魔王城の人たち⑥
ピクニック準備
魔王城の厨房は、いつになく賑わっていた。
普段は薄暗く静かな空間だが、今日は湯気と匂い、そして笑い声が立ち込めている。
「ってことがあったんですよ」
フローラは鼻歌交じりにパンへ具材を挟みながら、フェンリルと行った“視察”の話をしていた。
包丁を動かす手も軽やかで、切りそろえられていく野菜がサンドイッチに並んでいく。
「それは……大変でしたね(フェンリルさんが)」
隣で黙々と調理していたフィーネは、心の中でだけ同情を漏らす。
先日のブチ切れ騒動は嘘のように落ち着いていたが、その分調理にかける集中力が凄まじい。包丁のリズムは無駄がなく、具材はすべて均一に切りそろえられている。
「ちゃんと栄養バランスも考えなければいかんぞ」
背後から低い声が響く。
ガルドが、巨大な体に似合わぬほど器用な手つきで肉を煮込んでいた。真面目そのものの声音に、フローラは「はーい!」と明るく返し、フィーネは「承知しました」と硬く頷く。二人の温度差が妙に笑いを誘った。
「それにしても、ずいぶんと参加者が増えましたね……」
フィーネが山積みになった食材を見やりながら小さくつぶやく。
「みんなヒマしてたみたいで、声をかけたら『行きたい!』って人ばっかりだったんです」
フローラは嬉しそうに答え、両手で山盛りのパンを持ち上げた。
「ガルドさんは行かないんですか?」
「留守番も必要だろう」
ガルドが淡々と補足するが、弁当箱に収まりきらない具材の多さが、大所帯になることを否応なく物語っていた。
扉が静かに開かれた。
「ガルド〜!なんか食うもんある?」
おずおずとルシアンが入ってくる。フィーネは眉をひそめた。
「また負けたんですか」
「うっ……まぁ細かいことは気にすんなって!」
軽口を叩きながら、サンドイッチに手を伸ばすルシアン。
「ダメです!これは明日のピクニック用です!」
フィーネの手が素早く動き、パシンと彼の手をはたいた。
「ちぇー、ケチ」
「スープの残りならそこにあるぞ」
ガルドが指差した鍋から、香ばしい匂いが漂う。
「お、いいね……クレソン入ってないよね?」
ルシアンの真剣な確認に、ガルドが少し呆れながら答える。
「今日は入ってないな」
「よっしゃあ!」
満面の笑みでスープをよそい、嬉しそうにすすり始めるルシアン。先日は苦手なクレソンを残してガルドにこっぴどく怒られていた。
「ルシアンさんも参加でしたよね?」
フローラが問いかけると、彼はスープを抱えたまま胸を張った。
「もちろん!ヒマしてる部下たちも連れてくよ!」
「ルシアンさん達が一緒なら安心ですね!皆さん強いですし!」
「任せとけ!すべてダイスで解決してやる!」
「……そこが一番不安なのですが」
ジト目でフィーネが呟くと、厨房は笑いに包まれた。
こうして魔王城の厨房は、戦場ではなく宴の準備場のような活気に満ちていった。




