますけど……?」
「フィーネでしょ。」
「いえ、もっと……人がたくさんいます。
丘の先に、砂煙。
陽炎の向こう、ぶつかり合う金属音。
リューン隊と野盗が入り乱れる戦場がそこにはあった。
「……あー、これはマズいな。」
フェンリルが顔をしかめる。
「どう見ても、ただの野盗戦じゃないね。」
「フィーネさん、戦場に行っちゃいました……?」
「そうかも……?」
「……でも、まぁ、大丈夫でしょ。」
レミの声は平然としていた。
「だな。」フェンリルも頷く。
「……まぁ大丈夫ならいっか。フィーネさんも強いんですね」
フローラが笑顔で紅茶を注ぎ足す。
「うん、ああ見えてね。」
その瞬間――また**ドォン!**と遠くで爆音。
小鳥が飛び立ち、空が微かに震える。
しかしピクニック組は、変わらずティーカップを傾けていた。
まるで、紅茶の香りの方がずっと重要であるかのように。
魔王軍のピクニックは、まだ終わらない。




