魔王城の人たち③
フローラ、ピクニックを提案
執務室の扉を開けた瞬間、フローラとレミは思わず目を丸くした。
「……なにこれ」
そこに広がっていたのは、謎のカオスだった。
鎌をぶん回しながら暴走するフィーネ。
必死に羽交い締めして「落ち着け!」と叫ぶロキ。
そして椅子に腰掛け、胃薬をあおりながら虚ろな目でチルアウトしている魔王ゼノ。
「ゼノ……あなた、フィーネちゃんに何をしたの?返答次第じゃただじゃ済まないわよ」
フローラが机までずんずん歩み寄り、ゼノを射抜くように睨む。
「ちょっ……俺は何もしてねぇって!冤罪だって!」
ゼノは完全に腰が引け、視線を逸らすばかり。
そんなやりとりの最中、フローラは机に置かれていた薬瓶に気づいた。
「これは……?」
「あー、それ魔王薬だね」
レミがジト目で肩をすくめる。「粗悪品。フィーネが見たら絶対キレるから隠してたんだけど……誰かが持ち出したみたいだね」
「ロキさん離してください! 私は首謀者を必ず断罪します!」
フィーネはロキの拘束から必死にもがき、大鎌をギラリと光らせる。
(……俺、魔王だよな? なんでこんなにビビってんだ)
ゼノは心の中で自分の立場を疑った。
「で、魔王様はどうするの?」
レミが冷ややかにゼノへ視線を投げる。
「いやいや、お前こそ助け舟出してくれよ!」
「いやぁ、私もアイデアないかな……こんなフィーネを見るの初めてだし」
ゼノが情けない声を上げるが、事態は収束の気配を見せない。
そこで、フローラがパンッと手を叩いた。
「はいはい! こういうときこそ外で気分転換です!」
「は?」
フィーネの動きが一瞬止まる。
「ピクニックですよ! お昼を外で食べましょう! ちょうど気候もいいですし、城の裏の丘でも少し遠出でも……きっと気持ちいいですよ!」
フローラは満面の笑顔で場の空気を塗り替える。
「そんな暇が……」
フィーネは時間がないというばかりに鎌を振り回そうとする。
「イライラしてるときこそ自然に癒されるんです!」
フローラが一歩踏み込むように畳みかける。
「いいなそれ! 俺も行きたい! よし、ピクニックだ!」
ゼノは即座に乗っかる。心の奥底はフィーネの怒りから逃げたい」でいっぱいだが、それはおくびにも出さない。
「私はやりたいことが……」
渋りかけたレミも、フローラのキラキラした視線に射抜かれ、「……はぁ、仕方ない。行くよ」と折れる。
「じゃあ他の留守番してる人たちもみんな誘いましょう! フィーネちゃんも、そんな物騒なの持ってちゃダメですよ」
フローラはフィーネの鎌をひょいと取り上げる。
「準備がたくさんあるんですから」
「ピクニック……準備……!……はっ!じゃあ食事や荷物をまとめなくちゃ!」
仕事を振られたことでスイッチが入ったのか、フィーネは怒り顔から真顔に戻り、いそいそと準備に走り出す。
フローラも「私も手伝いますね!」と軽やかに続き、二人は執務室を後にした。
静寂が戻った室内で、ゼノは机に突っ伏す。
「……何だったんだ、今のは」
「今回は胃が痛くならずに済んだんじゃない?」
レミがニヤニヤとしながら言う。
ロキも無言で肩をすくめている。
「いや、もう十分痛いから……ラグノールの件もあるってのに……」
ゼノの呻きが、執務室にむなしく響いた。




