↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
279/325

戦闘開始④

<魔王軍と交戦開始>


 砂塵が唸りを上げた。


 昼の陽光を遮るように、丘の上から黒い影が滑り降りてくる。


 逆光の中で、赤黒い鎧が光を弾いた。


 そしてその集団は、怒涛のような咆哮とともに丘を駆け下りる。


 魔王軍――。


 その突撃の狙いは、リューン隊の側面だった。


「側面に敵影ッ! 騎馬の突撃です!!」


「なんだと!?」


 前線の兵たちがざわめく間もなく、地鳴りが地を這った。


 砂と風が巻き上がり、騎馬の蹄音が連続して荒野を震わせる。


 しかし、彼らが突き刺さる寸前――


 丘の反対側から、別の砂煙が立ち上がった。


「リューン隊の背後を取らせるなよ! 相手はこっちだ!!」


 荒々しい声とともに、漆黒の鎧をまとった騎兵が砂塵を裂いて現れる。


 ダリウス――。


 彼の部隊が側面から駆け込み、魔王軍の突撃線へ真正面から衝突した。


 金属と金属がぶつかる轟音。


 炎のような砂煙の中、馬の嘶きと怒号が入り混じる。


「止まれぇっ!!」


 ダリウスが叫び、槍を突き出す。


 衝撃が腕に走り、敵兵の鎧が火花を散らして弾け飛ぶ。


 だが魔王軍の兵士は倒れながらも、魔力を帯びた剣を振るい返してくる。


「チッ、化け物じみた耐久力だな!」


 馬上で身を沈め、再び突き刺す。


 敵の黒鉄の鎧が割れ、紫の火花が散る。


 リューン隊の弓騎兵たちが一斉に矢を放つ。


 だが、魔王軍の兵は魔力障壁を展開し、それを弾く。


 弾かれた矢が空中で砕け、光の粒が散った。


「押し引きが読めねぇ……さすがに人間の軍勢じゃねえな!」


 ダリウスは歯を食いしばる。


 敵はまるで生きた嵐のように、陣形を持たずに押し寄せてくる。かと思えば急に引いたり、意表をついたような動きを繰り返していた。


 だが、彼はその混乱の中でこそ輝いた。


 槍を短く持ち替え、斬撃を受け流し、反転して相手の背を狙う。


「隊列崩すな! 前へ押し出せ!」


 リューン隊が応じ、騎馬が再び前進。


 その勢いで魔王軍の第一陣が大きく弾かれ、突撃の勢いが鈍る。


---


 一方そのころ――。


 リューンは野盗の本隊を相手に戦線を指揮していた。


 剣を振るう手を止めずに、遠方を見やる。


 砂煙の向こう、丘の側面で閃光が走る。


 銀の旗と黒い旗が交錯していた。


「……魔王軍!? なんてことだ……!」


「ダリウス殿が迎撃しています!」


「よく動いた……! まったく、先に気づくとは!」


 安堵したのも束の間、前線が再び揺れた。


 野盗たちは退かず、むしろ焦燥に駆られたように突撃を強めてくる。


「くそっ、三つ巴か……!」


 リューンは即座に判断し、声を張り上げる。


「隊列を保て! 左右に散るな、中央を固めろ!」


 しかし砂煙は視界を覆い、敵味方の境界が崩れ始めていた。


 砂の匂いに、鉄と血の臭いが混ざる。


---


 ダリウスの戦場では、なおも火花が散っていた。


 丘の斜面に沿って、魔王軍と人間の騎兵が幾重にも入り乱れる。


 魔王軍の剣が空を裂き、紫の閃光が走る。


 地面が焼け焦げ、砂が熱で黒く変わる。


「おいっ、右の魔法兵を狙え! 詠唱止めろ!」


「了解ッ!」


 矢が放たれ、炎を纏った魔法兵の腕を貫く。


 爆発が抑えられたが、すぐに別の兵が詠唱を引き継ぐ。


「チッ、連携が速ぇ……!」


 それでも怯まず、ダリウスは前へ出る。


 敵の刃を受け、押し返し、また踏み込む。


 血と砂が混じり、呼吸が熱を持つ。


 視界の端で、自軍の馬が転倒する。


 リューン隊も精鋭ぞろいだが、元々この分隊は伏兵として配置されていたため弓や魔法による攻撃を得意とする者たちが集められていた。


 そこに、この肉薄しての戦闘は得意分野ではなく、屈強な魔王軍相手には分が悪いと言わざるを得なかった。


「副長、これ以上は持ちません!」


 魔王軍は数こそ多くはないが、それぞれが強兵であり、四つ足や翼の生えた相手もいるため、一筋縄では行かない相手だった。


「ダリウス殿!」


 部下から報告を受けたこと副長がダリウスに指示を仰ぐ。


「まだだ! ここで押し返さなきゃ、リューン隊の本隊が潰される!」


 敵の刃を弾き、体を回転させながら反撃。


 渾身の一撃で魔王兵の鎧を割り、斬り伏せる。


 その瞬間、背後で紫の光が爆ぜた。敵のの魔法兵による攻撃だ。


 熱風が髪を焦がす。


 彼は地面に転がりながらも、すぐに立ち上がる。


「……やるじゃねぇか。だが俺も負けてられねぇ!」


 血を拭う暇もなく、再び剣を構える。


---


 同時刻、前線のマーリスは剣を振るいながら背後の爆音に顔を上げた。


 砂の向こう、黒い旗が翻るのが見えた。


「……後方が騒がしい? なんだ……?」


 そこへ伝令が駆け寄る。


「報告! 背後に魔王軍出現! ダリウス殿が応戦中!」


「……! でも今はここを退けない!」


 マーリスは目の前の野盗を斬り伏せ、息を整える。


「今は前を守る。ダリウスを信じるしかない!」


 剣を握る手に力を込め、再び前へと踏み出した。


 白銀の鎧が砂に汚れ、それでも光を反射する。


---


 戦場はすでに秩序を失っていた。


 野盗の怒号、魔王軍の咆哮、人間の号令。


 三つの音が絡み合い、荒野に轟く。


 砂が舞い、空気が熱を帯びる。


 誰が敵で、誰が味方かさえ曖昧な世界。


 その中で、ダリウスの叫びだけが鮮烈に響いた。


「来いよ、化け物ども……! 俺はここだッ!!」


 剣を振り下ろす。


 砂煙が爆ぜ、赤黒い閃光が交錯する。


 平野を覆う混沌の中、リューン隊の旗が、まだ風に翻っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。