魔王城の人たち④
ロキの報告
「そういえばゼノ様、ラグノールの件でご報告が――」
フィーネを抑えることから開放されたロキが、ゼノの前で軽やかに一礼する。彼はそもそもこのために執務室に来たのだった。
「お、動きがあったか。……ってまさか、また吟遊詩人みたいに歌い出すんじゃないだろうな」
ゼノは眉をひそめる。前回の“謎の吟遊詩人報告会”は胃に悪かった。
「まさか! あれはもう封印しましたよ」
ロキが涼しい顔で言い切る。
ゼノは安堵して椅子の背に沈み込むが、その横でレミが首をかしげる。
「吟遊詩人風の報告ってなに? 見たかったなぁ~」
ゼノは華麗にスルーした。
「それじゃあ報告を頼む」
「かしこまりました。では――」
ロキがパチンと指を鳴らす。すると、どこからともなく部下たちが雪崩れ込んできて、大きな板や布を担ぎ込み始めた。
「……は?」
執務室の机の横に舞台の書き割りが立ち、幕が垂らされ、松明の明かりまで灯される。あっという間に即席の劇場が完成した。
「今回は……舞台劇仕立てでご報告いたします!」
「おいぃぃ!!」
ゼノが机を叩くより早く、伴奏のリュートが鳴り響いた。
「かくして、魔王軍の勇士たちはラグノールの荒波を越え――!」
朗々と語り始めるロキ。その背後で部下たちが寸劇を繰り広げる。
大柄な部下がヴォルク役を演じ、舞台上の船の模型を「おりゃあっ!」と真っ二つに割った。書き割りがガラガラと倒れ、ゼノの机まで巻き込みかける。
「ちょ、やめろ! 執務室壊すな!」
次はリリス役の部下が魔法の変わりに爆竹をばらまき、ドーンと派手な爆発音。
「おいあぶねぇって!」
煙が充満し、ゼノが盛大に咳き込む。
そして舞台に登場したのは――
「現れたのは、美しき謎の女剣士!」
女剣士役の部下が黒髪のカツラをなびかせ、華麗に剣舞を披露する。動きはやたら洗練されていて、ずいぶんと麗しい。
「誰なんだろ……気になる!」
レミは劇に見入っており、目を光らせながら物語を観ている。
劇はその後も快調に進み、囮作戦や拠点での激戦、ボスとの戦いまで描き切ると、最後は全員でカーテンコール。
「以上、魔王軍の勝利の記録でした!」
「……ロキ」
「はい」
「なぜこの情熱とクオリティを他に活かそうとしない?」
「お褒めに預かり光栄です!」
「褒めてねぇ!」
レミは手を叩いて大喜び。
「すっごく楽しかった! ヴォルクおじさんが船割るとこ最高!」
ゼノは腕を組んでつぶやく。
「あんなことできたのか……?」
「あ、ヴォルク殿が船を真っ二つにしたのは脚色ですね。劇を盛り上げるためです」
「おいおい、そりゃそうか……じゃあリリスは?」
「リリス殿が港を爆破したのは事実です」
「何やってんだアイツ……!」
「女剣士は何者なんだ?」
「クラリスという者らしいです。流浪の剣士とか」
「クラリス!? なんであいつがラグノールに……しかもヴォルク達と?」
ロキは涼しい顔で、懐から数枚の紙を取り出す。
「なお、こちらが報告書です。詳細はここに」
「最初からそれ見せろよ!!」
ゼノの絶叫が執務室に響き渡った。
「でも劇のほうが楽しめましたでしょう?」
「楽しかったー!」とレミが笑顔で拍手。
「いや……俺は楽しくない……胃が痛ぇ……」
ゼノはこめかみを押さえ、机に突っ伏した。




