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レオンの到着③

<作戦会議>


 国境砦の奥、石壁に囲まれた作戦室。


 厚い扉を閉めると、外の喧噪は遠のき、静寂が満ちた。中央の大きな机には羊皮紙の地図が広げられ、駒や石で各地点が示されている。窓から差し込む春の光が、地図の上を淡く照らしていた。


 レオンは周囲を見渡した。


 自分の仲間であるエレナ、カイル、シルヴィア、そしてダリウス。


 向かいには、バルヴェルクの客将リューンと、その副官、同行しているマーリス、さらにその妹で王宮魔術師のミレイユが並んでいる。緊張と静寂の中、紙の擦れる音が一つ響いた。


「判明しているアジトの位置はこのあたりだな」


 カイルが指で地図の一点を示した。森と谷の境目、細い街道沿いに赤い印がある。


「ふむ……その辺り、覚えがありますな」


 リューンが顎に手を当てる。


 いつも柔らかい口調の彼だが、その眼差しには鋭い光が宿っていた。


「実はその近辺で、我々も野盗と小競り合いをしました。妙に統率の取れた連中で、装備も統一されていた。どうにも裏があると思っていたところです」


「つまり、その一味が密輸組織の手先――そういうことですね」


 レオンが頷く。リューンの言葉により、彼らの追っていた線が一つに繋がった。


「場所は掴めている。それなら問題はどう攻めるかね」


 エレナが腕を組む。


 彼女の視線は地図の上を真っ直ぐに貫き、その目には戦場を想定する冷静さがあった。


「潜入が目的なら、陽動を立てるべきですな」


 リューンの声が落ち着いて響く。


「正面から全軍で向かえば、相手は逃げるだけ。ですが、少数で襲撃するように見せかければ、敵は“迎撃できる”と勘違いする。そうなればこちらの思う壺です」


「なるほど……しかし、危険すぎるのでは?」


 カイルが眉をひそめた。


「伏兵を潜ませておきます。敵が食いついた瞬間に包囲できるように。危険は最小限に抑えましょう」


 あっさりと言ってのけるリューンに、エレナは苦笑した。


 大胆というより、確信に満ちた声だった。


「潜入といえば夜が普通だと思ってたけど……夜間行動はしないの?」


「いや、あえて昼間に行う」


 リューンは地図を指し示しながら説明する。


「この辺りは岩場と谷が多く、夜は霧が出る。騎馬は足を取られやすく、音も響く。逆に昼なら見通しが利くし、敵もまさか白昼に侵入されるとは思わない。意表を突けるでしょう」


「確かに……」


 シルヴィアが地図を覗き込み、小さく頷く。


「光魔法で太陽の反射を利用すれば、相手の目を眩ませることもできますね。見た目以上に攪乱できそうです」


「おお、鋭いお嬢さんだ」


 リューンの口調はどこか嬉しそうだった。


「では、陽動はリューン殿の部隊で。その間に我々が潜入する、という形でよろしいですね」


 レオンの言葉に全員が頷く。


 リューンは少し笑みを浮かべて言った。


「できれば、連携のためこちら側にも協力してくれる方がいれば助かるのですが」


「我々でそちらに加わるなら……」


 エレナが一瞬レオンを見、すぐにダリウスへ視線をやる。


「ダリウスね」


「ダリウスだな」


「ダリウスさんですね」


 三方向から名が挙がった。


「俺かよ……まぁ、暴れる方が性に合ってるけどな」


「有名な傭兵殿に加勢してもらえるとは、心強い限りですな」


 リューンがにやりと笑う。


 ダリウスは頭を掻きながら「しゃーねぇな」と肩をすくめた。


「私はリューン隊に同行します」


 マーリスが言葉を挟む。


「これまでも連携を取ってきましたし、動きは理解しています」


「白銀殿も一緒とは、我らの士気がさらに上がりますな」


「ちょ、ちょっと! その呼び方やめてくださいってば!」


「でも似合ってると思うわよ、白銀さん」


 エレナの悪戯っぽい笑みに、マーリスは真っ赤になった。


 レオンもつい吹き出す。


「頼りにしてるよ、白銀殿」


「もう! レオン様まで!」


 部屋の空気が一瞬和らぎ、緊張がほどけた。


 そのとき、リューンが隣の少女へ視線を移す。


「さて、ミレイユ殿はどうしますかな?」


「もちろん行きます!」


 元気よく答えるミレイユ。

 その勢いにレオンは思わず苦笑した。


「えっ、本気か? 危険だぞ」


「問題ありません!…魔法兵の訓練も受けていますから」


「いや、“受けた”って言われても……」


 ダリウスが頭を抱える。

 ミレイユはむっとして胸を張った。


「失礼ですね、火球くらいは真っすぐ飛ばせますよ」


「王宮魔術師なんだから当たり前でしょ……」


 エレナが小声でぼやく。


「本当に大丈夫なのか?いや、俺が口を出すことじゃないかもしれないが……よし、ダリウスがしっかり守ってやれよ」


「おいおい、護衛ミッションまで追加かよ」


「よろしくお願いしますね、ダリウスさん」


 それを聞いて、全員の肩から力が抜けた。


 リューンが軽く笑って締める。


「では――我々が正面で陽動を行い、敵を引きつける。その隙に聖騎士殿たちが内部へ潜入。合図は狼煙で。昼の空なら、すぐに見えるはずです」


「了解した。ダリウス、連携は任せる」


「ああ、任せろ。こっちは派手にやるさ」


 シルヴィアが静かに言う。


「私たちは静かに忍び込む方ですね」


「ええ、静かに……できるなら、だけど」


 エレナが小さく笑う。


 レオンは全員の顔を見渡し、静かに言った。


「被害は最小限に。目的は情報と救出。無理はしない。それぞれの持ち場で最善を尽くそう」


 マーリスが頷き、ミレイユは元気よく敬礼する。

 窓の外では春の陽光がまぶしく輝き、これから彼らが挑む昼の作戦を象徴しているかのようだった。


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