↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
282/325

ピクニック隊、出発!③

のどかな午後と、遠くの戦火 


 陽は高く、風は穏やかだった。


 魔王軍のピクニック組は、昼食を終え、丘の上で優雅なティータイムを楽しんでいた。


 草の香りが漂い、紅茶の湯気が陽光に揺れる。


 近くでは魔獣たちが寝そべり、兵たちが木陰で談笑している――


 王国の人間からは考えられないが、魔王軍らしい光景だった。 


「ふぅ~……紅茶とクッキー。自然の中で一息。最高ですねぇ~」


 ティーカップを両手で包み込みながら、フローラが満面の笑みを浮かべる。


「リリスが来られなくて悔しがるだろうなー。」


 レミが肩をすくめながら言う。


「ここでワイン飲むって、絶対言い出すよ。」


「ふふっ。リリスさんならありそうですねぇ。」 


 遠くから、**ドゴォン!**と地鳴りのような音が響いた。


 だが、誰も動じない。


「まだやってますねー、フィーネさん。」


 フローラがのんびりとカップを揺らす。


「まぁ、たまには爆発しておいた方がいいんじゃない?」


 レミがクッキーをかじりながら言う。


「比喩じゃなくて実際に爆発してるんだよなぁ……」


 フェンリルがため息をついた。


「おかげでこいつらが落ち着かない。」 


 彼の周囲では、魔獣たちがそわそわと足踏みしている。風に乗って、焦げた匂いと煙の筋が遠くに見える。


 それでもフローラは、優しくその頭を撫でてやった。


「まぁまぁ、私が撫でてあげますから。」


 撫でられた魔獣はすぐに大人しくなり、満足そうに目を細める。


 フェンリルは呆れたようにぼやいた。


「……なんでこんなに懐いてんだ?」


「フローラ、たぶん“たらし属性”持ってるね。」


「それ、褒め言葉ですか?」


「……たぶん。」 


 その隣で、ルシアンが腰を上げた。


「さーて、じゃあ軽く勝負といこうじゃないか。」


 ポーチからカードを取り出すと、近くの兵士たちが顔を見合わせる。


「えー、またやるんですか?こんなに天気いいのに。負けても知りませんよ」


「いや、今日は勝てる気がするんだ。」


「それ、毎回言ってません?」


「いいや、違う。負け、負け、負けと来た。だから今日は勝つ日だ。」


「……理屈になってませんけど。」


 そんなやり取りのあと、地面の上に即席の“ギャンブル卓”が完成した。


 草原の上で、魔族たちが真剣にカードを切っている。 


レミが呆れたように紅茶を置く。


「まったく、ルシアンは懲りないねー。フローラが出て懲らしめてくれば?」


「うーん、今日はそんな気分じゃないです。レミさんとお話したいです。」


「私? なんか聞きたいことでも?」


「最近、農業を始めたって聞いたんです。進捗はどうですか?」


「あー……。まだ畑の整備中。全然だよ。」


「えっ、レミさんがそういうことするの意外です!服が汚れるの嫌そうなのに!」


「意外でしょー。でもね、土を触ってると、意外と気持ちいいのよ。」


「へぇ~! 今度一緒にやりたいです!」


「気が向いたらね~。」

 

 その会話の最中――


 遠くで「勝ったー!!!」という歓声が上がる。


 フェンリルがちらりと目をやる。


「……ルシアンが勝ったぞ。」


 レミが目を細めた。


「……何かあるね、これは。」


「え、めでたいことじゃないんですか?」


「いや、あいつが勝つときは、大体碌なことにならないんだよ。」


 フローラはティーカップを置き、遠くの丘を覗いた。


「そういえば……フィーネさん、遅いですねぇ。」


「まぁ、あれだけブチ切れてたし。燃料切れするまでは戻らないでしょ。」


「というか、燃料切れした頃には地形が変わってるな。」


 フェンリルがぼそりと呟く。


「……あれあれ?」


 フローラの声が少し低くなった。


「ん?どうした?」


「なんか、戦ってますけど……?」


「フィーネでしょ。」


「いえ、もっと……人がたくさんいます。 


 丘の先に、砂煙。


 陽炎の向こう、ぶつかり合う金属音。


 リューン隊と野盗が入り乱れる戦場がそこにはあった。


「……あー、これはマズいな。」


 フェンリルが顔をしかめる。


「どう見ても、ただの野盗戦じゃないね。」


「フィーネさん、戦場に行っちゃいました……?」


「そうかも……?」


「……でも、まぁ、大丈夫でしょ。」


 レミの声は平然としていた。


「だな。」フェンリルも頷く。


「……まぁ大丈夫ならいっか。フィーネさんも強いんですね」


 フローラが笑顔で紅茶を注ぎ足す。


「うん、ああ見えてね。」


 その瞬間――また**ドォン!**と遠くで爆音。


 小鳥が飛び立ち、空が微かに震える。


 しかしピクニック組は、変わらずティーカップを傾けていた。


 まるで、紅茶の香りの方がずっと重要であるかのように。


 魔王軍のピクニックは、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。